第14話 成功する子供たち(サクセス・チルドレン)

 0歳教育。妊娠が発覚する、生まれる前から教育を受けたエリートな子供たち。彼らは、大きな特徴が三つあり、一つ、英才教育を受けた。一つ、生まれる前から彼らの証券口座を開設され、20年間インデックス投資を続けた。一つ、年収が700万円である。などが上げられる。


 結婚した裕福な夫婦は、国にエリート申請をする。国が認可したサクセス・チルドレンは、0歳教育を受け、胎児になる前に証券口座を開き、20年で5000万円を入金し、二十歳になるころには1億円が貯められるようにされている。また、サクセス・チルドレンは高校生になった瞬間、(正確には飛び級で16歳までに高等教育の授業を終えている時に)働くことができる。年収は700万円。国の血税なので本来もらえる年収より低く見積もられているが、科学的に、幸福が最もピークになる年収を算出し、支給される。


 ミサキは18歳。働き始めて、三年目だった。


 サクセス・チルドレンが生まれた背景には、日本の成長低迷や人口減少などがあげられる。少子高齢化を防ぐために生まれたのが、引きこもり救出作戦であり、現場で落伍者に教育を施すのがサクセス・チルドレンだ。


 サクセス・チルドレンの中には自分がエリートとなって米国を代表するGAFAMに追随するような企業の起業を目指している者もいる。なにぶんサクセス・チルドレンが生まれて歴史が浅いため、大企業の社長になったものは、まだいない。けれども、ベンチャービジネスを立ち上げ、起業したものは何人もおり、彼ら起業家は資産1億円と年収700万円に満足せず、まい進を続ける者たちだった。


 あるものは、医者、弁護士、パイロット、税理士、大企業の役員、政治家、官僚を目指し、エリート街道を進み、年収1000万円から2000万円を目指した。あるものは、起業家になり、冒険に満ちた人生を進み、年収1億円以上を目指した。あるものは、少子高齢化を解決するために、落伍者を救う教育者に転身した。年収700万円でも誰かを救うことがやりがいだと感じた。


 ミサキは一番最後の、教育者を目指した。教育は人を救うものだと信じた。この三年間で多くの落伍者の家に訪れ、たくさんの人物を救ってきた。


 だからミサキは強い。中学校の義務教育で、すでに高等学校三年分の勉強を修了し本をたくさん読んだ。生まれる前からエリートになることを義務付けられ、半端ないストレスと戦いながら、自身が日本を変える存在になる、と奮い立った。他のサクセス・チルドレンと戦いながら、教育者になるための試験や試練を勝ち残り、引きこもり救出作戦の家庭教師に選ばれた。


 凄すぎる。親の頑張りもあるけれども、弱冠18にして1億円の資産を持っていた。他のサクセス・チルドレンは20歳になるころに1億円を貯められるシミュレーションだったのに、ミサキは二年も早く1億円を貯めていた。


 幼少からありとあらゆる教養を学んだ彼女は、大学に行く必要がなかった。大学の教授よりも多くの本を読み、多くの資産を持ち、いつでもセミリタイア可能で、大学の教授の平均年収である1000万円にちょっと落ちる程度の、年収700万円を、中卒の時点で稼ぐことができた。国家公務員だった。


 サクセス・チルドレンは、お金を守る面でも優れている。


「ハカドルさん、こんな話は聞いたことがないですか? 宝くじを当てた億万長者は不幸になる人が多い、と」


「聞いたことがあります」


「アメリカのプロバスケットボーラーの中にも引退後に何億円もの資産を築きながら破産した人が何人もいます」


 お金は使うとなくなる。1億円あっても1年もあれば使い切ってしまう。そして、浪費した後は、高くなった生活水準を戻せずに破産してしてしまう。ミサキは当たり前のことを説いた。


「稼ぐお金以上に消費や浪費に回してしまうと、借金になります。収入-支出=借金です。こんな簡単なことを理解するだけでも立派な大人です。逆に、お金が貯まる、お金持ちになる人は、支出よりも収入が上回ります。収入-支出=資産になります」


「収入よりも支出が上だと借金。収入よりも支出が下だと資産……」


 ハカドルはメモを取った。丁寧に、丁寧に。


 ミサキはノートを見せる。


「欲望に優先順位をつけてください。一番欲しいものを買い、あまり欲しくないものを、見栄とか自慢とかするために買わないでください。意外とこれができていない人が多い。自分の収入以上にお金を使います、借金をしてまで。だから宝くじを当てた人や破産したプロスポーツ選手が貧乏になるのです。彼らは一同に、収入以上に多くの支出を続けた人です」


 お金の浪費家を、金融リテラシーが低い人、と呼ぶ。逆に、サクセス・チルドレンは全員が金融リテラシーが高く、まずいお金の使い方をする人は一人もいなかった。お金の勉強をしているからだ。


 なるほど、と頷きながら聞くハカドル。


「親から借金してパチンコをやっている俺は、金融リテラシーの低い人ですね?」


「そうです。だからハカドルさんは、無理にギャンブル依存症を治すのではなくて、早く月に10万円を稼いでください。月の支出よりも多い収入を目指すのです」

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