第59話 ダンジョン攻略(後)

「デミデミ、ここ、宇宙くさい」


「宇宙? はぁ?

 暗すぎて何も見えないと思ったが、宇宙だったか」


「我が生まれ故郷に似ている」


「キャップ、お前何人だよ」


「少なくとも、圏外と同じ生まれではないな」


「俺もやだよ」


 真っ暗な空間に飛んできたデミオンたち一行は、

 のほほんとした空気感で道を進んでいた。


 ディアは夜目が効くらしく、デミオンはそれに頼って歩いていた。


「ほらデミデミ、ちゃんと歩いて!」


 手を引っ張られながら

 キャプテンは見えているのかディアの横を歩いていた。


「この、足元がぐにゃぐにゃしているが、これは何なんだ」


「これは、イモムシ。あんまり気にしないでいいと思うよ」


 ディアにはよく見えているが

 あの地上で見たたくさんのA○IMOロボットの残骸だ。


 と言うか、足元だけではなく、壁も、天井も

 すべてが、白い宇宙服の「異星人」で出来ていた。


 出来ていた。というよりも、無理やりその形に「はめ込まれた」印象を受けた。


「ふむ。少なくとも、地球ではなさそうだ」


 キャプテンがつぶやきながら


「そうね。ここってば、私にちょっかいかけてきた奴らの本体?

 もしかして、全滅してる? やったー、はっぴーうれしーなー!!」


「しかし、これほどの文明が滅びるとは思えん」


「え? 何? 見えてるの? ふたりとも。

 俺、何も見えないが」


「いいじゃんデミデミ。

 見ててもあんまりおもしろくないさぁよぉ!」


 嬉しそうな鼻歌交じりで、よくわからない語尾でデミオンの握っている手をニギニギさせて


「ほら、デミデミ見てみて!!

 ゴール!」


「見えん」


 一寸先は闇。


 デミオンの瞳には何も写っていない。


「ゴール!!」


 プシュー!

 と、空気の抜ける音がして、次にがちゃんと、鍵が解錠された。


 キャプテンが扉に手をかけて開くと、


 そこから光が漏れ出てきて

 

 ぺかーっと、デミオンの目を焼いた。


「メガ―――――――」


 両目を抑えるように、ディアの手を離して瞳を覆う。

 ディアはパタパタと扉の中へ駆けていって


「ほらほら!

 やっぱり感じた通り。

 これは、私の敵ーー!!♪」


 にっこり笑顔。


 司令室には、A○IMOが座っており、しかしもう動きはしない。


 やっとの事で、半目を開くことが出来たデミオンが

 初めて地球外の文明を目にした。


「な、何だこれは」


 視界に広がるのは広大な宇宙。

 惑星が、恒星が、星々がそこにたくさんあった。


 ほぼガラス張りになっている司令室には、たくさんの操縦桿と

 モニタが並んでいたが、そのどれもが空席だ。


 唯一椅子に座っていた異星人である白い人形をキャプテンが足蹴にして倒す。


 ボスっとホコリが舞って、

 人型のそれは粒になって消えた。


 そこに残ったのは大きな腕輪。

 宇宙服の残骸か何かかと思えば、それをディアが拾ってデミオンに近づけてくる。


 その間に、宇宙船と思われるこの船の司令官席にどかっとキャプテンは腰をおろした。


「ほら、これこれ! 見てみて!」


「なんだよ。うっとおしいな」


 腕輪を持って自慢気なディアから、デミオンは距離を取ろうと

 手を振りかざして


 その瞬間を逃さなかったディアは持ってきた腕輪をデミオンに装着。


 ガチャリ!


「!?」


「これで、デミデミは宇宙人になるのでした」


「まて。なんだって?

 この腕輪は何なんだ!?」


 その間にも、キャプテンは司令席でクックックと変な笑い方をしていた。





「みてー、だんなー」


 ダンジョンへ突入しようと準備をしていた俺たちに背を向けて

 空を指差すのはカイリちゃん。


「分かった。後で見るからな。

 俺は今からダンジョンへ行かないといけないからな。

 久しぶりだから、ちゃんと準備しないといけないからな」


「大丈夫。旦那様は私が守るから」


 トモがむん! とサムズアップ。

 胸を俺の腕に絡ませながら。

 吐息が顔にかかる。

 俺は手が止まる。


「今は、アレは。見てないから」


 少しだけ視線を向けた先には、お空を指差す女の子。


「ちょ、強引な」


 チュッと、頬に柔らかい感触。


 俺は、停止した。


「まぁ」


 それを見ていた葉月、口元を覆って顔を赤らめている。

 を見ていたマルモ、葉月の後ろににじり寄る。


「だ、だいじょうぶだから」


 トモは、すぐに俺から離れて、葉月を襲おうとしていたマルモを蹴り飛ばした。



「あーー。だんなーー。

 ほらほらみてーー」


「わかったって。ちょっと待ってな」


 手も体も動かない状況で声だけ出す俺。


「みーてーよーー」


 と、ダダを捏ねるカイリちゃん。


「ほら、ろうそくみたいできれいだね!」


「なにそれどこかで聞いたセリフ」


 その時、突然ダンジョンに向けていた背中に熱を感じて


 振り向くとそこには


 巨大な火の玉。


 青い炎がメラメラと揺れて、人々は一目散に逃げていく。

 たまにカメラを構えて動かない人がいるが、それは警備の人が持っていく。


「うっそ」


「のこりっぺ」


 それは一瞬だった。

 渦に飲み込まれるように、その炎は消えた。


 そこに生まれる静寂と、

 燃える姫路城。


 と、それに飲み込まれるA○IMO軍団。





 こうして、ダンジョンの入口は姿を消した。

 謎とA○SIMOと、消し炭になった国宝を残して。















「これは、ディメンション・リング。

 全宇宙に6つと無い、すごいパワーを持ってる腕輪なの」


「お、おおおおおおお」


「えぇ? なにぃ?? 俺は人間を辞めるのぉ??」


 煽るように猫なで声のディア。


「おおおお、俺は死にたくない!!」


 腕輪が燃えるように熱い。

 どこからともなく熱が集まってくるようで。

 白い人型も、通路を塞いでいたA○SIMOも

 すべてが、腕輪に吸収されていく熱で青く発行しながら燃えて消滅していく。


 キャプテンはそれに耐える。頑張る。


 力に耐えられない者や、資格のないものが持つと消滅してしまうような

 そんな噂を聞いたことがある。

 デミオンは、どこまで行っても地球人であることに変わりはない。


 地球の創作物ではどれもがそうだ。

 力に飲み込まれてそのまま消えていくのだ。


「俺は、まだ! 死にたくない!!」


 膝立ち。

 右手に装着された腕輪を掲げるように上げて。腕を支えるように左手を添えて。


 腕輪に吸収されていく炎。


 どこからともなくその「力」は一つに集まる。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」








 収まったと同時に、デミオンは立ち上がる。


「なんか、大丈夫そうだわ」


 すべてを吸収し終わった腕輪には熱もなく、ただのアクセサリーだった。

 

「ふん。他愛無い」


 キャプテンは興味なさげに鼻を鳴らしてから、電子音を奏でながら半透明なディスプレイを操っていた。


「な! それは、憧れの近未来デバイス!?」


 年柄もなくはしゃぎ始めるデミオンは、心なしか少し幼い容姿に見える。






「だんじょんきえたぁ」


「そだな」


「旦那様。帰りましょ」


「そだな」


「ちょ、旦那さまぁ?」


 葉月が涙目で俺を見る。


 姫路城が燃えてそんなに悲しいらしい。


「大丈夫。お金はやるから。一応嫁だしな」


「…………えぇ」


 頬を伝う涙は塵となって消えた。



 ダンジョンが消えると同時に生まれた炎は

 姫路城を中心に、姫路の街の3分の1を焼き尽くした。

 

 幸い、俺や葉月がいる側には、世界最強の大魔術師であるカイリちゃんがいたのでそれほど大事になることはなかったが、

 それでも被害は少なくない。


 原型をとどめているが、大半は焼けてしまった姫路城を見ながら


「わたくしの、実家が………」


 消えた大半の街は、葉月の治める領地のような場所。

 葉月は、一瞬にして財産の大半を失うことになってしまったのだ。


「まぁ、元気出せよ。

 とりあえず、お金は渡すから」


「旦那様、最低」


「だんなー、はやくかえろー」


 と、早々に姫路から去っていく俺たちは、

 すぐにMKsに連絡をして、最速で復興の依頼を取り付けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る