第46話 一旦帰宅。

「あらぁ? ここはぁ?」


 ガラス張りの廊下を歩く。

 

 下は大きな空間になっていて。

 そこは、格納庫だった。

 人型の巨大な機械が沢山収められていて、しかし、そのどれもが五体満足では無い。


「4年でぇ、こんなものまでぇ研究しているなんてねぇ」


 と、佐々木はその場を後にする。

 その先のブロックには、人型機械よりも一回り以上小さい戦闘機が所狭しと並んでいた。

 その整備をしているのは、ダンジョン内部で見た「文字化けお化け」。

 それが、あくせく働いている光景に身震いした。


「ここってぇ、本当に4年後の世界なのかしらぁ??」


 頭を抱えて引き返してエレベータがあった方へと戻る。


「でもぉ、三宅さん。

 どこに行ったのかしらぁ??」



「(ど、どどどどどうするの!?!?)」


「(ど、どうにもしないわよ!)」


「(気がつかれる前に、退散するの!)」


「(動いたらバレるからあ!!)」


「(ま、待って欲しいの)」


「(なに? なによその目は??)」


「(お、おトイレに。

  行きたいの)」


「(ダメよ! こんなの、見たらダメなやつじゃない!

  バレると殺されるか、実験体にされるやつじゃない!!)」


「(も、漏れたの……)」


「(嘘でしょう!?)」


 音もなく、両足を伝って足元に水溜りができていく。

 

「(あ、あわわわわ。もう逃げられないの。気分が軽くなったの)」


「(出すものだしたからでしょう? も、もういいわよね。

  少し、そのまままってなさいよ? あいつらがいなくなってから逃げるわよ!)」


「(こっち見てるの)」


「(嘘でしょ!?)」


 二人の緑色の異星人は、はっきりと狂墨とアトリアナの方を見ていた。


「どうかしたか?」


「異臭がしたので。 

 もしかすると、あの幼体が漏らしたのかもしれません。

 後ほど処理をしましょう」


 と、画面の方へ視線を戻して。


「(し、死ぬかと思ったの)」


「(寿命が縮んだわよ! 後で責任取ってもらうから!!)」


 そこで、待機して30分ほどで、異星人たちは何かボタンを押す。

 床が開いて、地下への階段が現れる。

 

 そこに二人して降りる。そうして開いた床が閉まったことを確認してから


「動いたら冷たいの。

 脱いでいくから、替えのパンツとか欲しいの」


「持ってるわけないでしょう!!

 もう! 本当に驚いた! 驚いたわ!! 死ぬかと思ったじゃない!」


「死んでないから、結果オーライなの。

 でも、ノアが人間じゃなかったなんて初耳なの」


「いや、本物が死にかけてるとかなんとか言ってたじゃない!

 多分、変身してるのよ。化けてるんだわ」


「ダンジョンから出てきたモンスターなの?」


「わたしが知るわけないじゃない」


「それもそうなの」


「ムカつく奴!!」


 二人して部屋に入ってきた時に乗ったはずのエレベータに乗る。

 そうして上昇してからヘリコプターを見つけた。



「面倒だから帰ろう?」


「それもそーだ!

 いなくなるほうがわるい!」


「とりあえず、次はMKs?? 

 のビルに行ってみよう。さっきも来てって言ってたしね」


「らーめん」


「後から沢山食べよ」


「いまがいい」


「わがまま!!」


 と、俺たちは来たみちを引き返そうとするが


「道迷ったな。どうしよう」


「とりあえず、上にいけばいいとおもー」


「階段を探せー」


 と、適当に道を歩き始めるが、その間誰にも会うことはなかった。


「これは?」


「エレベータ!」


 やっとも思いで見つけたそれに乗り込んで、俺たちはヘリコプターに乗った狂墨とアトリアナを見つけた。


「あらぁ? 遅かったわねぇ」


「佐々木さん! どこに行ってたの?」


「すごいわぁ。ここエバ作ってたわよぉ」


「エバ!!」


 カイリちゃんの目が光って


「すーつ! すーつかおっ!! だんなー」


「おけおけー。

 後からね。らーめん食べた後ねー。

 今からMKs? のビルに行きまーす」


 俺は、ヘリの運転手に聞こえるように言ってから


 浮上した本社ビルからヘリコプターが飛び立つ。


 ●


「ねぇねぇねぇねぇ!!

 宇宙人よ! 化物よ!! モンスターよ!!!」


「はいはい。わかったって。

 そんなに興奮しないで!!」


「し、信じないの? パンツに誓って本当なの!!」


「くさっ! 近づけんなって!

 漏らしたの? なんで? 袋にでも入れといてよ!」


「袋、ないの」


「あ、そっちのポケットに入ってるんで、使ってください」


 と、運転手が言って。そそくさとアトリアナは片手に持っていたパンツを袋に詰めて口を縛る。


「それで? なにを見たって?」


「あ、あの男と女よ!」


「会計マンとノアさん?」


「そうよ! あれ、化け物だったわ!」


「そんなばなな」


「し、信じてないわね!!

 しーんーじーなーさーーい!!」


 と、俺の襟元を両手で掴んで前後に振り回す。

 

「いや、もっと詳しく教えてくれないとっ。うっぷ」


 吐き気を堪えながら


「えー。どのくらいおおきかった?」


「多分、20mくらいかしらぁ?」


「もっとおっきーのがいー」


「それはぁ、聞かないとねぇ」


 カイリちゃんと佐々木さんは、俺たちの話には興味がないようだ。


「緑色した! 目がギョロっとした! バッタみたいな!

 二本足で歩くの!!」


「ん??」


「人に変身するの!! 多分、本物もどこかに囚われてるの!!」


 狂墨は、俺を振り回しながら。


「わっかんねー」


「もうすぐでビルに到着しますよ」


「オッケー」


 俺は、アトリアナがくれたビニール袋に戻してしまった。


 あーあ。100万円のお茶が。さらば。




「ようこそ。さっき振りですね」


「はいどうも」


「で? 何か、見せたいものがあるって?」


「はい。そうなんです。

 宇宙船です」


「まじで!!!」


「まじです」


 叫びながら。

 俺は元学長の後について行きながら興奮を抑えられない。


 昨日の今日で宇宙船ができるなんて誰がおもうだろうか!


 案内された場所は、陸上競技場ほどの大きさの開けた場所。


「ここは、ビルの中だよね」


「そうです。こういった作りも、今回開発された新鋼材のおかげでもあります。

 その結果で、宇宙船も作りやすく」


 その中心には、飛行機があった。


「あれ?」


「です」


 戦闘機のようなスタイリッシュなデザインで、それだけ。

 テレビで見るような、マッハで飛ぶ戦闘機まんまの形をしている。


 それだけで宇宙に行けるとは。素人の俺でも無理だとわかる。


「いや、行けるんですね。 

 新エネルギーは、燃費という概念の尽くを覆しました」


「へーえぇ」


「平たく言えば、核融合炉のような」


「??」


「そうですね。知識のない人に向けるならば。

 めっちゃ馬力のある電池です。

 すんごい力が出るので、それだけで地球引力から脱出できます」


「あの小さいジェットで?」


「そうです。かっこいいでしょう?」


「デザインは秀逸だ」


「でしょう」


 と、得意げに。


「だけ? だんなー。みたしかえろ?

 かえろかえろ!!」


 と、俺の裾を引っ張りながら。


「ははは。そうですねそうですね。

 これから時間はかなりありますから。

 この宇宙船は2度大気圏外に行って戻ってきました。

 また都合がある時に、乗ってみてください」


「えっ? 今乗りたい」


「だんなー。かえろ! かえろうってばー!!」


 と、俺は引きずられ、部屋から強制的に出ていく。

 俺は、カイリちゃんに力で勝てないのだ。


「では。暇な時にご連絡ください」


「明日ーー」


 と、多分無理なんだろうなぁ。なんて思いながら。



 


 久々の<天神ダンジョン>の近くにあるワン蘭ラーメンの暖簾を潜って

 俺たちは、カウンターに仕切りで隔たれたボックス席に誘導される。


 せっかく、みんなで来たのに個別なのかと。

 少し残念だったが、久々のラーメンが美味しかった。



「あ、帰ってきたよ」


「そうね」


 自宅のヘリポーポート。そこにはトモとあかねが出迎えにきてくれていた。


「田淵のところに行ったそうね」


「うん。子供がいてびっくりした」


「そう。子供。生きてたのね」


「なに? こわ。会計マン虐待とかするの?」


「そうじゃない。

 何か、一年くらい前から田淵は変な感じがする」


「へーえぇ。狂墨とアトリアナが何かそんなこと言ってたよ」


「そうよ!! あなた! わかってるじゃない! あれは緑色の異星人よ!!」


「そうなの! バッタなの!!」


「そう。

 旦那様も警戒してて。この家にも敵が忍び込んでくる時がある」


「聞いて? アル●ックとセ●ム入れてるのに、あまり役に立たないってば!」


「モンスターに対人間のセキュリティは意味ないって言ってるのにね」


 と、あかねに呆れるようなトモ。それでも少し嬉しそうにはにかんで。


「そうだ。

 トモ。

 お金沢山もらったから、明日買い物に行くぞ」


「そう。でも、あまり家を留守にするのは」


「わたし部屋を片付けるから明日はいるわよ?」


「は? 帰れ」


「なんでよ! 部屋は余ってるんでしょう?」


「だとしてもだよ! どうして一緒に暮らすんだ?」


「な、なんででもよ! どうでもいいでしょう??」


 と、凄んでくるが


「いや、家主がダメって言ってるだろうが!!」


「だんなー。べつにいいじゃん」


「な、カイリちゃん??」


「私がきょかしよう」


「あ、ありがとう。カイリ!」


 と、跪いてカイリちゃんを崇める狂墨。


「きょうからげぼく」


「ゲボ? なにそれ。

 まあいいわ! 今日からそれよ」


「カイリちゃん……」


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