第44話 これからの話

prrrr---


『三宅さん!! 生きていたんですね!? 死んだとばかり』


「まさか、4年経ってるとは思いもしなかったよ。

 いろいろ情勢が変わりすぎてて、辛い」


『いやぁ、これでも頑張ったんですよ。

 特に、ミヤケさんの活躍あってこそです』


「そうなんだよなぁ。

 ユウナギ……いや。

 トモが頑張ってたんだよなぁって。なんか変わりすぎっていうかね」


『三宅さんは、ミヤケさんの旦那なんですから。

 それに、4年間、帰りを信じてた一人なんですから。

 もっと、一緒にいてあげてくださいね』


「とは言ってもね」


『ーーじゃ無いですよ。

 本当に。今この世界があるのだって、ミヤケさんのお陰ですから。

 それも、三宅さんが帰って来ると信じて』


「それを言われるとねぇ」


 会計マンが電話をかけてきて、

 俺は、何も変わっていないリビングのテレビに映して

 顔を合わせながら会話している。


『本当に、変わってないんですね』


「言ったじゃん。本当に、昨日飛行機から落ちたって」


『にしても、信じられません』


『あのう。会長?

 その方が三宅?』


『あ、そうだが。

 呼び捨てはどうかと』


『では、どのように。

 まぁ、いいや。

 こんにちは。田淵会長の秘書を務めています、ノア・田淵です』


「はっ!?!?!?!?」


『いやぁ、強引にね』


 と、頭をかいて恥ずかしそうに


『子供はこの前3歳に』


「時間の経過を実感してしまった」


『おお。それはよかったですね』



「おーい、カイリちゃーん?」


 部屋には誰もいないのででかいビル、もとい自宅の探索を始めた。 


 一人では心細かったので、誰かを探したが、あかねも佐々木さんもいない。


 ただ一人、狂墨はリビングで佐々木さんから借りた服を着てからダラけていた。


「どうして誰もいないのか。

 買い物か? 俺に一言あってもいいだろうに」


 なんて独り言。


 そういえば。と。

 地下のフィギュアルームはどうしたかな。


 エレベータで地下一階へ。 

 そこから、階段で二階へ降りた。


 湿度も温度も一定に保たれている部屋。

 理想に近いフィギュアの管理室周辺はいじられることもなく、そのままだった。


 部屋に入ると、空きスペースが多かった棚が埋まっていた。


 確かに、ネットで注文していたものもあるだろうけど。

 

「あ、かずくん。

 来たんだ」


 あかねがいた。


「これはね、トモちゃんがたくさん集めてね。

 アタシも結構わかる所あるから、一緒にね」


「そ、そうか」


「あー。変な顔してる。もっとありがたがって!」


「じゃあ、こっち」


 と、あかねが1つ目の部屋を出て行って、

 俺もそれに続く。


 もう1つの、部屋だけ作って何も置いていないルームに入る


「…………」


 言葉を失う。


 部屋の中心には、何も纏っていないトモの等身大フィギュアがーーーー


「作るならここがいいって」


 トモの前にはカイリちゃんと佐々木さんがいて


「来たわねぇ? 変態さぁん」


「あ、だんなー」


「こ、これは?」


「回復ポット? っていうのかな? アタシはよくわかんないけど。

 外国の会社とメガネの人が共同? で作った入ると健康になるマシン」


 あかねの説明で


「そうすると、この中にいるのは」


「トモちゃん本人だから」


「…………」


 二度目の絶句。何をいえばいいのか、言葉が見つからなくなって


「週に一回は絶対って。

 アタシは、戦力にならないからさ。

 全部、トモちゃんに頼り切りだし。ボロボロになっても、頼ることしかできないし……」


 その場で泣き崩れて、ぺたんと座り込むあかね。

 

 俺は、動けなかった。


「この、4年の間に。 

 何があったのか。

 トモが、何をしていたのか。

 俺は、知らないと、いけないよな」


「そうよねぇ。

 私も、驚いたけれどぉ。

 さっき入ったトモちゃんはぁ、すぐには出てこないらしいわぁ

 とりあえずぅ、田淵グループぅ?

 大分県の中津市にぃ、あるそうだからぁ。まずはそこに行くべきかしらぁ」


「電話で良くない?」


「えー。

 だんなー。せかいいちーのビルが見たい」


「何それ」


「会計マンがつくってるやつ」


「へー。さっき何も言ってなかったけど」


「話したのぉ?」


「ああ。結婚してた」


「それはぁ、びっくりねぇ」


「ぐすん。

 お祝いも兼ねて。行ってきたら?

 トモちゃんはアタシが見とくし。それに、お留守番は、いつものことだしね」


 ハンカチで鼻をかみながら


「な、なんかわるいな。

 トモにもお前にも何かお返ししたいけど。

 何も考えつかん」


「お、お礼か。えへへ。

 今は、帰ってきてくれたから、それでいよー。

 また、後で考えておくね」


「そうか。よろしく」


 そうして、部屋を出ようとするが。

 俺の中に、ぐさりと刺さったままの「ナニカ」は残ったまま。


 階段を上がりながら、佐々木さんとカイリちゃんも一緒だった。


 4年も俺を信じていたらしいトモ。

 正直、怖い。と言ったら嘘になる。が、同時に嬉しくもあった。


 彼女が、これから何もしなくてもいいように。

 幸せに暮らせるように。


 行動を起こさないといけない。

 そう思った。


 日本には、長禅儀が戻ってきた。いや、今は新ソ連にまだいると思うが。

 あいつと、今リビングの狂墨が居ることで日本防衛力は回復。いやそれ以上になったと思っていい。


 これ以上、トモの負担が大きくなる事は無い。


「だんなー。なにかんがえてるの?」


「あらぁ。怖い顔ぉ。

 三宅さんがぁ、カイリに命令するだけでぇ、世界なんてぇ破壊できるのよぉ?」


 それもそうか。

 最終手段だな。




 ヘリを飛ばして1時間掛からないくらいで、中津市上空にたどり着く。


 そこは、別世界だった。

 日本というか、現代から掛け離れた都市だった。


 整列したビル群が立ち並び、区画ごとに隔てられて道が整備されている。

 ここだけ文明が違ったような異様な世界だ。


 どのビルもかつて東京にあったもの、日本の首都よりも高く。

 目を引くのは、耶馬渓という山地だったそこが切り開かれ、一番高いタワーがあった事だ。

 一番太く、一番高い。

 上空雲の上まで突き抜けており、今乗っているヘリよりも高い。

 頂上が見えないほどに。


「4年でこれかぁ」


「MKsの恩恵にあずかれて私たちも光栄に思っています」


 と、運転手が俺の方を向いて。


 ヘリもほとんど自動運転であり、最低限の操作しかしない。

 運転手とは言っても、ほとんど雑用をしていた。


「着陸の許可が降りました。

 田淵グループ本社ビルに着艦します」


「着艦??」


「はい」


 ビル群の街を抜け、海に出た。


 ザバァと、海底から巨大な建造物が浮上してきて


「少し、揺れます。ご注意ください」


 と、円状のそれにヘリが降りた瞬間に、周囲の壁が上がりヘリを包んだ。

 ガコン! 

 という揺れがあって、またその建造物は海底に沈んでいったのだと分かった。


「はい。もう大丈夫ですね。

 今出口を開けます」


 運転手の言葉で、ヘリが開いて


「これはぁ、驚いたわぁ」


「すごいね! すごいね!!」


 と、興奮気味のカイリちゃん。


「待ってましたよー」


「「会計マン!!」」


 その腕には、子供が抱き抱えられていた。




「は、はぁ。

 俺と同じ名前、か」


 きて早々、エレベータにのり、一番下の階層に連れられる。

 かなり大き部屋に案内されて、ここが会計マンの会長室だと告げられた時は開いた口が塞がらなかった。

 コンサートホールくらいあるぞ。


 そうやって、中心にちょこんと置かれた畳の上に、座布団やらなんやら一式が置いてあり、俺たちはそこに座って


「あはは。

 だんなーと一緒!」


 会計マンの子供の名前は、寿一だった。


「いやぁ、お世話になったどころか。恩人ですから」


 と、子供の頭を撫でながら


「いいわねぇ、子供ってぇ」


 佐々木さんが微笑んで

 俺は、ちらりとカイリちゃんを見るが。


「えー。めんどそう」


 と。嫌そうな顔を隠そうともしなかった。


「どうぞ、粗茶ですが」


「ぎょくろー」


「話題になってた、八女市の100万円のお茶ですが。

 貰ったは良いものの飲まないので」


「それは、粗茶とは言わない」


「だって、人に出す時はそう言えってミスタが」


 お盆にお菓子とお茶を運んできたノアさんが会計マンを見て

 俺のツッコミに困惑しているようだ


「おいおい。ミスタ」


 と、面白半分で名前を呼んだら

 ノアさんから、今にも殺しそうな目で睨まれた。


「ハハハ。

 前に、博多ギルドとの会合でお土産にもらったんですが、流石にノアと二人じゃ飲めなくて。

 ノア。別に間違ってないからね。

 三宅さんは人の揚げ足を取るのが好きだから」


「なんだと? 俺を性格悪いみたいに」


「あながちぃ、間違いでは無いわねぇ。

 三宅さん、あんまり会話が得意じゃぁ無いみたいだしぃ」


「おいおい」


「だんなーはだんなーだし、気にしないで」


「おいおいおい」


 と、みんなんしてノアさんのフォローに回って


「へ、へぇ。

 お、おおおお。驚いたの。

 の、ノノノノのノアが、け、けけけけけけk、結婚。

 だ、なんて」


 今まで全く喋ろうともしなかったアトリアナがようやく口を開いたが、

 俺の後ろに隠れるようにして怯えていた。


「あら、リアナちゃん。

 どうしたの? お顔が見えないわ? 

 私と違って、4歳も若返ったリアナちゃん」


 ニッコリ笑顔。


「べ、べべべべ別に!

 怖く無いの」


「まずは、お顔を出して言ってくれるかしら?」

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