第11話 月10万円稼げば、毎日パチンコが打てる

 ハカドルは、7年間で、210万円。年間で平均30万円の負けを喫している。立派なギャンブル依存症。加えて、今年は50万円以上負けていた。買った月は、たったの一回。それも+4000円で終わった。負けた月は3万円から5万円の間。今月に限っていえば、まだ20日なのに7連敗の記録更新中で、10万円以上負けている。


 ということは、ハカドルの娯楽費は、平均して10万円は必要ということが分かってくる。家賃や食費、光熱費は親に出してもらっているので、それ以上にお金を稼げば思う存分、毎日のようにパチンコやスロットが打てるのだ。毎月10万、年間で120万円のお金を工面する必要が出てきた。


 働いている社会人ならば、月に10万円、年間120万円は立派な趣味代ともいえる。その趣味がパチンコやスロットというだけで、小説の肥やしになるならば、パチンコ代は必要経費と捉えた。ギャンブル依存症は苦しいのだ。たった10万、されど10万で苦しみから解放されるのであれば、お安いものだ。我慢、我慢を重ねてストレスをためるよりも発散した方が人生が豊かになる。ハカドルは死ぬまでパチンコ屋にお金を貢ぎ続けるカモの運命にあった。


 パチンコ=人生。スロット=生きる意味。なのだから仕方ない。


 もう、勝つことを諦めて、趣味打ちの世界で生きていくことを誓った。ギャンブル依存症がすごいアマチュアの小説家を育てるのだ、と信じて。


 さて、となれば、どうやって10万円を稼ごうか。


 ハカドルは、なんと、なんと、バイトをしていなかった。屑なので親からの仕送りだけで生活していた。まあ、もっとも、親からの月6万円の仕送りだけでは足りず、親に借金の催促に催促を繰り返し、200万円の借金をこさえてしまったわけだが。これからはバイトするように決めた。


 ミサキに相談すると、次のような返答があった。


「なるほど。大学生だからバイトをするのもありですね。でも、世の中には、もっと違った、お金を稼ぐ方法が無数に存在します」


 ハカドルは、サラリーマンになり、サラリーを得る方法と、バイトで稼ぐ方法しか知らなかった。あとは宝くじやパチンコなどのギャンブル系。でもギャンブルは最終的に必ず負けるようにできている。なので論外。結局は、答えは、単純労働に行きつく。


 社会人になるか、バイトをするか、その二択しか思いつかない。ハカドルがミサキに質問すると、ダメ出しを食らった。


「もっとたくさんありますよ。周囲をよく見てごらんなさい。周りの成功者を分析してみてください」


 分からない、と答えると、ミサキはヒントを出した。


「迷ったときは本を読むことをおすすめします。本屋さんに行って、“お金を稼ぐ”のコーナーを物色してみてください」


 今日の授業はこんな感じで終わった。


 後日、ハカドルは近くの大型本屋さんに行った。求人募集を見ると、アルバイトを募集していることが判明した。大型の本屋さんにアルバイトの電話をかけ、履歴書を送り、面接を受けた。ミサキは困った顔をするかもしれないが、ハカドルは本屋さんで働きたかったので、お金を稼ぐという問いに、アルバイトという答えで妥協した。もちろんミサキとの約束通り、本を毎日一冊読んだ。それもラノベではなくて、ビジネス書や自己啓発書を中心に読んだ。


 本屋のアルバイトは忙しかった。特に土日は大量のお客さんが流れ込んできて、午後一時から午後五時の四時間、ずっと拘束される。レジの仕事を延々とやり続けて、大学に通いながらも、ハカドルは7万円という給料をもらった。


「なんだ、これで正しかったんじゃないか。アルバイトは簡単だ」


 本屋の仕事は、レジを中心に、お客様の本を探したり、書棚の本を入れ替えたり、する。ポップを作る店もあるが、ハカドルのバイト先では、ポップなどは任意で作ることができ、結局はハカドルはポップを作らずにやめてしまった。


 本屋で勉強するつもりが本屋の住人になってしまった。本屋のアルバイトは楽しかった。大好きな本に囲まれて生活できるので、天職だと思った。給料も7万円もらえてパチンコもできて最高だった。


 ミサキの教えは忘れよう。……そう思った。


・忘れる

・思い出す


 目の前には二つの選択肢が現れて、一生を本屋さんで生きていこうと思った。


・忘れる ←

・思い出す


 YES,ENTER


 ミサキとの出会いをなかったことにする。ミサキから何か宿題を出されたような気もするが、もう気にしない。一応、毎日、一冊のビジネス書や自己啓発書を必ず読んでいる。くだらない。100冊読んでも何も変わらなかった。


・忘れる


 忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる。


 毎日が自堕落だ。バイトに行き、帰りにパチンコ屋に行って、お金を使い果たす。月に、平均5万円負けていた。10万円以上負けた時は、親にお金を工面してもらって散財した。大丈夫。本屋に行けば、毎月7万円手に入る。何か起これば親がいる、と思うようになった。


 もうこれで幸せだ。


 大学は中退した。日常はさらにむなしくなり、いつの間にか小説を書かなくなり、ラノベ作家になる夢を諦め、本屋のバイトをやめ、親の金だけで生活するようになった。毎日が家とパチンコの往復。パチンコをしている時だけが生きがいになった。親の財布からお金を盗むようになり、ケンカになって、家を追い出された。


 入院。


 ハカドルはギャンブル依存症になり、緊急入院し、人生を無為に過ごした。


BAD END




「もう一度やり直します」


 ミサキが魔法を使い、ハカドルが本屋のバイトに忙殺される直前まで、時間が巻き戻った。


 ハカドルの前に二つの選択肢があらわれた。


・忘れる

・思い出す


 今度は、思い出すことにした。


・忘れる 

・思い出す←


 YES,ENTER


「思い出した」


 ハカドルは、本屋さんに行って、“お金を稼ぐ”のコーナーを物色してみてください、と言われたことを思いだした。覚えている。自覚した。バイト以外でお金を稼ぐ方法を見つけるのだ。

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