第42話 田淵グループと歴史
田淵グループは本社を大分県の中津市に置く。
実態はテーマパークと私立学園の運営をメインとしており、
米国最大の企業である、アドミラル・インダストリー・ユニオンと40%ずつ株式を交換している日本最大のグループ企業だ。
その最大の金のなる木は
旧名『健康になる水』
現在は、アドミラル・インダストリーと共同で開発した
『超人薬』。英名『Superhuman serum』。
全世界で販売を始めたそれは、今やダンジョン攻略で必要不可欠である。
本社を中津市としたのはちょうど、別府にあるテーマパーク『ミヤケーランド』と田川市に設立された『私立セント・ヴィレリア学園』のちょうど真ん中にあるからで。
それに、とりあえず日本海側であるので、船便での輸送が多くなった現在かなり、立地的には重宝している。
「えっと、電話は繋がりませんか?」
「申し訳ありません、会長」
「仕方がありませんね」
メガネをかけたスーツの男。
彼は田淵。またの名を会計マンと言った。
田淵グループがひとえに大きくなった背景には、ある人物の影がある。
その人物は未亡人であり、会長以外の前には姿を表さないことから、会長の愛人と言われている。
そんな事実は無いと弁解していても、部下の噂にすべて栓をできる訳ではない。
それに、世界的なグループ企業になってしまった現在。
どこからでも火のない噂は立つものだ。
会計マンが電話をするのは、福岡県の新宮周辺にある、超巨大なビルの三宅邸。
『なに?』
「会議なんで。
話だけでも聞きませんか?」
『じゃあ、付けっぱなしでいいよ』
と、やる気のない女性の声。
そうして、田淵グループの株主総会が始まった。
●
デミオン・ハバジッチ。
今の世界で知らない人間は居ないほど。
世界一有名な、テロリスト。
彼が最初に世界に衝撃を与えたのは今から4年前の
2031年9月10日
チリと新興国家のダンジョン資源を巡る武力衝突だった。
ダンジョンでは、人間に特殊な才能(タレント)が与えられるのは一般的に知られていた。
だが、それは基本的に地上では縁が無いものと考えられていたし、
結局現代兵器のほうが強いだろう。という楽観があった。
それを根本から崩壊させる『量子砲』の破壊力は、世界を震撼させた。
デミオンはそれから行動を起こし、新興国家との紛争の解決に尽力した。
だが、トラベラーが兵器より優れていると証明してしまった一件であり、
ダンジョンは悪であり、そこから才能を得た人間は人間ではなく進化し超人である。という主張をし、人間は人間だけで生きるべきだ。
とトラベラーと人間を分けて考える「人間派」の思想を持つ人を増やす結果となる。
そこから、世界各国でトラベラーが実力を示すがごとく才能を翳しはじめ、犯罪率の上昇を引き起こす。
それが、人間派とトラベラーとの溝を一向に深めていく。
そういった背景から、地図から消える国、鎖国する国、様々に国境が変動した。
トラベラーの才能は強く、一般人ではそれを止める事ができず、それに立ち向かうのはトラベラーだった。
2031年 12月15日
世界最大のダンジョンが出現したロシアのトラベラーは、ダンジョンで得た莫大な私財と効率的なエネルギー生産工場から共産主義の復刻を唱えた。
それは、戦闘向きではないトラベラーを使った超巨大な工場を作り働かせることで、大陸全土を飢えることがなくなった事を示した。
それが、『新ソビエト連邦帝』の成立であり、周辺国家はその思想に賛成したか、実力で降伏した。
一方で、西側は人間派の活動が強く、思ったように行動出来ずにいた。
こうして、デミオン・ハバジッチも新ソ連を支持し、彼を有するチリもソ連に加盟した。
その時、チリの国土は南アメリカ大陸のおおよそ3分の1を占めていた。
2033年 1月30日
新ソ連の南部進行。
それは、北海道周辺は新ソ連の利益を受け、かなり発展していたことによる。
トラベラーを有効に活用することで、貧困者が居なくなり、富めるものは富む。
この構造から、まずは北海道。それから福島県が日本から独立した。
それは、国よりトラベラー個人の戦力のほうが当てになるからで。
日本に存在していた『戦略院』という機関は機能せず。
トップトラベラーとして日本を護るはずの「長禅儀」。「狂墨」。
含めたSランカーの不在。
彼らが居ればまた違った結果になったはずだろうが。
新ソ連の南部進行に対処できるトラベラーは日本に一人を除いて存在しなかった。
同年 3月26日
ミヤケ・トモ。またの名をユウナギ。
彼女は一人で新ソ連軍から東京を守護し、進行に参加していたデミオンの撤退を含め高位のトラベラーを複数人殲滅した。
だが、彼女もかなりの被害を受けたそうだ。
これにより、新ソ連の世界進行は一時的になりを潜めることになる。
しかし、新潟、群馬、埼玉、東京の県境より東側は新ソ連加盟国となった。
その境目には全長500km。高さ50mを超える壁を築き、関係を保っている。
●
「ーーーーより、新素材から株式は上昇する見込みでありーーーー」
「ーーーー新しく宇宙事業に本格参戦しーーーー」
「ーーーーーーーー故・三宅殿のお言葉からーーーー」
「以上で、これまでの報告とこれからの展望です。
質疑応答をこれより受け付けます」
淡々と司会者は進める。
株主たちはザワザワと隣の人と話したり、新聞社はここで公開された最新情報を会社に報告するために慌てている。
特に、ここで注目すべきは、『MKs』という中津本社ビルにある、グループ企業の成果だ。
以前より、故・三宅会長からの資金提供を受けており、その結果が今実ったというわけだ。
【 ・超軽量・超耐久鋼材の発見。
・石油を代替した魔石エネルギーに変わる超効率エネルギーの発見。】
最近の中津市郊外の山の開発で建築中のビルは、ドバイの「バージュ・カリファ」を大きく超える1000m級ではないかと噂されていたが。
それが事実であり、新素材の証明を同時に行った形だ。
大きな質問も無く、事前にかなり詳しめの資料を作った甲斐があって。株主総会は終了の流れになった。
『田淵さん』
「はいはい。なんでしょう?」
総会が終わり、初めて口を開いた電話越しのユウナギは
『旦那様は死んでないわ』
「でも、もう4年ですし」
『カイリもいるのよ?
他にも長禅儀もいたわ』
「そ、そうですが。
もう何度も何度も捜索はしましたし」
『知ってる? 私達が落ちた海上に最近ダンジョンが出現したらしいわ。
そこに新ソ連が人工島を作って攻略をはじめたそうよ』
「ノアさんから聞いてはいますが」
ノアというのはアドミラル・インダストリーから出向してきた秘書のような女性で。
『一度、そこへ行くべきだと思うの』
「壁を超えるのは難しいですよ。
いくらミヤケさんでも」
『というわけで、私は行ってくるから。
急用があったら、あかねちゃんに言って』
「え? あまり国際問題にならないようにしてくださいね。
そもそも、ミヤケさんは日本の最大戦力なんですからーー
って、もう切れてるし」
田淵はため息をついて。
その背後から歩いてくるのは田中で、またの名をスタッフ。
現職コンテンツ戦略リーダー。ミヤケーランドや学園での提供物の管理をしている部長級の役職で、かなり出世した。
「大変そうですね」
「ええ。まあ。
謎の飛翔体が北の国から飛ばなくなって油断していましたよね。
でもですね。
ミヤケさんが言うには全員無傷で生きていたはずなんですよ。海に落ちるまでは。
そこから、見失ったそうで」
「自分も聞いてますから。何度も。
でも、そこにダンジョンでしょう?
これは匂いますね」
「だといいんですがね。
あんまり期待してませんからね」
▼▼▼▼▼▼
「遠くになにか見える」
それは、日本の町並みには全くそぐわない鈍色の壁。
それが横に無限に続いているのが見える。
新幹線で、千葉市に移動中。
日本大使館がそこにあるそうだ。
俺たちは違和感しか無かった。
日本だが、その移動中見るのはほとんどが外国人だった。
確かに、日本人は居るが看板も見慣れない言語に変わっており
日本じゃないみたいだ。
「あんまりキョロキョロするなよ」
長禅儀が俺に指摘して
「きな臭いぞ。
かなりオレたちを警戒しているようだ」
「そうねぇ。
トラベラーというかぁ、実力者がぁ結構周りにいるわねぇ」
座席を囲むようにして、体格のいい外国人が居ると思ったが。
そういうことか。
だが、カイリちゃんはそんなのを気にせずに、販売員にお菓子をせびっていた。
いや、そのくらいお金払うから。
え? 円じゃない。
どうして??
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