第8話 本を読む
○○教授に会い、本を二つ紹介してもらった。
一つ目は、小説家になる為の本。神話の力。
二つ目は、人生を変えるための本。人を動かす。
ハカドルは大学の図書館の隅の方を陣取り、さっそく読書する。長年図書館に居座り続けているため、司書の先生とは顔なじみだ。いつもライトノベルを借りていくので、もしかしたら裏で、ラノベ(草)とバカにされているかもしれない。近年、ラノベやアニメに対する偏見は薄れつつあるが、まだまだ根強い。エッチな女の子の表紙のラノベは、大学図書館といえどもあまりなかった。
いつもラノベばかり読んでいたハカドルだが、今日は違う。図書館の検索から目的のものを探し、読みふける。さっそく人を動かすを借りて読んだ。
午後四時。感動してそのまま読破してしまった。
人を動かすとは、簡単に言えば、デール・カーネギーが、集めた偉人伝だ。
偉人の逸話をベースに、それぞれ、どういったシチュエーションでどのような行動を取ればよいかを研究している。
例えば、釣りの話がある。
あなたはイチゴが好きだ。しかし、魚は虫が好きだ。釣りをする時に、自分の大好きなイチゴを針につけるやつはいない。みんな魚が欲しいから、魚の欲する虫を餌につける。釣りはできていても、日常生活で、針に虫をつけることを意識する者はいない。みんな自分の好きなイチゴのことが気になって、イチゴの話ばかりをする。大事なのは、自分ではなくて相手が何を欲しているかだ、と。
相手の気持ちを考えて、相手の欲しいものを理解する必要がある。
ハカドルは人を動かすを読んだ時、「おお、そうか!」と心の中で、声を大にして叫んだ。当たり前のことがみんなできていなかった。
時間を見る。もうすぐミサキが帰ってくる。ハカドルは荷物をまとめて急いで帰宅した。
「課題をこなして、すごいじゃないですか」
ミサキが誉めてくれた。
今日は○○教授に会いに行き、本を紹介してもらい、『人を動かす』を読んだ。
「私も読みましたよ。人を動かす。他人から認められたいという感情は誰もが持っています。相手の誉めてほしい部分を見つけて、心から誉めた時、相手は、自分は重要な人物なんだ、と思い、動きます」
ミサキから、さすがです! すごいじゃないですか! と誉められてハカドルは嬉しくなった。脳内の快楽物質がドバドバ放出された。ギャンブル依存症によるドーパミンとは、また違った愉悦だ。
「相手を非難したり批判したりしてもいけません。キャバ嬢やホストがよくやるテクニックですね。お見事です、ハカドルさん。二重丸です」
今日のミサキは、人を動かすの話題に合わせているのか、まるでキャバ嬢みたいに上手に誉めてくる。特に、ハカドルが、人に会うと本を読む、の宿題をクリアしたのだから、ミサキの機嫌が良いように見られた。
「ではハカドルさん。今後、毎日一冊ずつ本を読むとして。最後の課題である、旅に出る、をやりましょう。明日は休みですか?」
「はい、休みです」
「ならば私とデートしてください。金沢の街を探索しましょう」
「ででで、デート!?」
……ど、ど、ど、童貞ちゃうし。
というような焦りを見せるハカドル。実際、童貞なので緊張が凄まじい。女の子と一緒の部屋で勉強するだけでも汗が出るのにデートとなるとハードルがガクッと上がる。いや、女の子と一人暮らしの家で二人っきりの方が難易度が高い気もするが、けれども、今は仕事上の関係。ただの家庭教師だ。もしハカドルが社会復帰できれば、引きこもり救出作戦は終わってしまう。
たった数日だけなのに、ミサキの出現によってハカドルの人生は大きく変わろうとしていた。
人に会う、本を読む、旅をする。加えて、毎日執筆することと運動することを義務付けた。
本一冊を二時間。執筆を一時間。軽い運動を一時間。たった四時間のルーティーンなのだけれども、ずいぶん人生が変わった気がした。あと、ミサキの授業を一時間。加えて、五時間。暇の多いハカドルには、五時間の習慣がちょうど良い感じの負荷になった。
ミサキが帰り際にこう言った。
「私、兼六園に行きたいです」
「ごくり」
明日はとうとうハカドルのデート編の突入。デート自体は、大学一年生の時に女友達と数回デートに行った経験がある。しかし、ずいぶん久しぶりで緊張した。しかも相手は女子高校生。いくら仕事柄、ミサキが仕方なくデートに行くことになったとしても、本当に緊張した。顔が真っ赤になった。手をつなぐこともキスすることもないんだろうけれども、変に期待してしまう。
果たして近場の兼六園に行くだけで何が変わるのだろうか。変な緊張とワクワクを混ぜながら、夕食のレトルトカレーを食べ、歯を磨き、トイレをすまし、ハカドルはゆっくりと就寝した。明日に着る服は、気合を入れることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます