第43話 再開と不幸


 そこは、千葉市の駅ビルが改装されていた。


「ここが大使館?」


 俺たちが、少なくとも新ソ連の国民であると証明出来なかったことから、一度は拘束されそうになったが。長禅儀の日本戦略院のカードを見せたところ大使館へ。という流れだった。


 おおよそ2年ではつかなさそうな崩壊の仕方をしている。

 ところどころ黒い煤がこびりつき、破壊された箇所は修復の後があるが、治っていない。


「どうしてこんなに」


「新ソ連になったときに、かなり反乱がありましてね」


 と頭を掻くのが軍人の男。


「自分はこれ以上入れませんので」


 と、入り口で立ち止まり、俺たちは大使館に乗り込む。


 だが、アトリアナは日本国の籍を持っていないはずだが。

 彼女は堂々と入っていくので、気にしてなさそうだった。




「長禅儀さん!!」


 と、両手をあげて歓迎のポーズをしたのが大使、葉山。


「今までどこに?? 

 と、そちらは!! 狂墨さん!?

 カイリさんと佐々木さんまで!?

 どうして!!??」


 目を回している葉山を、両脇から支えている秘書たち。


 彼らも驚いているのがわかる。


「さぁな。

 オレが聞きたいさ。ここはどうなっている? 

 どうして日本が攻め込まれている?」


「そ、それは。

 やはりあなたが不在だったからとしか」


「それはどういう意味だ?

 他にも戦略院のメンバーが居ただろう?」


「長禅儀さんと、狂墨さんが居ないのに、集まらないですよ。

 せめてどちらかが居てくだされば」


「まぁ。いい。 

 とりあえず、現状? 知りたいこともあるからまずは座れる所に案内しな」


「はい。そうします」


 と、終始高圧的な長禅儀。


 案内されたのは、会議室で


「4年前か? オレが宮城にいたことは知ってるだろうが」


「そうですね。

 皆さんが仙台空港から福岡空港への移動中に、北の国からのミサイルで墜落という記録が残っています」


「北の国から。そうか」


「そうです。そこで戦略院のメンバーの一人が報復として半島を攻撃」


「結果はぁ?」


「半島は壊滅的被害。

 しかし、チリのデミオンが参戦。それが米国の興味を引いたようで大規模な戦争が大陸の方で繰り広げられました。

 ところで、長禅儀さんたちは、今までどこに?」


「話の途中だろうが。

 はぁ。まあいい。オレたちは飛行機から落ちて1日も経ってない。

 いつの間にかダンジョンの中に居て、クリアし出てくると今だ」


「それは、本当ですか?」


「嘘を言ってどうする?」


「ねぇ、そろそろ離れてくれない?」


「嫌だけど」


 と、狂墨は俺の膝の上に頭を乗せて膝枕の状態。


 カイリちゃんは不快そうに見ているだけ。

 いつもなら攻撃しているはずなのに。


「大陸の戦争が、どうして日本に来るんだ?」


「結論から言えば、その戦争は終結しました。

 半島の壊滅という戦果で、終了です。

 しかし、新ソ連が成立。からのお恥ずかしながら北海道が日本政府に秘密裏に共産の影響下にあり、気に入らない米国の介入。

 その上、トラベラーの持つ才能を使った半永久的な物資の提供供給システムが完成したとかなんとかで。北海道から東北へ思想が南下してきました。

 まさに、洗脳に近かったですね」


 いやはや。と肩を震わせてから


「壁で仕切りをして止めたというわけか」


「いえ。違います。

 武力衝突があり、本土が戦場になりました」


「戦略院が役に立たなかったという事になるわけか」


「そうですね」


「しかし、どうしてここで止まったのか?」


「それは英雄ミヤケ殿のご尽力で」


 と、ブン! と俺を見る長禅儀。


 狂墨に膝枕している俺を見て、葉山は口をポッカリと開けて固まる。


「俺は居たじゃん。一緒に」


「そうだよな。

 カイリ。でもなさそうだ」


「フン。ミヤケって、べつに私たちだけじゃない」


「トモちゃんかしらぁ?」


「そうかも知れない」


「おい、葉山。どんな才能だったんだ?」


「は、はい。

 剣のような巨大な物体を自由自在に操り、空を飛んでいましたね」


「決定だな。生きてたわけだ」


「ふう。ひとまず良かった」


「すげーともー」


「でも、律儀ねぇ。

 4年も経ってるのにぃ、離婚してないのねぇ」


「そ、そうか。

 4年も居ないなら、死んだことになっててもおかしくない!!」


「は、葉山さん!!」


 と、会議室に走ってくるのは秘書の一人。


「なんだ! 今は忙しい!!」


「ミヤケ殿からお電話です!!」


「丁度いいな」


 と、長禅儀がその受話器を秘書から奪い取ってから俺に渡す。


 秘書が長禅儀から奪い返そうとするが、ひと睨みで股間を押さえて逃げていった。

 廊下が濡れているな。


「ユウナギか?」


『その声は、旦那様?』


「えっと、4年ぶりか?」


『…………。そうね。

 今は大使館に居るって事でいいのよね?

 私がそっちに行くと面倒になるそうだから、早めに国境を超えてくれるかしら?』


「嬉しく、無いのか?」


『…………』


 沈黙。

 悲しくなってきた。


 と言いつつ、俺の中では別れて1日も経っていないので、どうにも実感がない。


「あ、この壁。向こうにいけますか?」


「ま、まぁ。行けなくもないですね」


 と葉山の曖昧な返事。


「うーん。どう処理したものか」


「そうねぇ。

 簡単にぃ、海で遊んでいてぇ流されてこっちに来てしまったからぁ、強制送還って事でいいんじゃないかしらぁ」


「それは、長禅儀さん以外はそれでいいと思います。

 では、そうします」


 パンパンと、手を叩いて、やって来るのは、漏らした方とは別の秘書の人。


 佐々木さんの提案どおりの書類の作成をその場で行った。

 尋常じゃないほどのスピードでタイピング音が鳴るので驚いた。


 そうして


「長禅儀さんは。少しだけ、時間がかかるかもしれません。

 新ソ連軍に自らを証明してしまったんですよね」


「まぁ。そういうことになるかもな」


「日本国の秘蔵っ子が新ソ連に居たと知られたわけです」


「面倒になりそうねぇ。じゃぁ。私達は帰るわぁ」


 と、煽るように佐々木さんは長禅儀に残して。


 俺たちは会議室から出ていく。


「良かった。わたしは何も出してない」


 バレなかったと、狂墨は一息。




「旦那様。なにか言い残すことはあるかしら?」


 壁を抜けると、そこにはユウナギが居た。


 身長が伸びて、俺と同じかそのくらいになっていた。


「えっと」


「ともー!!」


 バフッと、カイリちゃんはユウナギのお腹に飛び込んで。

 親と子ぐらいの身長差だ。


「トモちゃん」


 佐々木さんがなにかを言いたそうに口をモゴモゴさせているが


「や、やっぱりぃ、いいわぁ」


「そう、ですか。

 この4年。かなり大変でした。

 旦那様。あなたを探すために色々しました。反省してください」


「と言っても。

 俺は今日の出来事なんだが」


「なんですか? タイムスリップでもしたんですか?

 そういえば、4年経ってるのに旦那様は全く変わってない……。

 私だけ老けた??」


「…………ノーコメントで」


「そー。トモおばちゃん」


 ガシぃっとカイリちゃんの頭をアイアンクローで持ち上げて。

 足がブランと垂れ下がって。


「いたいいたいいたたたた!!」


「か、カイリちゃん!!」


「いい。帰りに聞く。

 ほら、ヘリ」


 それは、長禅儀から買ったものではなく


「自家用?」


「家に着陸できるようにもした」


「スゴ」


 4年って、かなり長いのでは??






「へぇ。不思議なこともあるものね」


「というか、わたしたちの方にわたしにいっつも着いてくる男が居なかったけれど」


「名前。知らないの?」


「知らないわ。

 でも、少し、心配はしているのよ?」


「ああ。彼なら田淵グループの顧問に就任しています」


「田淵グループ?」


「旦那様のお友達の眼鏡のひと」


「「会計マン!?」」


「今は、会長です」


「出世したなぁ」


「ーーーーあ、社長。やっと繋ったの!! え? アタシです。

 アトリアナです!!

 死んだ? いや、生きてます!! だから、本人ですって!!」


 アトリアナがヘリの端で電話をしている。

 相手は、アドミラル・インダストリーの誰かだろう。

  

 この4年をどう説明するのだろう。


「着いたわ。旦那様。あなたは今死んだことになっているけれど、

 田淵グループの59%の株式は旦那様のものよ」


「は、はぁ」


 とヘリコプターが着陸したのは大きなビルの屋上。


「えっと、ここは?」


「自宅よ。少し大きくしたの」


「か、カズくんだーー!!」


 走ってくるのはあかねで


 鼻水ズルズルで飛び込んでくるので避けて


「ひえぇ!!」


 狂墨にダイレクトアタック。

 

「き、汚い!! だ、誰よ!!」


「いや、あかねだが」


「お、覚えてないわ!!」


 どうしよう。もしかして狂墨、記憶力に何らかの問題があるのかもしれん。


「なぁ、ユウナギ」


「…………」


 遠くを見つめて居て、気がついていない。


「おいってば、ユウナギ!!」


「ん? ああ。どうしたの? 旦那様」


「田淵グループ? の大株主が俺なんだろう?

 というか、田淵グループって何をしているんだ?」


「時価数兆円の巨大企業よ。

 メインは『超人薬』。旦那様が作った健康になる水よ」


「え? その企業の株式の大半を持ってるの?」


「そうね。だって、旦那様のものでしょう?」


 と、【女神の薬】を懐から取り出して


「あ。ユウナギ。そういえば、戦争に行ったって本当?」


「ねぇ、旦那様。

 ユウナギって言わないで? トモって」


「あ、ん。そう、そうだな。

 トモ。戦争、大丈夫だったのか?」


「うん。そう」


「だ、大丈夫じゃないよ!!

 トモってば、大怪我で帰ってきて!!」


「大丈夫。大丈夫。

 これのおかげ」


 と、薬を持って。


「でも、カズくんたち帰ってきたし。もういいよね。

 もうそれ使わないでね。トモ!」


「…………」

 

 トモはあかねの問いかけに頷いてから家の中に入っていく。


「何度も何度もね、行ってはどこか失くして来るから。

 でも、この薬? 使ったら失くしたものが元に戻ってね。

 何回も何回も。トモって。

 最近ちゃんと話しをしてくれなくなったの」


「やばいやつなんじゃないか?」


「そうかも」


 カイリちゃんがトテトテと、トモに着いていく。

 それをあかねも追いかけて。


 俺と佐々木さんと狂墨が残って。


「トモちゃん。

 心配ねぇ。旦那様でしょう? ちゃんとケアをしないとねぇ」


「って言っても。わからん」


「お、重いわ。

 なんか、歳取らずに未来へタイムスリップ! ラッキーって思ったけれど。

 世界感が重すぎで乗る気じゃなくなったわ!!」


「俺も、気楽な人生を送りたいさ!」


「ど、どうにかしなさいよね!!」


「全部長禅儀のせいじゃないか!」


「そ、それもそうね。

 アイツのせいよ!!」


「誰のせいでもいいけれどぉ、過去には戻れないのよぉ?」


「未来に来たんだ。過去にも行けるはずだ!」


「もし仮にぃ、そうだとしても、どう調べるのぉ?

 行けてもぉ、結局この世界のパラレルワールドぉになるんじゃないのぉ?」


「た、たしかにな」


 もし、過去に行けて改竄したとして、この侵略された世界とは違う歴史になる。

 すると、ここで苦しんでいたトモとは違うトモが居るわけだ。


「もう一度あのダンジョンに挑戦しましょう??」


 と、狂墨が提案してきて


「またぁ、未来に行ったらぁどうするのぉ?」


「うっ」


 今は、ここで生きるしか、手段はなさそうだ。


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