第49話 サブリミナル狂墨


 福岡県 自宅


「あーあ。ひっさびさに暇だわ」


 なんて伸びをしながらリビングへ降りてきた。


「ほはよー」


「おはー。今日は早起きだね」


「きょーはダンジョンにいってくる」


「えっ? 本当?」


「だんなーはこなくていいよー。

 ともーとたたかう」


「なおさら行ったほうがいい気がするが」


「あらぁ。大丈夫よお

 わたしもついていくものぉ」


「それは安心だな」


「ひどーい」


 カイリちゃんは、胸に手を当てて言動を思い返すといい。


「狂墨は?」


「しらなーい」


「さっき郵便が届いたって呼んだけれどぉ。

 かなりの数のダンボールだったわねぇ」


「くそ。あいつ俺ん家だぞ」


「じゃあ。

 ともーはもう先にダンジョンに居るみたいだしー」


「まじかよ。

 早く行ってきて! あんまりトモを待たせるなよ」


「はーい」


 なんて。

 カイリちゃんはダサダサTシャツにショートパンツという出で立ちで出ていった。


「お留守番はぁ、任せるわねぇ。

 トモちゃん、あんまり長く家を空けたくないみたいだからぁ、

 早く終わってすぐ帰ってくると思うわよぉ」


「おうおう。

 いってらー」


 佐々木さんも見送ってから。


「さて。何をするかね」


 と、リビングに戻ってドカッとソファに座り込んで


 テレビをつけて適当にザッピング。


「何にもない」


 そもそも、俺はテレビよりもネット番組派の人間だ。


 そういえばと。アニメのネット配信サイトのアプリを立ち上げる。


「4年経ってるらしいからな。

 いろいろなアニメがあったり無かったり」


 ほう。

 HUNTE■■■UNTERは、まだ連載再開していないのか。


 ネットゲームに閉じ込められるアニメ特集として、3桁もある。

 2年前の夏クールはネットゲームに閉じ込められたアニメしかして無かったのか。

 20本以上あるみたいだが。凄いな。


 魔法学院に入学した劣等生かと思ったら最強だったお兄様の、これは。

 第5期! 原作の最後までやっていた。あのラストは興奮した。

 それをアニメで見られるのか。それは楽しみだ。


 色々と物色して、見たいのが多すぎたので一旦ご飯を探しに立ち上がる。


「ラーメンでいいかなー。

 出前でも取るかなー

 ウー◎ー」


 ガチャ!


「かずくん!!」


「うおっ、びっくりした」


「リアナ見た?」


「見てないよ。

 ていうか、アトリアナか? なんで帰ってないのさ」


「それは置いといて。

 リアナの部屋見た?」


「いや、居ることすら知らなかったが」


「片付けてって言ってるのに!!」


 曰く。アトリアナは家事が出来ないタイプの人らしい。

 脱ぎ散らかされた服に、飲食の跡。

 雑誌やごみが俟っている。


 あかねに連れられてアトリアナの部屋を見たが、これはひどい。


「かずくん。これあげる」


 と、ゴミ山の中から取り出したのはピンク色の


「パンツ!」


「ぎゃーーー。

 人がトイレに行ってる間に何をしてるの!?」

 

 俺の背後から声がして


「パンツーーー!!」


 と、あかねが俺の前に掲げているピンクを取り返してベッドに投げた。

 が、綺麗に広がって落ちた。


「この部屋をみて、何も思わない?」


「なにもないの」


 と、ケロッとした顔のアトリアナ。


「別に、なにがあるの? ここはアタシの部屋なの」


 部屋の中に入って俺から隠すように両手を広げる。


「違う」


「何も違わないの」


「俺の家だ」


「住んでるの」


「だったら金を払うんだな」


「うっふーん。

 アタシの体でどうなの?」


 と、体をくねらせて。

 スカートの裾を持ち上げて、下着が見えないすれすれのところで止めて


 ゲシっ!


 と、足がでた。


「ひゃぁん」


 なんて、可愛らしい声を出して

 アトリアナはわざとらしく倒れ込み、お尻をこっちに向けて


「あっはーん。

 どうなの? 興奮するの??」


 ふりふりと。


「で?

 お金を払うか、出ていくか。二つに一つだ」


 あかねは、頭を抱えながら「はぁ」とため息をついて


「こ、この体でいいの。

 可愛いリアナの麗しボデーを好きに貪っていいの」


「要らん」


「お金いっぱいあるじゃんさー」


「対価がないやつを住まわせる理由はない」


「だから、愛人なの」


「お前、アドミラル・インダストリー? だったか?

 会社はどうしたんだ?」


「…………」


「おい」


 黙り込んで、お尻を振るのを辞めて、

 顔を腕にうずめてから



「……なの」


「は?」


「クビになったの」


「は?」


「無職なの」


「どうして」


「し、しらないのぉぉーー」


 号泣。


「はぁ」


 ため息をついて。

 頭を掻いてから


「早く仕事を見つけて出ていけよ」


 と、言った瞬間に

 飛び起きてから、満面の笑みを浮かべて俺の手をとる


「やったなの」


 と、演技だったのか。

 なんて、あかねを見るが。

 頭を抱えて、血の涙を流して


「わたしのときより軽い!」


「しらん」


 俺は、リビングに戻る。

 朝飯を探す途中だったのだ。


「かずくん、御飯食べるの?」


「そうだけど」


「わたしが作ってあげる」


「そりゃどうも。

 料理できるのか?」


「そうよ! 勉強したのよ!!」


 と胸を叩いて


「ごちになるの」


 アトリアナもついてきた。



「うまかったよ」


「お粗末さまでした」


 と、あかねはエプロンを着けてからお皿を片付けていく。


「ここにもあるの」


 アトリアナの前の皿は残っていて


「自分でやることを覚えて欲しい」


 と、ゴミ虫を見るような目で。


「べ、別に! 一緒にやったほうが効率的なの!!」


 アトリアナは走って逃げていった。


「あれ、何歳?」


「しらん」


 確か、社会人を何年かしていたはずだ。

 アドミラル・インダストリーの日本支部に来る前は南アメリカ支部長とかだったか? そのくらいのキャリアを積める程度には歳が離れているはずだが。


「人材不足も末期ね」


「そうじゃないと思うけど」


 あかねが少しだけ成長していた。



 そういえばと。

 地下のフィギュア部屋にダンボールに仕舞ったままのフィギュアがあったことを思い出す。


「じゃ、俺は下にいるな」


「うん。わたしは片付けてお掃除してる」




 なんて、階段を降りて行って


「ふんふんふふーん♪」


 と、鼻歌が聞こえてくる。

 それは、俺のフィギュアルームからだった。


 誰が居るのかと。

 俺は陰から覗き込むように部屋を見ると


「ふふーん♪ あら?」


 そこには、狂墨がいた。

 足元には大量のダンボール。俺のものとはまた別のダンボールだ。

 そういえば、佐々木さんが大量の荷物が届いて狂墨が受け取ったとかなんとか。


 どうしてここに。

 なんて悩むが。


「じー」


 狂墨は、その手元のそれを真剣に睨んでいる。

 それは、フィギュアで。

 ひっくり返してパンツを見ていた。


「こんなに貧相かしら」


 と、狂墨は自分のお尻をがっしりと掴んで揉んで。

 首をかしげる。


 再び、フィギュアのパンツをじっと見つめて。


 次は胸の方を見てから、

 同じように自身のおっぱいを鷲掴みにして

 首を傾げる。


「サイズ感は、一緒みたいね。不快だわ」

 

 と、独り言。


 狂墨が持っているフィギュアによく目を凝らすと、

 それは狂墨だった。


 狂墨のフィギュアだった。


「まぁ、いいわ。

 ふんふんふーん♪」


 と、鼻歌に戻ってその自分のフィギュアを俺の棚に並べる。


 次はダンボールから取り出した箱は


 狂墨が描かれていた。


「(2つ目だと……)」


 先と同じポーズをした、しかし顔パーツが違う限定版のようだ。


 それを、さっきとは別の場所を探して隙間に差し込むように置いて


 またも、ダンボールから箱を取り出して


「(3つ目……だと?)」


 販売会社が違うのか、先とはサイズ感とデザインが違っていた。


 箱からフィギュアを取り出して


「こっちは、お尻が大きいわね。

 原型師の趣味かしら。変態ね」


 とか言いながら。

 同じようにそのフィギュアを真剣に上から下まで舐め回すように見て


 それを、また違う場所に挿し込むように置いた。


 定位置に戻ってから、再びダンボールから


「(4つ目!)」


「(5つ目!!)」


「(6つ目!!!)」


「(7つ目!!!!)」


 …………どれだけあるんだ?

 どれもこれも、狂墨をモデルとしたフィギュアである。


 俺のお気に入りは遠目からだが、12つ目のプリンセス狂墨ちゃん。

 ドレスをパージすることが出来て、中からダメージプリンセスバージョンを再現することができる。


 狂墨は、四方の棚のいずれもバラバラに狂墨フィギュアを置いていって

 次のダンボールに手を伸ばそうとして


「ふう。少し疲れたわね」


 額の汗を拭って

 回りを見渡した時に、部屋の入口にいた俺に気がついて


「な”っ!?」


 なんて仰け反ってから


「……なにしてんの?」


 呆れながら問うと


「べ、……別にサブリミナル狂s、じゃ…………あ”!!

 そ、そんなんじゃないから!!」


「サブリミナル狂墨??」


「へぁ!? な、ななな。

 なんでもないんだからぁ!!!」


 顔を真赤にしてから、それを隠すように走って逃げた。


 部屋の中。

 沢山狂墨フィギュアがあった。

 

 俺が見る以前から沢山並べて居たようで

 30は優に超えている。


「どこから出たフィギュアだよ」


 と、箱を抜き出して見てみると、


「ガレージキット」


 にしては、箱が一般に販売されているそれに引けを取らない。


「すごい才能だぜ。狂墨」


 俺は初めて狂墨に興味を持った……かもしれない。




 サブリミナル効果:潜在意識に対して一定の影響を及ぼすことができるとの一説

 


 

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