第12話 投資と副業

 思い出したハカドルは、本屋のバイトを始めて一日目の終わりに逆戻りしていた。ミサキから言われた通り、本屋の、“お金を稼ぐ”コーナーを物色した。


 本好きのハカドルは、無数のライトノベルを読んできた。ラノベは基本ジャケ買いと呼ばれる、表紙だけを見て好印象を得た作品を購入する方法を選んだ。それ以外でも友達の紹介やネットの評判、メディアミックスのアニメから触れて、原作の小説を買ったこともある。


 とにかく大事なのは、読みまくること。


 当たり本は、10冊に一冊だと言われている。いや、本屋大賞ランキングとかアニメおすすめから入れば、ほぼ確実に当たり本を掴めるかもしれない。しかし、流行の本が自分にぴったりの――心に刺さる――本だと限らない。結局は、10冊読んで初めて自分にぴったりの一冊をゲットするのだ。


 だからハカドルは毎日、ラノベを読んできた。最高の物語を堪能するために、書くために。


 ラノベで得た奥義……いわゆる流行を読む力は、自己啓発書やビジネス書にも生かされる。


 書棚をパッと見ただけで旬の情報が丸わかりになる。特に、“お金を稼ぐ”コーナーを見た時には、驚いた。


 なんと、大別して、二つのジャンルしかなかったのだ。


 一つは、投資。株やFX、仮想通貨や不動産など。


 もう一つは、副業。ブログやアフィリエイト、YouTubeなど。


 大きく分けて二つしかない。この中に、ギャンブルで稼ぐという本は存在しなかった。パチンコ系の雑誌はあったが、お金を稼ぐ、ではない。つまり、本屋の書棚は、ある結論を導いていた。


『パチンコやスロットなどギャンブルで勝つことは不可能だ』と。


 もちろん1%の人間は、ギャンブルで勝つかもしれない。それは宝くじで億万長者になるような人だけ。基本、99%の人はギャンブルで負けていた。加えて、アルバイトをやりなさい、と口酸っぱく言ってくる本は、一つもなかった。逆に、本屋の書棚は、こう証明している。


『投資や副業で稼ぐことは可能だ』と。


 つまり、投資や副業ならば99%稼げるのだと、分かった。


 ハカドルの取るべき行動は明白だ。投資系から一冊の本と、副業系から一冊の本を選び、実践し、月に10万円稼いでパチンコの足しにする。それだけだ。


 しかし、正解の本が分からない。上記したように、最高の一冊を見極めるためには10冊は読まなくてはならない。


 ここでミサキの言葉を思い出す。


『人に会いなさい』


 彼女の人生攻略ノートから丸写しした部分は、人に会う、だった。ならば、助言を得ることも可能だと考えた。確かに、○○教授に会い、最高の本を紹介してもらい、ハカドルはどんどん自己啓発書やビジネス書にハマった。次は投資や副業の本を紹介してもらうのだ。


「待て、待て、すぐに助けを求めるのはダメだ」


 最初、ミサキに聞くことを思いついた。確かに、あの完璧超人のミサキならば即座に最高の投資系と副業系の本を紹介してくれるかもしれない。しかし、それではダメだと思った。最初は、自分で考えて行動しなくてはならない、と踏んだ。


『本を読みなさい』


 何かがピーンと繋がった。見た目、意味のない点と点が、将来的に意味のある一本の線に繋がるように、今までのミサキの授業の教えが生きてきた。


 人に会う、本を読む、旅をする。勉強し、行動し、継続する。


 まず、ハカドルはスマホのネットを開いた。投資系のwebページを開き、おすすめ本を調べた。『投資 おすすめ』と入れると、無数の情報が羅列される。


「株か……」


 初心者におすすめ、株、投資信託、と意味不明な単語が並ぶ。


 ハカドルは父親が株をやっていたので、少しだけ知識があった。東日本大震災が起こった2011年。ハカドルが高校を卒業して浪人一年目を迎える時期に、父親に株をすすめられ、口座開設した。口座開設まではやった。しかし、自分は正社員になるものだと思い込んでいたため、お金を必要以上に欲しいと感じず、なんだか怖いものと考え、それっきり株に手を付けてこなかった。


 今こそ、株をやるべき瞬間。


 今度はスマホで、株の本を検索してみた。とりあえず初心者向けなのにした。


『株 本 初心者』と検索した。なんかいっぱい出てくる。分からない。


 観念して、人に聞くことにした。ミサキではなくて書店員さん。つまり、バイトの上司に聞いてみた。本屋の上司は、眼鏡をかけた黒髪の女の人で、結婚されていた。肌がすべすべで年齢はちょっと上くらいだった。一日一緒に働いた結果、生真面目な性格だと分かった。女子就活生が似合いそうな髪形をしていた。眉毛が見え、耳が見え、お辞儀をしても崩れない髪型だ。前髪は斜めがけで、ロングの髪を後ろでひとまとめにして、シンプルにしていた。第一印象が完璧だった。


 女性の上司に聞いた結果。分からない、だった。


 そりゃそうだ。日本人で株をしている人の割合は、2020年 ※設定上、小説内の時代は2017年だけれども魔法の力で未来が分かった 2020年の日本銀行調査統計局『資金循環の日米欧比較』によると、日本人の金融資産構成は、株式等が9.6%、投資信託が3.4%だった。つまり株について詳しい人は10人に一人、約10%しかいないと分かる。米国は、株式等や投資信託をしている人が半数近くいた。


「アメリカ人に聞けってことかーい!」


 まだまだ諦めきれない。今度はYouTubeに頼った。YouTubeは、『人に会う』と『本を読む』を同時に達成できる素晴らしい文明の利器。2017年の今だけれども、2021年の動画をたくさん調べた。魔法、魔法。


 結果、まったく分からなかった。


 ギブアップして、ミサキに尋ねることにした。帰宅し、ミサキが来る時間まで待った。今までの経緯を説明した。本屋に行くと、“お金を稼ぐ”コーナーは大別して二つしか存在しないこと、投資と副業であること、株であること、スマホで調べたこと、上司に聞いたこと、YouTubeで調べたこと。などなどを全て打ち明けると、ミサキは喜んでくれた。


「すごいじゃないですか! 100点です!」


 勉強し、行動したことをミサキは評価してくれた。本屋を指標に『儲かるのは投資と副業』、『単純労働……バイトをすすめる本はない』、『パチンコやスロット……ギャンブルをすすめる本はない』を発見しただけでも、かなりの高得点をくれた。


 月に10万円稼ぐのは、ただ働くだけじゃダメだ。きちんと勉強して考えて行動しなければならない。今回の宿題は、そう教えてくれた。


 ミサキが答えを言う。凄く優しい笑顔だった。


「正解です。私たちに出来ることは、投資と副業です。ハカドルさんは、特に、株とブログが向いています」


「株とブログ……?」


 株は怖いイメージがあった。ブログは古臭い感じがした。


 ハカドルは思ったことをそのまま口に出した。


「今どきはYouTubeやTikTokじゃないですか?」


「違いますよ、ハカドルさん。株で成功した人には、ある共通点があります」


・昔はパチプロをしていて期待値をよく理解していた

・ブログや本、匿名掲示板で株を調べまくった

・ブログや本、匿名掲示板で情報発信をしまくった

・勉強家もしくは読書家である


 CISさんやBNFさん、テスタさんなど何十億のお金を持っている投資家は、こんな共通点があった。


「ハカドルさんは株をやってください。パチンコは月10万円まで。そして、ブログで株日記をつけるのです」


「おお!?」


 ミサキと出会ってからハカドルの日常はどんどん進化していく。毎日一冊本を読み、健康に気を使い、毎日軽い運動をして、株をはじめ、ブログで株日記をつける。ハカドルはわくわくした。変わっていく。人生が変わっていく。思考が、プロセスが、行動が、習慣が、運命が、……くだらない人生が様変わりしていた。


 これからも続ける。人に会い、本を読むのだ。ハカドルは質問した。


「じゃあ、今、俺に必要な株の本は何ですか?」


「ふふ、それはですね、水瀬ケンイチさん著“お金は寝かせて増やしなさい”です!」

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