第4話 ギャンブル依存症
ミサキのレクチャーは懇切丁寧だった。ハカドルが堕落し、ギャンブルに陥ってしまった理由は何だろうと考えた。
「いいですか、ギャンブル依存症という病気は一生治りません。まあ、治ることもあるでしょう。それはただ一つ。きっぱりとやめるだけです」
精神科医の意見を集めてきたミサキは、ハカドルに依存症の怖さを教えた。アルコール依存症、買い物依存症、薬物依存症、その中でも、まま怖いのがギャンブル依存症だ。治すには、きっぱりやめるか、破産して地獄を見るか、死ぬしかない。
ハカドルの場合、完全なギャンブル依存症だった。月6万円振り込まれる生活費をすべてパチンコとスロットに使っていた。ひどいときは10日で使い切り、親に金を催促していた。また、パチンコ屋に行くために授業を休んだことが何回も何十回もあった。ギャンブル依存症と精神的な病気がハカドルを留年させたのだ。
ミサキは、悪友と会うことを強く拒絶した。
「友達とパチンコに行くのは楽しいものです。ですが、パチンコの誘いに乗って一度行ってしまえば、それは依存症の巻き戻しです。節度ある遊戯なんてできません。一パチでいいから、5スロでいいから、と一万円を負けてしまえば、そこから先は地獄です。財布の中が空になるまで、遊戯に金を注ぎ続けます」
「そうですか。友達とパチンコに行くのもダメですか……絶望です」
ハカドルの生活はパチンコを中心に回っていた。ミサキは、まず、精神病であるギャンブル依存症を改善しようと取り組んだ。
でも一生治らない。
こんな逸話がある。
アルコール依存症の患者は、自分が病気であることを自覚していなかった。だから依存症じゃない! と医者を前に必死に叫んだ。依存症の怖いところは自覚症状がないのだ。いつまでも続けてしまう。結局、アルコール依存症の患者は、飲んで飲んで飲みまくり、家族と別れて、金を失って借金をこさえて、血が出るまで飲み、そのまま緊急入院した。一切、酒が飲めなくなる状態になって、やっと患者は、自分がアルコール依存症の患者であることを理解した。医者は、患者に向かって、早期から入院をすすめていたのに、アルコール依存症の患者は、それを蹴った。
「今後はお金の管理は私がします」
ミサキがお母さんみたいなことを言い始めた。
まず月6万円の仕送りが来る。そのうち、5万円を電子マネーに変える。保険の一万円を残し、その一万円をミサキが預かるのだ。
「これは財布の中を空にしよう作戦です。パチンコ依存症の方は、財布の中に千円でもあると一パチに行きたくなります。実際、一パチで千円や二千円を溶かします。そして、さらに熱くなり、借金をしてしまいます。負のスパイラルを脱却するために、私がお金の管理をします」
ギャンブル依存症を治す。長い付き合いになりそうだ。ハカドルはそう思った。
「ちなみにハカドルさん。借金はいくらありますか?」
「200万……」
ぼそっと言った。
「なるほど。200万円の借金はどこから借りていますか?」
「家族からです」
「ほほう、つまり消費者金融からは借りていないということですね?」
「はい。家族から借りていて。就職したら徐々に返す約束をしています。外の金融からは借りたことないですね」
ギャンブル依存症とはいえ、闇金ウシジマくんやナニワ金融道で借金の怖さを身に染みて体感していた。金利はどんどん膨れ上がり、リボ払いは法外な利子をつけ、闇金は命を奪いに来るほど恐ろしいのだ。
ミサキはメモ帳を取り出し、ハカドルから聞いた情報をメモった。女の子らしい素敵な文字をしていた。
「家族からの借金は救いようがあります。もし200万円をアイフルやレイクで借りていたら債務整理か自己破産を視野に動いていました。まだ、ハカドルさんはそこまで行っていません」
大統領になった不動産王のトランプも何回か破産している。彼は事業で破産したのだろうけれど、ハカドルはパチンコ、スロットで破産しそうだった。悲しい現実に、改めてギャンブル依存症の怖さを思い知る。これはりっきとした病気なのだ、と。
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