第58話 ダンジョン攻略(前)

 姫路城。

 日々沢山の観光客で溢れかえっているここでは、現在厳重に入り口が封鎖されいていた。


「すげー、初めて見た」「グロいわ」「SNSに投稿だわ」「キッショ」


 それは、次々に姫路城前の広場から次々に運び出される「人間だったもの」。


 人々はその光景にスマホを向けて、警官が止めても隠しても隙をついて

 その出来事は、即座にネットに拡散されてしまった。



「カイリちゃーん、何見てるの?」


「どうが」


「いや、その内容・・・」


「あらぁ、暇なのかしらぁ?」


 佐々木さんが掃除機を片手に


「手伝ってくれると嬉しいわぁ」


「あ、はい」


 自宅に戻ってきた俺たち一向は、日々何もない日常を繰り返していた。


 トモは療養中、カイリちゃんも佐々木さんも俺も、なんだかやる気があまり無く

 

「あ、あかねーーー!!!

 そ、そそそ、それはズルでしょ!!?」


「狂墨は下手すぎでしょ」


 モリコカートは、最近流行りのレーシングゲーム。

 運転席に模した座席に、VRヘッドセットを付けて車を操作する。

 その運転席をリビングに置いて、空きの座席はあと2つある。


 狂墨とあかねは二人でずっと遊んでいる。昨日から。

 今がちょうど15時なので、24時間は越えている。


「だんなー。

 だんなだんなー」


「え? 何なに?」


 雑巾掛けをしている俺の上に乗っかるカイリちゃん。

 とりあえずそのままの体勢で


「ひめじじょーにいく」


「え? き、興味ないって言ってたじゃん」


「今できた。じゅんびして」


「え、あ。

 今から?」


「いくの。ほら」


「そういえばぁ、リニアぁ? 宇宙開発ぅ?

 とかぁ、どうなったのかしらぁ」


「あ、それね。

 お金を渡してやってもらってる」


「前の更新からぁ、4ヶ月くらい経ってるのでしょう?

 何か進展とかぁないのかしらぁ?」


「あー。ないない。

 俺の精神が日々すり減ってるくらいしか」


「トモーは?」


「部屋にいない?」



 所変わって、南の大地。


「ふむ。また異界と繋がったか」


「どうした? キャプテン」


「どうしたもクソも無い。

 日々この惑星(ほし)を観察していたが、先ほど接続された異界は私が出向かないとならんみたいだ」


「は? フェミが何を言ってんだか」


「キャップと呼べ圏外」


「くそ野郎だわほんと」


「デミデミー!!

 私も観測したわー!

 えっと、大陸の端にあるいくつかの島が連なってる国ね!」


「大陸の端? ブリテンか?」


「ぶりぶり?

 違うわ! 憧れのアーサー様がいる国はちゃんと覚えてるのよ!えっへん」


「くそ、俺は地理が苦手だっていうのに」


 頭をボリボリと掻きながらデミオンは、少ない知識から島国を思い出そうとする。

 すると、思い出すのは


「あの天使がいる国か」


「天使?」


 ディアが問い返して頷く。


「俺をコケにしやがった破壊の化身だ。

 このキャプテンなんて1秒も持たんぞ」


「他人と比べられるのは好きじゃないな」


「おー、すごいすごい。

 で? 天使が守護するような国だ」


「だが、我らの敵の文明の反応がするのだ。

 行かずして」


「鹿女。この飛行船は動くのか?」


「まっかせて! 1時間以内に直しちゃいまーす!!」


 腕まくりをして力こぶをアピールするが、

 「マッチ棒だな」というデミオンの言葉にキャプテンの真・男女平等パンチが炸裂した。



 姫路


 城を取り囲む警備隊。そこに派遣された『戦略院』の新メンバー「マルモ」。

 そのレベルは、4年前のSランカーに匹敵する。


「それで? 出現したのは?」


「はい。3体です。いや、人でしょうか。

 全身ASIM○みたいなスーツを着てる人型です」


「その例えは古すぎて、分からんわ」


 古いって知ってるじゃん。みたいなツッコミをしたいがグッと堪える警備隊の一人。

 マルモは一息ついて


「はぁ。犠牲が多すぎる。

 既に何百人も死んだ」


 二次被害として、報道ヘリが狙撃されて都市部に落ちて炎上。そちらでも数百人規模の怪我人が出たそうだ。


 姫路城上空に現れた歪み。

 それは一般的には「ダンジョン」の入り口と認識されていた。


 そこから現れたASIM○部隊は人間を、まさしくゴミのように焼き尽くした。

 光線銃と思われるそれは、現代の地球科学では不可避の攻撃をした。


 「今は様子見だ」


 警備隊が民間人を守るべく近づくと、即座にレーザーの雨だった。

 犠牲が二桁に昇るときには、一定の距離に入らなければ攻撃されないことを理解した。

 しかし、それまでに死んだ警備隊の人間はマルモが命令をして送り込んだのだ。


 その命がマルモを締め付ける。


「しかし、生物と言っても人間以外反応しないのだ」


 小さく呟く。

 その通りで、犬や鳥。その場にいたペットは死んだ飼い主の亡骸に寄り添っていたがレーザーが打ち込まれることはなく、

 無生物であるものを投げても効果はなかった。

 報道ヘリが撃ち落とされたことから、中人間が居れば攻撃の対象になることがわかった。


 つまり、人間は近づけない。


 それを確かめるため。

 

 即座に判った距離を警備隊に共有して、人間がそれ以上近づけないようにバリケードを張る。



 姫路城を占領した3体の生物は、その上空の歪みから何かを待ってる。

 ように見えた。


「あらあらあら、草ですわ〜」


 金髪縦ロールの登場。


「く、楠のお嬢」


 驚くマルモ。


「あら、葉月でいいですわ〜。

 それにしても驚きましたわ。

 最近あそこで結婚式を挙げましたのよ」


 天守閣を指差して


「思い出の場所が破壊されるのを見にきたので?」


「そんな感傷はありませんわ〜!

 もうすぐ私の旦那様が到着するみたいですので、そのお迎えですわ」


「旦那?」


「あ、来たみたいですわね」


 天守閣から別の方向に向けられる指先には

 上空を飛んでくるジェット機。

 かなり低い位置を飛行しており、マルモ達の近くに着陸するのだとわかる。


「嘘だろ」


 そんなに低く飛んだら「射程圏内」だ。



「待って待って待って待って待って!!!!!

 なになになになになに!!!???

 ろ、ロックオンされてるんだけど!!?????」


 一人で騒ぎ出すのはディアで


「よし。飛び降りろ」


 キャップはディアを抱えて操縦室のフロントガラスを割って


「とう!」


 と飛び出した。


「ちょ、待てよ」


 デミオンはそれに続いた。



 地上からの一線が空に昇った。


 即座、爆発。


 そこから人影が2つ落ちてきて、

 それを撃ち落とさんとばかりに、線が何本も昇っていく。


 しかし、優雅に堕ちる2つの影は避けて、当たらない。


 かなりのレーザーが狙撃しているので、生きているのだろう。

 そうして、高い確率で意図してレーザーを避けているとしか思えない。


「あれが、ミヤケ・・・」


「あ、消えましたわ」


 影は姫路城上空にある「歪み」に吸い込まれて居なくなった。


 ASIM○は沈黙。


「お嬢。気を確かに。

 早速未亡人になりましたが、僕と結婚しませんか?」


「だんなー。ほら。これはうわきしてる。

 今すぐにりこんすべき」


「俺のお金だけが目的だったのか」


「大丈夫。私がいる」


 トモが俺を抱きしめてくれて

 負けじとカイリちゃんが手を繋ぐ。


「あら〜? さっきのは何かしら?」


 葉月の背後から普通に歩いてきたミヤケ一行は、緊張感も何もなかった。

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