第47話 お買い物1


「俺は今日から高額納税者になる」


「なにそれ」


「消費税を世界で一番納めた男になる」


「へー」


「それってぇ、かなり難しいんじゃぁないかしらぁ?」


「いや、難しくない!」


「この家をぉ、買った時より1日で使えるのぉ?」


「そう言えば、計算したことなんてなかったな」


「だんなー。しょっぴんぐ」


「見てみてー。ほら、かずくん! じゃーん!!」


 と、あかねがリビングに小走りで駆けてきて

 部屋を暗くしてスポットライトを扉へ向ける


「ちょっと。これは派手すぎ」


「いーじゃん! 久しぶりのおしゃれだよ!」


 入場してくるのが、トモで。

 ニットの萌え袖の服に、ショートパンツにはフリルがあしらい、

 黒のブーツで引き締まって見える。


 頭にはベレー帽? 帽子を被り、少し大人びて可愛らしいコーデをしていた。


「ほえーー」


「かずくんが見惚れてるよ! 成功だね!!」


 と、トモに駆け寄る。

 ぴょんぴょん跳ねてて、自分の事のように喜んでいる。


「ど、どう?」


 恥ずかしがって袖で口元を隠しながら。

 耳は真っ赤で、目線は右往左往。


「すご。

 可愛いわ。おしゃれすればこんなに違うのか。

 そうか。カイリちゃんもいつもおんなじようなTシャツじゃなくてしっかりコーデすればーーわっぷ」


 げしっと、俺の脛に蹴りが入って


「トモちゃんでしょ!!」


「そ、そうだね。

 めっちゃ可愛いよ。でも、俺はあんまり頭良くないし、これ以上の表現ができないけど。ぐっとくる」


「わかった。今日はこれで出かける」


「ほら、トモが準備したし、いくぞー」


「えー。私もおしゃれーしないとダメー?」


「カイリちゃんはいつでも可愛いよー」


「…………っ」


 トモが少しだけ身動ぎして

 あかねが俺を睨む。


「クソ野郎だわ」


「なんでだよ!!」


「ほらぁ。早くしないと昼になるわよぉ」


 と、佐々木さんが持ってきた適当なワンピースに手を通したカイリちゃんは


「じゅんびおーけー」


「よーし。

 太宰府天満宮にお参りして、そこら辺にできた巨大ショッピングセンターへ行くぞ!!」


 筑紫野にあるイ●ンが敷地面積10倍。上に30階のビルに変貌をしたらしい。


 建築期間的に、4年で完成するわけがないのだが

 それもこれも、魔石のエネルギー革命で作業効率が上がり、

 特に、建築産業では目まぐるしい発展を遂げている。


 MKsが新鋼材の提供も行っていたようで、ほんの半年前に完成し

 それから店舗が入り始めて3ヶ月前にオープンしたばかり。


「旦那様」


「ん? どうかしたか?」


「私のこと。どう思ってるの?」


「どうって。お嫁さんだなーって」


 少しだけ、考えるそぶりをするトモ。

 求めている答えと違ったかと俺は思って

 重ねるように、ただ。本心を言葉にする


「けど、いつも一緒にいないと落ち着かないな。

 ほら、俺の前にはカイリちゃんがいるけど、

 後ろにはトモがいないと。

 もう、それに慣れたっていうか、それが当然っていうかね。

 俺の3分の1って、存在だよ」


「そう。それで十分だわ。

 私だけ年齢を重ねてしまって、

 旦那様が生きているかもわからないって、みんな言って。

 味方があかねちゃんしかいなくなって。

 それでも、旦那様は変わらないのね」


「まぁ、俺の中ではトモとはぐれて2日も経ってなかったからな。

 戻ってきたら4年経ってるって、困ったよ」


「私は、変わらずお嫁さんでいいのね?」


「というか、俺からお願いするよ。

 俺を捨てないで」


「魔法少女がいるじゃない。

 でも、私からはもう離れない。

 ずっと一緒にいるから。それでも、いいのよね?」


「ああ。問題ないよ」


「そう。それだけよ」


 カイリちゃんたちは、先にリビングから出て車庫の方へ行ったみたいで

 俺とトモの二人で階段を降りていく






「ここからここまでーぜんぶー」


「こら、カイリちゃん。持ってるゲームまだクリアしてないじゃん。

 これ以上積みゲー増やさないで!!」


「大丈夫。かずくん。

 今まで積んでたやつはクリアしてるから。

 カイリにもストーリーだけ教えるから、買お!」


 あかねはカイリちゃんの味方で。


 ゲームショップの店員は少し困り顔で俺たちを見る。


「ほらー。

 これしらない。いつでたの?」


「これ? 3年前の古いやつじゃん!

 でも評価も高いし、かなりの時間泥棒よ!」


「やったことある?」


「家にあるわ!!」


「じゃあ、かわなくていー」


「新しいゲームコーナーはここ」


 と指差して。


 VR技術でも発展しているかと思ったが、そんなことはなくて。

 普通にコントローラでやるゲームがまだ続いていた。


 しかし、画質がかなり上がっている。

 CGの技術も、一目見てクオリティが段違いだった。


「モン○ンの新しいのがちょうど一昨日出たのよ!

 って、聞いてる? カイリ??」


「ポケ○ンは?」


「前作のリメイクの評価が散々だった割に、かなりの本数が売れたから

 同じ感じで新作が出たの。

 でも、大炎上して、自社回収。

 今は、禁句になってて、どこにもないわ。

 あるとすれば、地下ね」


「だんなー。あとでちかにもぐる」


「やめときなー」


 と、ゲームショップで40本のゲームと、俺とカイリちゃんとあかね用で3つの本体を購入。

 ソフトは、年々新品の値段が上昇しており、現在9800円がデフォルト。

 

 つまり、1万円分のゲーム40本と、5万の本体3つで


 合計55万円の買い物を一瞬でやってしまった。



 

「旦那様。これ見て」


「ん? これは、熱帯魚?」


「そう。これから始めようとおもう」


「魚に興味が?」


「私も水の中でかなりの時間を過ごすから。

 その時思ったの。少し、落ち着くって」


「魚は、あんまりわからん。

 じゃあ、一緒に勉強するか?」


「本当? 嬉しい」


 と、俺とトモで魚屋に入り話を聞こうとして


「え? ああ。ここは肉食魚や養殖魚に向けた餌売り場さ。

 これは、まあ、飼えなくはないが。

 あんまりお勧めしないぜ?」


「熱帯魚じゃ」


「ないな。残念ながら。

 売り場は、ちょっと遠いがここに」


 と、ショッピングセンターの全体図パンフレットに目印を書いて渡してくれる。


 優しい大将の笑顔


 トモはショックを受けて固まっていて


「お魚さん。

 食べられる運命なのね。

 世界は、残酷ね」





「三宅さぁん。なにを見てるのぉ?」


「ん? ああ。マイ枕でも作ろうかなって」


「だんなーのまくらーは私」


「カイリちゃん、寝相めっちゃ悪いじゃん。

 枕にされてるの、俺だし」


「そんなはずはない」


「いや、この腕のあざはカイリちゃんに蹴られたんだが」


 腕をまくって少し青くなったそれを見せて


「きおくにない」


「寝てたからね!」


「旦那様」


「どうした?」


「私はかなり寝相がいい。

 枕にしてもいい」


「いや、人を枕にする趣味はないよ」


「そう」


 残念そうに肩を落として


「おっ。これとかいいよね」


 検査30分から。


 と書かれた看板を見て、俺は店員を呼んで


「いらっしゃいませ。

 本日はどのような?」


「枕が欲しくて」


「そうですね。

 自分にあった枕を使えば、睡眠の質が1000倍になります」


「盛り過ぎでは?」


「そうでもないですよ?

 この店の枕を使って、睡眠から戻ってこなかった人が増えました」


「それ、死んでるよね!」


「冗談です。

 でも、質が上がって日中の活動効率が上がるのは事実ですよ」


「どう? みんなも作ってみない?」


 と、俺はカイリちゃん含め4人に聞いてみて


 すると、店員の方から


「えっと、あまり大きな声では言えませんが。

 このお店のマイ枕。かなり質もいいですし、評価も高いですが

 如何せん、値段がかなりしますよ? 5人分ってなると」


 と、計算機をカタカタと


「このくらいは」


 そこそこのグレードのシトロエンが買えるお値段。


「大丈夫」


 と、俺がニッコリすると


「ありがとうございます」

 

 と、店員も満面の笑み。


「最高のを頼むよ」


「勿論です。では、準備して来ますね」


「えー。私、まくら、いらなーい」


「寝室別にするけど」


「旦那様カムカム」


 佐々木さんは普通に喜んでいた。

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