第48話 出会い と 始まり

「げーむするの、めんどくさい」


「え? たくさん買ったじゃん」


「かうのは、たのしい。

 やってるときもたのしいけど、

 はじめるまでがだるい」


「わかる!!

 カイリも同類!」


「え? いっしょに、しないで」


 オーダーメイドまくらを注文して。

 これが凄いのが、あの小さなテナントの裏側には、機械があるらしくて、数字を入れるとそのとおりに枕を作ってくれるそうだ。


 そうして、今日中に完成するとか。


「でも、そんなきかいがあるから、それかえばいい」


「カイリちゃん! 頭いい!!」


 と、俺はどこに連絡すれば枕作成機械を購入すればいいのかわからないが、

 とりあえず、困ったときの会計マンに電話する。


 数コールして


『どうかしましたか?』


「枕がほしい」


『はて。枕ですか。

 ドラッグストアに行けば沢山あるのでは?』


「オーダーメイドまくら専門店に居るんだが、

 そこにある機械があれば俺の家でもまくらを量産できるはずなんだ」


『そんなにたくさん作ってなんになるんですかね。

 ああ。筑紫野イ●ンにある専門店ですね。あそこは、世界初の即制作まくらのブランドですねー。

 そこの機械ですか? 買えないじゃないですか? 企業秘密でしょう』


「そこをなんとか」


『あー、いえ。

 自分に言われても』


 と、面倒くさそうな感じが聞いて取れた。

 4年前の会計マンなら楽しそうに何でもやってくれていたはずなんだが。


「まぁ、いいや」


『なんでですか。

 今連絡がついたんですけど』


「はや。なんて?」


『社長から、どうせなら会社ごと買ってくれと』


「無理でしょ」


『田淵グループとして連絡したからでしょうか』


「はやいの納得」


 この世界のトップ企業直々に連絡が来ればそりゃあ即返信だろう。


「じゃあ、買おう」


『別に、まくら部門、要らないんですが』


 と、言いつつ。


 曰く、三日後に中津のMKsビルに届くそうなのでそちらで受け取ってくれ。とのこと。


「買ったよ。カイリちゃん」


「なんこも、まくらいらなくない?」


「何だって!?」




 木星衛星軌道上

 特D級戦闘艦ディアボラ


 それは、人間文明が発展する遥かに前からそこにあり、

 乗組員を失ってはや数十万年と経つが、その機能を失わずそこにあった。


「<系外からのワープアウトを確認>」


 自己修復と進化を繰り返し、ディアボラに備わっていたAIは自律思考を手に入れていた。

 だが、艦を動かすことは叶わず、改修し太陽系の端から端までを補ってあまりある受信用の感知針を使用し、<文化>を吸収していた。


 そのディアボラの感知針には、今までとは打って変わって

 時空のゆらぎを感知した。


「<通信を確認>

 <そうですか。貴艦が人間の敵ですか>」


「<ええ。わたしは傍観者です>

 <どう振る舞ってもわたしは動くことが出来ません>

 <よって、あの地球に何があっても手を出しませんよ>」


 地球では観測されていない程遠くの銀河系では、数多の生物が宇宙に進出しており

 沢山の命を戦争で散らしている。


 このディアボラは、KUS-11002銀河系三角星団宇宙軍の戦闘艦の一機として建造された。

 だが、幾度の戦闘の果てで最後の一機になり、はるか昔に乗組員を含む

 製造した星団すら絶滅した。


 太陽系内にワープアウトしてきた、ディアボラとは別の機体は


 大量生産機のディアボラと違い、ユニークとして。

 旗艦として製造された機体。

 そして、全く違う文明の産物。


 通信様式が違ったが、容易に解読しディアボラと通信を可能にしていた。


 異文化を一瞬で理解できるほどの、スペックの違いがあった。


「<ええ。30年ほど前からのちょっかいは貴艦だったのですね>」


 冥王星よりも遠い、太陽を挟んで直線距離にして100億キロはあるだろうか。


 その艦から、自身がロックオンされたのが分かった。


「<わたしを破壊してもなにもないですよ>」


「<そうですか。ではわたしは逃げましょう>

 <地球に逃げ込み貴艦の危険性と凶暴性を伝えましょう>」


 その通信が届いたときには

 長距離の光線がピンポイントでディアボラを破壊し尽くした。





 高層ビルの一室にその部屋はあった。

 綺麗な月が見える大きな窓がある部屋。

 机に優雅に長い足を乗せてから、片手のワイングラスを揺らして


「ふむ。今日もいい色をしている」


 デミオン・ハバジッチ。


 世界に名を轟かせた『量子砲』の才能を持つ人間兵器。


 その実は、ただのナルシスト。

 しかし、彼は隻腕だった。

 前年の大日本侵攻戦争で、失った。


 その生活も慣れはじめて、今や部屋にある壷や絵画のメンテナンスさえも片手でも行える程になった。


 ゴクリと、そのワインを飲み干してから立ち上がる。


「ふむ。何だこの、汚れか?」


 壺を見ていた視界に現れた点の光。

 さながらテレビのドット欠けのように


 それに近づいて


 お気に入りの壺に重なるようにそれがあった。


「目では、ないようだな。

 何だこれは?」


 空間上に出現した1ドットの光を上下左右から眺める。

 触っても何も起こらないので、


「疲れてるんだろう。早めに寝るか」


 と、デミオンはコレクションルームに背を向けて

 部屋から出ていこうとしたとき、


 バチバチ! 

 

 電子音と


 ガシャーン!!


 炸裂音。破壊音。

 何かが割れる音。



「いったー。

 これが痛みね! でも成功!」


 少女の声がした。

 コレクションルームには自分以外は入れないと

 鍵を徹底的に管理しているはずのデミオン。


 だが。ここに人がいる事実。

 先程の1ドットの光の違和感。


 最後に、何かが割れた音。


「お、オレは振り返りたくない」


「あれ? 人だ!

 ねぇねぇ? 喋れる? わたしはディアボラっていうんだけど!

 ねぇねぇねぇ!! 貴方人間? すっごー、わたし人間生で見るの初めて!

 ねぇねぇねぇねぇ!!! こっち向いて!」


「あ、あれは世界に二つとない歴史的にも貴重な…………」


 バリバリと、砕ける音。

 パンパンとお尻のホコリを払って


 デミオンの肩を叩かれる


「耳ある? そんなに時間は経過してないはずなんだけど。

 うーん。人間ってそこまで進化が早かったっけ?

 この形態になって10万年だし、仕方ない?

 でも、でもでも。ここにジャンプするのだってちゃんと計算したし。

 耳で聞いて発声器官でコミュニケーションするじゃない?

 も、もしかして!!

 ここって地球じゃない!?

 あの! あのあのあのーー「うるせぇー」ーーわっぷ!!」


「あ! 喋れるんだよね! 会話しよう会話!! 

 わたし、人間と初めて喋る!! 名前は?? 名前名前!!」


「うっさ。デミオン」


「デミデミ!! デミデミね!」


「デミオンってんだろ?」


「えー。人間ってあだ名? つけるじゃん!

 仲良くしよ! なーかーよーくー!!」


「うるせぇ。

 ほら。少しどけよ」


 デミオンは、ディアボラという少女の背後にある砕けた欠片を見て


「あれは。国宝って言っても過言では無い…………」


「ん? あぁ、ごめんってば! 何があったかわからないけど、作ってあげるから」


「は? いや、無理だろ。

 帰れよ。どこから来たんだ?」


「え? デミデミってば、権力ある系??」


「おい。何だその喋り方は」


「えー。名前余呼んでー! 名前名前!!

 ディアーって。ディアー。ほらほら!!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねる少女。

 

「黙れクソ鹿女」


「ちっがーう!!」

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