第10話
――ぽふんっ
前に倒れたの私の頭が落ちたのは硬い地面などではなく、ふさふさとした物の上だった。
微かに私の重みによって震えている。
しかし意識が朦朧としている私にとってはどうでもよく、気にもならない事でしかなかった。
そのまま瞼が落ちてくるのに抗えず、意識を手放した。
――――――――――――
〜♪〜〜♪
誰かが歌っている声がした。
当たりを見回しても、果ての無い闇が広がるのみである。
しかし微かに……視線をずらせば消えてしまうような、針ほどの細さの光が遠くから届いているのに気がついた。
重い足を持ち上げながら、ゆっくりゆっくり、光の源まで近づいていく。
しかし光に手が届くよりも前に、足が動くことをやめてしまった。
いや、やめたと言うより、これ以上進むことを許されなかった。
冷たく重い鎖が、足に巻きついているからだ。
どうにか取ろうにも、鉄製の足枷は素手では外せない。どこに繋がれているのかも、光のないここでは知ることさえ叶わない。
結局は、闇の中で蹲る他ないのだ。
どこからの、なんの光なのかも知ることなく、きっと私は、ここで――
――――――――――――
「姫様っ!」
その声で目が覚めた。
飛び跳ねる心臓の鼓動に合わせて勢いよく目を開いたものだから、LEDの光が眩しい。どうやら自室のベッドの上に寝ているようだ。
「姫様!ようやくお目覚めになられましたか!」
「……?夜柑くん」
「突然倒れられてしまうものですから驚きましたよ!」
枕元から聞こえてくる高い声。
手を伸ばすと、もふもふとした感覚があった。
そういえば私は道中で倒れて、多分夜柑くんに顔から突っ込んだのだった。
「わぁ!姫様!」
「あはは、もふもふ〜……」
「まだお元気では無いようですね……」
そう言うと、毛玉は私の首元までやってきて丸まった。
体温の高い夜柑くんを撫でながら、私は数時間前に消えた風のことを思い出した。
「あれ、風はいないの?」
「はい、まだお戻りになっておりません。もしかすると、今夜はご帰宅されないかもしれませぬ」
毛玉が体を震わせながら返答する。
「ふぅん……私、どうしてベッドにいるの」
「それはですね、かくかくしかじかありまして……まあ、怪我なくご無事だったのだから良いではありませんか!」
「うん……」
最後の記憶を辿ろうにも、夕日のことしか頭に浮かんでこない辺り、本当に意識が朦朧としていたのだろう。
何か大事なことを忘れてはいないか。
私は曖昧な返事をしながら、再び落ちてくる瞼をそのままに、再び眠りについた。
多分、疲れていたんだと思う。
遠くから私を呼ぶ夜柑くんの声が聞こえ続けているが、そこまで心配しなくても、と少し呆れてしまう。
常に姫様!と呼ばれていると、まるで本当に私がお姫様みたいな高貴な存在なのではと錯覚してしまう。
私がこの時、平安時代のお姫様として暮らしている夢を見たのも、きっとそのせいだ。
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