第3話 ミサキ

 精神的な病気から引きこもりがちのハカドルは、今日も家にいた。雨が降っていた。雷鳴が響く。外は薄暗い。


 小説の書き方を忘れてしまったけれども、なんとかものになっている気がする。


 そんなこんなで今日も小説を書いていた。携帯小説だったか、ウェブ小説だったか忘れたけれども。たぶん携帯小説だった。時代を感じる。ハカドルはベッドに寝そべりながら、スマホに向かってポチポチと小説を書いていた。


 ピンポーン。


 珍しい来客。ハカドルに友達はいない。いや、いたかもしれないが、留年して友は一年前に卒業してしまった。


 ピーンポーン。


 二回目のチャイム。結局、新聞屋か大家だろうと考える。エロゲの音をうるさく思った近隣住民の苦情かもしれない。ハカドルは焦った。コミュ障で、ひきこもりがちなのだ。


 だから勇気を絞って言った。初めてのセリフだった。


「はぁい」


 弱々しい声をだしたものだと驚いた。人は話さない期間がないと言葉を忘れてしまう。引きこもりあるあるだった。


「すみません。ちょっといいですか?」


 声の主は女性だった。それも若い。高校生ぐらいの声質。


 ハカドルは焦った。キョロった。久しぶりの女子との対話を試みる。


「何の用ですか?」


「私、ボランティアで、引きこもりを助けるプロジェクトをしているミサキと言います。ハカドルさん、あなた、政府公認の引きこもり脱出プロジェクトに見事選ばれ、合格し採用されました」


 なるほど。ハカドルは合点がいった。


 令和。草食系男子が増えすぎて出生率の低下を危惧した政府は、引きこもり脱出プロジェクトを立ち上げた。学業や就労に意欲の持てないニートを選び、採用し、そこに女の子を向かわせるのである。しかもただの女の子ではない。博覧強記。教養に富み、人生を好転させる能力をもった女子高生を送るのだ。


 それがミサキだった。


 地味な女だ。最初の印象だ。ドアのはざまから盗み見した感じ、垢抜けない芋子ちゃんだと思った。化粧っ気はない。さっぱりしている。たぶんすっぴんだ。その代わり、みずみずしい肌は健在で、女子高生らしさをアピールしている。ハカドルは25歳。もう若くない。死にたいヨボヨボだ。18歳の女子高生が明るく見えた。


 ハカドルは一応、大学生として機能しているが、部分、部分、回っているだけだ。水が上から下に落ちるように、定期的に授業を受けている。死にたい。何の希望もない。これは遺書小説。大学生活に未練たらたら、絶望していた。何もできない、何者にもなれない自分にコンプレックスを抱いていた。


 ハカドルは結局はニート以下なのだ。金を浪費する、ギャンブル依存症のくずは、親に殺されても文句は言えなのだ。だからだろうか、こんなダメダメ野郎に、政府が反応した。ミサキを送ってきた。


 ハカドルはドアを開けた。政府の引きこもり救出プロジェクトは知っている。警察手帳と同じくらいの効能があった。ミサキを迎え入れた。


「どうぞ」


「ありがとうございます。話が早くて助かります。そんな緊張なさらずに、私のことを家庭教師と思ってゆったりしてください」

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