第6話

 グチュ、ギュッ、ギィァ


 気持ちの悪い音を出しながら、は徐々に大きさを増し、今にも私を飲み込まんとしていた。


 死ぬかも、と思ったのは二度目だ。

 二度目がこんなにすぐ来るとは誰が予想出来ただろう。


 足がすくんで動くことが出来ない。声も出せない。

 恐怖で指先が氷のように冷たくなっていく。

 いつの間にか周囲は深夜かのように陽光を失い、私を追い詰めていた。


 数秒間、底なしの闇を目の前にして、ただただどうしよう、という焦燥に駆られるのみで行動が出来なかった。

 逃げられるチャンスがあったかもしれないのに、私は立ち尽くしてしまった。


 いや……チャンスなどなかったかもしれない。

 に対して、人間は無力だ。

 押し退けようとするのは、暖簾に手押すより無駄なことにしか思えない。

 かと言って後ろの非常用玄関から逃げ出そうとするのは、きっと熊に背を向けるのと同義。


 まさに八方塞がり、背水の陣だ。


 私の人生、ここで終わるのかな。こんな化け物に飲み込まれて。

 最後に関わったのがあの男だなんて悲しすぎる。いくら顔がいいからって……


 ――こうして目を閉じながら、


 突然、記憶の中の声が言う。


 ――我に助けを求めるといい。


 ハッとして、急いで暗い考えを取り払う。

 ゆったりとした動きで覆いかぶさってくる闇を前に、私はギュッと目を瞑った。

 大丈夫、まだきっと間に合う。


 心の中で強く、強く、強く。願う。


 ――はやく、助けに来てよ!





 こぷり……と、耳元で闇の飲み込む音がした。






「柊!無事か!」


 ザシュッ――と、希望が切り裂く音がする。

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