第7話 人に会う
平日の昼間。ハカドルはミサキから出された課題をこなしに久しぶりに大学の敷地を踏んだ。私大文系とバカにされるかもしれないが、学費が高い分、環境が整っている。教授や准教授も全国レベルと比較すると水準が高く、東大や京大、慶応や北海道大学などを卒業した超一流の者が集まっている。もちろん金沢なので、金沢大学を卒業した教授もいる。なんか、上から目線で先生を紹介してしまった。本当に申し訳ない。一流の教授陣とハカドルは、月とスッポン。落ちこぼれは、月をバカにしたがるのだ。反省する。
今日は、元ゼミの教授に会いに、アポイントメントを取ってみた。二年生、三年生のときにお世話になった北大卒の教授で、名を〇〇という。
○○は、ゼミ生思いの優しい教授だった。悪く言えば、ほったらかし。良く言えば自主性を重んじる。○○は、東京にゼミ旅行に行った際、ゼミ生を自由行動にした。
ハカドルは気の合わないゼミ生と東京ディズニーランドを堪能し、帰りにパチンコ屋に寄った。6万円勝った。○○の自主性を重んじた教育のおかげだ。そういえば、大学で唯一できた友達も○○のゼミ生だった。
大人になって分かったことがある。小学校も中学校も高校も大学も、あんなに仲の良かった先生は、結局は仕事だから仲良くなったのだ。もしかしたら嫌々ハカドルに親しくしてくれたのかもしれない。社会に出て、仕事(ハカドルの場合、バイト)をし、お客さんと仲良くなるなんて一つもなかった。教員とは、生徒を導くものであって、友達になることじゃない。問題児だったハカドルは、嫌々接触されていたのかもしれない。
と、話が長くなった。
結局は、仲の良かった○○とも最後はあっけなく別れてしまったのだが。この時はそんなこともつゆ知らず。久しぶりに○○にアポイントメント、連絡を入れ、会っていただくことになった。
正直、まったく会いたくなかった。くだらない卒論を提出し、○○に激怒されたことを思い出す。大学の卒論は苦しんだ。特に、ハカドルの場合、留年することが決まっていたので、卒論を先送りする予定だった。来年する卒論を、急遽、今年することになり、出来損ないの論文を提出してしまった。
卒論を提出した時期、祖父が死んだ。
因果関係はないが、毎日、卒論の直しをするために通学する中、仲の良かった祖父が死んだことを、はっきりと覚えている。祖父が死んだ朝は泣けなかった。葬式も泣けなかった。涙はでなかった。最悪だが、自分の人生に絶望していてそれどころではなかった。本当に最悪だ。
閑話休題。話を元に戻す。
○○とは1時間近く喋った。将来、作家になりたい、と言ったらバカにされた。でも応援もしてくれた。真面目に、ジョーゼフ・キャンベルの神話を紹介してくれた。タイトルは、神話の力、だった気がする。
ミサキからの課題は、人に会うこと、本を読むこと、旅をすること。これらを守るために、○○に会ったついでに他の本も紹介してもらった。
○○教授から紹介された本は、デール・カーネギーの『人を動かす』。
まさか、この出会いから、ハカドルは自分が、自己啓発書やビジネス書を年間100冊も読破することになるとは……夢にも思わなかった。
人を動かす、との出会いは衝撃的だった。
○○には30歳になった今でも感謝しても感謝しきれない。
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