第13話 自己投資

 最大の自己投資は本を読むことである。本を読めば人生が変わる。もちろん人に会ったり、旅に出たりすることも自己投資であり、数万円する豪華なディナーを体験したり、美術館で芸術に触れあったりするのも立派な自己投資だ。けれども、手軽さでいえば、本よりも手軽にできる自己投資は存在しない。


 ミサキから出された宿題は、本を買うことだった。


「月に10万円分の本を買って読んでください」


 ハカドルは本屋のバイト代と親の仕送りから10万円をねん出した。そして、月60冊の本を買うために、毎日2冊の本を買った。


 来る日も来る日も本を買い続け、読書に耽った。


 最初に読んだ本は、ミサキから紹介された、『お金は寝かせて増やしなさい』だった。マンガ版もあったため、二冊購入した。投資の何たるかを知るのにちょうど良かった。投資の王道は、インデックス投資である。世界水準のスタンダードな投資法であることを知った。


 ミサキは次のようなことを言っていた。


「本だけ読む人は、ノウハウコレクターといってバカにされます。知識だけをためて実践しない人のことです。ノウハウコレクターになってはいけません。知識<行動、です。行動の方が優位にきます。今すぐ読んだ本の内容を実践してください」


 ミサキに言われた通り、本の内容を精査して、行動を開始した。具体的には、インデックス投資を始めることにした。


 毎月1万円。VTIを……楽天・全米株式インデックスファンドを1万円ずつ購入することを試した。これは、厚切りジェイソンさんのおすすめの方法であり、確実な方法だ。嫌になれば、売ればいい。失敗したら、失敗したことを反省し、別の道をとればいい。全米がダメなら、S&P500でもオールカントリーでも乗り換えればいい。


 毎日の読書の中で、こう書かれていた。


 ――凡人は失敗を恐れる。だから成功できず凡人のままなのだ。


 絶対に失敗しない方法は、チャレンジしないことだ。成功者や大富豪ほど10~20回の失敗をし続け、やっとのことで成功している。元大統領のトランプさんでさえ、何回も破産している。


 安定を求めるのは変わらない人生を延々と繰り返すこと。もし日常に嫌気がさしたならば、変わるチャンスだ。仕事を変えるか、住む場所を変えるか、人脈を変えるかをすればいい。そうすれば、どんどん変わっていく。チャレンジすることで、人生が楽しくなる。


 ハカドルは受動的だった。凡人だ。けれどもミサキに出会い、変わった。○○教授に、人を動かす、と神話の力、を紹介してもらい、本が好きだった。もちろん今までも本は好きだったが、ラノベだけだった。ライトノベルだけだったハカドルの人生に自己啓発書やビジネス書が加わった。毎日、二冊の本を読む。読書がどんどん好きになっていった。


 毎日の読書課題には小説も含まれる。芥川龍之介、夏目漱石、太宰治、森鴎外、三島由紀夫、などなど。海外はドストエフスキー、ディケンズ、ゲーテなどを読んだ。


 一か月におよぶ月60冊10万円分の読書課題をこなし、一万円のインデックス投資を行い、ハカドルの自己肯定感は爆上がりした。自己啓発書やビジネス書を読み漁った結果、みんな同じようなことを言っている、と気づいた。


 本を読みなさい(勉強)、実践しなさい(行動)、毎日コツコツやりなさい(継続)だ。


 まさか、勉強、行動、継続がここで証明されるとは思わなかった。ほとんどの本はこの三つの大事さを何度も何度も伝えている。


 勉強、行動、継続の大切さに気づいたことをミサキに伝えた。ミサキは誉めてくれた。


「そうですよ。読書はすごいんです。成功者の中で読書家じゃない人を見たことがありません。もちろん、ユーチューバーのヒカルさんや元お笑い芸人の島田紳助さんは読書をしません。けれども彼らは、本を読む以上に人に会いまくって知識を吸収しているんです」


「本を読むか、人に会うか、旅をするかの違いですね」


「はい。人に会うのと、旅をするのは、限られた天才しかできません。今から芸能人や金持ち10人に会って雑談してください、と言われても、なかなか難しいでしょう。けれどもハカドルさんは月に60冊を読むという課題をクリアされました。引き続き頑張ってください。目安は1000冊です」


「1000冊ですか……?」


「はい。正直、自己啓発書やビジネス書100冊読んでも何も変わりません。しかし、1000冊を超えてくると変わり始めます。ハカドルさんは、読書家で貧乏な人を見たことがありますか?」


「見たことがありません」


「私もです。読書をして貧乏になった人を私は見たことがありません。読書家は裕福な人が多い。統計データもあります。ユーチューバーのひろゆきさんは、100冊読むくらいなら睡眠時間を増やした方が良い、と結論を出されています。確かにそうですね。睡眠は大切です。でも、1000冊読んだら、もっと変わりますよ」


 ミサキは1000冊以上読んでこその完璧超人だった。


 ハカドルはミサキの過去が知りたくなった。自分も、ミサキみたいになりたい、と思った。ミサキがどうやったら、ミサキ足り得たのか。教師と生徒という立場を利用して、ハカドルが質問した。


 答えが返ってくる。


「私たちは『成功する子供たち(サクセス・チルドレン)』と呼ばれています。生まれる前から人を導くための教育を施されてきました」


「サクセス・チルドレン?」


「はい。生まれながらに成功を約束された子供たち。0歳教育を受け、生まれる前からインデックス投資を義務付けられ、日本の中心に、もしくは、日本を背負って立つ人材を育成するために生まれたエリート集団です」


 なんとミサキは生まれた瞬間、エリートになるか、エリートを教育するかの立場にあったらしい。彼女は、引きこもりを救出する仕事を選んだ。成功を約束された子供たち。彼らは、18歳にしてインデックス投資で1億円以上の資産を築き、全員がFIRE可能の域に達していた。

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