2 侵攻編
プロローグ <0>
俺たちは、ダンジョンの中にいた。
「えっと、カイリちゃーん?」
「どうした? だんなー?」
そこに居た。
「三宅さぁん。そこにいるのねぇ?」
ダンジョンの中は、暗く、手元さえ見えない状況だった。
ダンジョンとはいうものの、ダンジョンでは視界は十分に確保できる程度の明かりは常に壁が発光していたので、あったのだが。
そうすると、今俺たちがいるここはダンジョンではないのかもしれない。
「ユウナギー? あかね?
居ないのか??」
「誰? 誰の声なの?」
涙声で叫ぶ女の声。
カイリちゃんが魔法で光を出現させると
おろおろと彷徨いながら、号泣している狂墨が居た。
「あぁあ。人だ! 人だよぉぉおお!!」
ブハァ。と、鼻水を出しながら駆け寄ってくる
「ズビーーー」
と、俺の服で鼻をかんで。
「ふぅ。スッキリ」
狂墨はそうやって、顔を上げると
真っ赤に充血している瞳と俺の目が合って
「な!! へ、変態!!
どうして、わたしの!! あれ?
ここはどこなの?
監禁されたの? わたしは一人!?」
「まぁ、落ち着けよ。
そこにカイリちゃんと佐々木さんがいるだろう?」
と、狂墨の肩を叩きながら
「べ、別に二人ぼっちでもいいけれど!!?
し、仕方が無いわねぇ?」
「いや、カイリちゃんたちがそこにいるって」
「よくじょうおんな。
だんなーは私の」
と、カイリちゃんが魔法で出現させていた光の玉を狂墨に近づけて
「あっつ!!」
ジュッ。という音が聞こえて、俺も驚いた。
「ほらぁ。まずは落ち着きなさぁい?」
コツン、コツンと、靴の音がして
「そこにいるのは、誰なの?」
壁伝いにやってきたのは、金髪の美少女。
アトリアナだった。
「一人か?」
「そ、そうなの」
手を胸の前で交差させて身を守るように
「別に、何もしないさ。
ほら、こっちにカイリちゃんもいる」
「ん」
「よかったの。安心。
襲われるかと思ったの」
「ないない」
「暗闇だからばれないと思ったんだがなー」
と、アトリアナの背後から音もなくストーカーしてきたのが長禅儀。
「ひぃ!!」
怯えるアトリアナは、その場で頭を抱えてしゃがみこんだ。
佐々木さんが助けに行って
「護衛してたのぉ?」
「スキを見て襲おうとしただけさー」
「ありがとうねぇ」
佐々木さんがアトリアナを支えながら寄ってきて
「おい、長禅儀。
ユウナギを見なかったか? ついでにあかねも」
「ん? いや。見てないさ。
オレが見つけたのはアトリアナだけ。
あのおっぱいは見てないな」
「…………」
長禅儀を見てカイリちゃんが不機嫌になった。
だが、ここでユウナギたちと逸れるわけには行かない。
ここがどこだとしても。一応、と言ってももう家族のような存在なのだ。
「カイリちゃん。
もっと明かり増やせる?」
「ん。大丈夫」
と、10個程光玉が追加で召喚されると、そのダンジョンの全貌が見え始めて
「かなり、広いな」
「そうねぇ。
ここまで天井が高いダンジョンってあったかしらぁ?」
「いんや。
オレが知る限り、だいたいダンジョンってのは同じような空間が広がっているが。
これはわからん」
長禅儀はさじを投げて
「というか。俺たちは海に落ちた気がするが」
「そう。しょうげきをやわらげるまほーをつかった。
あれにも、しかたなく」
と、長禅儀を見て
「優しいなー。カイリちゃん!!」
と。抱きしめてから頭をよしよしする。
フン。と鼻を鳴らして。カイリちゃんはされるがままになって
「これは。人工物か?」
長禅儀が俺たちが集まっている広場のような開けた場所の中心に建っている天井を支えているのか、柱を触りながら
確かに、それは金属のような光り方をしているし、手触りも鉄のように冷たい。
「本当に、ここはダンジョンか?」
「それは、この際どうでもいいけど。
まずは、ユウナギとあかねを探さないと」
「だんなー。
たぶん、ここに居ないかも」
「どうして?」
「まほーをつかったのは、ここにいる人だけ。
ともーとあかねは実はとんでった」
「!?」
「ともーはそらを飛んだ」
「飛べそうだとは思ってたけど」
ユウナギの才能は翼戟を召喚してそれを自由自在に飛ばして敵を攻撃できた。
それに乗れば空を飛ぶことも可能?
「そう。あのふたりは多分ここにいないとおもう」
「でも」
「まずは、ここから出ようぜ?
オレたちが来たあっちではないぞ」
長禅儀が指差す方はアトリアナと一緒にやってきた方面。
「あっちは行き止まりだ」
「じゃぁ。こっちしか無いのか」
広場とは言いつつも、道は二本しか見えない。
片方が行き止まりなら、残された方に行くしか無いだろう。
「嘘じゃないか?」
「ここで嘘ついてなんになる?
早く出て温泉に行きてぇよ。
せっかくミヤケーランドに行く予定がよ」
「あ、まいど。
沢山お金を落としてね」
「早く出たらな」
そうやって、俺たちは歩き始める。
●
結論から言えば、俺たちが居たのはダンジョンだった。
モンスターが沢山出てきたが、その実力はかなり低い。
というよりも、長禅儀が睨むだけでバタバタと倒れていって
その能力がすべて長禅儀に吸収されていった。
「あんまり、弱いと増えないんだよな」
と、長禅儀からすれば、かなりレベルの低いモンスターたちらしい。
カイリちゃんは、アトリアナに防御結界を張りながら長禅儀が作る道を歩く。
不愉快そうだった。
「ダンジョンっても、ここはBランクも無いな」
「十分強いけどね」
大半のトラベラーの稼ぎはCランクダンジョンで生産される。
Bランクダンジョンはトップ層が攻略するような高難易度ダンジョンと位置付けられているが。
「ここだな」
巨大な扉。
それは、俺が昔攻略したダンジョンのボス部屋よりも豪華な装飾をしてあり
だが、開ける取手が着いてなかった。
その扉の横に、タッチパネルのような機械を見つける。
「ここにパスカードでも当てるのか?」
なにか、認証が必要そうな雰囲気を感じる。
とすれば。取手がない扉は自動ドアだろうか。
「ダンジョンってのはファンタジーだと思ってたが。
これは新しいな。昔の超文明の遺跡か? ここは」
「お、面白い考察なの。
研究しがいがありそうなの。
早くここから出してくれなの」
アトリアナがガタガタ震えながら命令して
「いや、開かないんだが」
長禅儀はそう言いながら、扉を調べていて
「ぶっぱー」
カイリちゃんが扉の方へ手をかざすと、そこに炎が収束する。
「しね」
それはレーザーだった。
超高温の炎のビームは扉を溶かして人が一人通れそうな穴を空ける。
「これも金属だったか」
扉をまじまじと見つめて、長禅儀は考える。
ダンジョン内に金属でできた扉は存在しない。
だが、ここは普通のダンジョンでは無いのは明白。
しかし、ダンジョンと同じようにモンスターが出現して、ドロップアイテムも落とす。
それに、死んだモンスターはダンジョン内に吸収される。それも一緒。
だからこそ不気味だった。
「ところで」
俺に引っ付いている狂墨を見て
「お前は何してるの」
「な、何よ。
長禅儀が全部やるからいいでしょ?
わたしは動かないから! うーごーかーなーいー!!」
「いや、そうじゃないんだけど」
さっきからカイリちゃんの視線が痛い。
腕にしがみつかれているので、痺れて、そろそろ感覚が無くなりそうだった。
「お。ボスが居るぞ?」
「はよころせ」
「うっす」
カイリちゃんが命令して、
次の瞬間に、巨大な爆発音と、絶命の絶叫。
一瞬だった。
扉が消えて、道と繋がる。
長禅儀がボスを瞬殺してボスフロアが開放されたのだろう。
俺たちはそこを進んで、合流する。
「ドロップしたのは、宇宙服か?」
と、長禅儀が広げるのは、白を貴重とした分厚い布で作られた全身を覆う服。
頭にはガラス張りのヘルメットで、教科書で見たような昔使っていた宇宙服のようだ。それは、俺以外も同じような印象らしく
「どうして?」
「ここは、やはり昔の遺跡がダンジョン化したと思うの」
「そんな事あるのか? 昔って言っても、この宇宙服が存在してるなら、そこまで古そうじゃないけど」
「……。早くダンジョンを出て研究するの。
一旦支部に帰って研究道具を持ってくるの」
アトリアナの目がキラキラしていて
とりあえず、ダンジョンのボスを倒せば外に出るためのポータルが出現するのだが。
と、考えていると、ボス部屋の端に光が昇るポータルを発見した。
「あれが出口か。
ひとまず、外に出ようか」
「そうだな」
「そうするの」
ドロップ品の宇宙服は、かなりの重量のはずだが、長禅儀が肩に掛けてゆうゆうと歩いている。
やはり、こういったところで実力の差をはっきりと感じる。
「どうしたの? 佐々木さん」
「え? あぁ。
別にぃ。なにもないわよぉ」
じっと、考え込む佐々木さんは、話しかけると駆け足で俺たちと一緒にポータルに乗ってダンジョンを後にした。
●
そこは、海上に出来た人工島だった。
そこがダンジョンの出口として設定されていたようで。
「は?」
俺たちは首を傾げる。
そこに居たのは沢山のトラベラーだったが、しかし。
日本人では無かった。
「Откуда ты?(キミたちは、どこからやってきたんだい?)」
「は?」
「Ты японец?(日本人か?)」
うーんと、俺たちを順番に見て首を捻る。
アトリアナで止まって、俺に戻ってくる。
「ロシア語なの。
日本から来たのか? と聞いてるの」
「意味がわからん。
俺たちは何に巻き込まれたんだ?」
以下、アトリアナの通訳で
「ここは新ソ連の領海だぞ?」
「新? は?」
「そんな国は無いはずなの」
米国のアトリアナはその話題にかなり焦っているが
「3年前に宣言しただろう?
まさか知らないとは言わないよな」
「3年?」
「そうさ。
日本も半分は仲間になったんだぞ?」
「何を言っているんだ?」
俺の頭は全く付いていかない。
「みてだんなー」
カイリちゃんが手にする端末。
それはインターネットに繋がる。
そうして表示したのはカレンダー。
「え? 本当? バグ?」
「こっちもよぉ?」
と佐々木さんも同じく。
それは、俺が知っている年より、4年進んでいた。
2035年 10月。
「まぁ、キミたちがどっちの日本人なのかわからないけれど。
とりあえず、ここはダンジョンで危険だから本島へ行こうか」
と、俺たちは船に乗せられて着いたのは『銚子港』。
千葉県の港で
「ここは? 新ソ連?」
「の、最南端さ」
「日本ですがここは」
「さっきから、キミたちはどうしたんだい?
タイムスリップでもしたのかい?
ここが日本だったのは2年前だろう」
「んん???」
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