第7話

 目を開けると、焦ったように風が腕を掴んできた。

 その手には見たことの無い刀が握られ、鋭い刃が光を反射している。


 風の後ろでは、広がっていた闇がいくつかに分かれてうねっており、じりじりと消失していく様子が見える。


「どこも怪我は無いか?あれに触れてはいないか?夜柑は来なかったのか?」


 矢継ぎ早に問いかけられるが、どれも頭には入ってこない。

 ただ、助かったことと、本当に来てくれたことへの安堵で胸がいっぱいだった。

 目元が熱い気がする。


「なっ、泣くなんてやっぱりどこかに怪我を……」

「あ……」

「あ?」

「ありがとう……助けてくれて」


 最後の方は完全に涙声だった。

 冷静に、死ぬのかもしれないと考えてはいたけれど、やっぱり強がりでしか無かった。命の危機に立つのはやっぱり怖い。


「……すまぬな、怖い思いをさせてしまった」

「ほんとよ!ばかぁ!怖かったんだから!風の声で話しかけてきて、振り返ったらあれがいて」

「――今、なんと?」

「だから、ここまで逃げてきたら、突然風の声が後ろから聞こえて、振り返ったの!そしたら風じゃなくてあの化け物がいて」


 ゆっくりと、その端正な顔に戸惑いと焦りを見せる。


「声を……」


 風は背後にある消えかけの闇の残骸を見ながら、驚きとも苦渋とも怨恨ともつかぬ表情をしていた。

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