第37話 事件 じゃあ逃げる

11月12日 福岡県 自宅


「三宅さぁん? テレビ見たぁ?」


「俺はあまりテレビを見ない派だ」


「今日はやばいわよぉ」


「でも、リビングのテレビはカイリちゃんが占領してるし」


「二階はそうねぇ。

 上とか下とか。あかねちゃんの部屋にもテレビが有るわよぉ?」


「そんなにテレビあるの?

 俺、あんまりこの家の事知らないわ」


 頭を掻きながら

 俺はあかねの部屋を開けて


「ぎゃーーー!!」


 着替え中のあかねが叫んで。

 それを無視してから沢山のゲーム機のコードがぐちゃぐちゃに配線してあるテレビのリモコンを探す。


「な、何しに来たんだよ!!」


「テレビを見に来た」


「他にもいっぱいあるよね!!」


「ここが一番近かったし」


「それは仕方がない」


 トレーナーを一枚着て。

 下にはショートパンツだろうか。彼シャツ状態で判別ができない。


「それで?

 なんでテレビ? かずくんはテレビ見ないタイプじゃ?」


「そうなんだよ。

 佐々木さんがさぁ」


 あかねが俺の横にぽすんと座ってから、テレビの電源をつける。


「ほれ。

 なんチャン?」


「しらん」


 だが、そんなこと調べなくてもすぐに分かった。


 どのチャンネルでも同じニュースをやっていたのだから。


「えっと……??

 やばいよね」


 つぶやくあかねに

 俺はうなずいて


 真っ先に会計マンに電話をかけた


 数コールででた会計マンは少しだけ安心という風に


『見たんですか? ミヤケーランドのコールセンターはパンクしてますよ』


「だよねぇ」


 笑い事では無かった。

 いいニュースと悪いニュースが同時に俺に降り掛かってきた。


 だが、多分悪いニュースのほうが印象強いので、この波は時期に俺にまで影響しそうだった。



【鹿児島県 桜島付近のダンジョンで大学生グループ 行方不明】


 その内容は簡単で。

 一人を除いて二十人近いサークルメンバーが全滅した。


 生き残った一人は、ミヤケーランドで販売している「健康になる水」を所持しており、命からがら逃げられたとのこと。


 この大学生サークルは、別府ミヤケーランドで才能を得てトラベラー資格を得ずに入退が管理されているはずのダンジョンに不法侵入して全滅。


 ミヤケーランドの責任放棄とも言える才能を持ったトラベラーの量産。

 それに、ダンジョンの出入りには必ず国の門番が居るはずで、彼らがトラベラー資格を認証して管理しているはずだった。

 もしも、新しいダンジョンであればその類ではないが。

 今回はかなり昔から知られている<桜島ダンジョン>。


 国家資格を持つ人間が居るはずだった。



『健康になる水は飛ぶように売れてますよ。

 生産工場を増やさないかと、投資の話も沢山。

 実施、現役トラベラーもポーション代わりに持ってダンジョン攻略に臨むらしいですからね』


「そんなに売れてたのか。

 それは、嬉しいけど。

 でも、ミヤケーランドは大丈夫なの?」


『大丈夫かそうでないかと聞かれると、大丈夫でしょうね。

 結局、ここで才能を得る際にきちんと説明していますからね。

 ダンジョンに入る際は、博多ギルド会館へ行って正式にトラベラー登録をしてくださいと。

 そのための簡易受付証も渡しているのですが。

 世間は少し厳しい目を向けるでしょうが。

 世界的にはよくあることです。

 時期に忘れるでしょう』


「冷めてるね。

 だったら、あんまり深く考えなくていいかな」


『そうではないですよ。

 叩けるうちに叩きたいメディアが三宅さんの家に突撃するかもしれません』


「そんなわけないーーー「ピンポーン」ーーーじゃん」


『ほら』


「まさか」


「出てこようか?」


「佐々木さんが行くでしょ」


「この家、捨てるの? わたしも?」


「丁度いいかもしれないな」


「うそでしょ??」


 青ざめるあかねを見て。


「この際旅行も兼ねて宮城県へ行こう」


「どうして? わたしも行く」


「東北大学に用があってね

 俺は宇宙に行きたい」


「大学? わたしには縁がないわね。

 やっぱり家に居ようかしら

 というか、宇宙ってなにもないわよ」


 行ったことがあるの?


 ガチャリ

 と、あかねの部屋の扉が開いて飛び込んできたのはカイリちゃんだった。

 

「だんなー。らなうぇいらなうぇーい」


「なんだって?」


「らんなうぇい!!」


「よし。宮城行きの飛行機を手配するぞ」


「もう取った」


 ユウナギの声がした


「どこ?」


「ここ」


 と、俺とあかねが座っていたソファの後ろからヌゥっと出てきて


「あ、おはよ」


 あかねが挨拶してから


「起きたらあかねちゃんと旦那様がイチャイチャしててびっくり。

 べつに3人目でも構わない」


「なわけ」


「なんでよ!!」



「せっかく来てやったのに。カイリはどうして顔も出さないんだ?」


「あらぁ? 嫌われてるのよぉ?」


「そんなはず無いだろう? お兄ちゃんだぞ?」


 一階の客間にパッとしない黒トレーナーの男がいた。

 その対応をしているのは佐々木さんで、知り合いのようだった。


 それを隙間から覗いて


「おう。

 お前がだんなか? 挨拶しに来てやったぞ? 

 兄としてな」


 あっさりと見つかって


「カイリちゃんにお兄さんは居ない!!」


 と反論するが


「いるさ。後でカイリに聞いてみな?」


「うふふぅ」


 なんて、佐々木さんは笑う。


「それはどうでもいい。

 佐々木さん。今から外出るけど行く?」


「あらぁ? テレビは見たのかしらぁ」


「追求が来る前に逃げます」


「ははは。面白いなお前」


「誰だよ」


「三宅さぁん。

 あんまりぃ、この人を苛立たせるとやばいわよぉ?」


「いや、まぁ。

 俺ん家に知らん人が居るし」


「お前、トラベラーだったら知っておいた方がいい人が何人か居るんだぞ」


「まぁ、最近ダンジョンに入ってないし。

 そろそろ引退かなってね」


「そうかそうか。

 そういえば、カイリもそうだったな」


「…………」


「なんだよ?」


 俺の嫌な気分が相手に伝わったのだろうか、少ししか目面をしてから


「人の嫁を呼び捨てってな。少し感じ悪いな。

 誰なのか名乗ってくれても無いくせに」


「ははっは。

 これは失礼したな。

 オレは、長禅儀 和朋。

 名前くらいは知ってるよなぁ」


「長禅儀?

 トップランカー?」


「そうそう。知ってるじゃないか」


「こんなにパッとしない人だったのか。

 もっと清潔感のある格好をすれば印象は変わるぞ」


「がははは。

 初対面の人間に言うことじゃないぞそれ!」


 笑っている長禅儀。

 本当なら、一瞬で俺程度殺せるだろう。

 まだ不快とも思っていないのだろう。


「じゃあ。挨拶もしたし。

 一旦帰ってくれ。今は立て込んでるからね」


「そうみたいだな。

 オレも驚いたよ。二十人も居て頭の回るやつが一人も居なかったのがな」


「<桜島ダンジョン>はそんなに危険とは聞いてないんだけどね」


「そうさ。

 あそこはBランク程度。鼻くそレベルだよ。

 よほど才能が無かったんだろうさ」


 トラベラーの大半は才能だ。それは間違いようがない。

 しかし、二十人も居てすべてが戦闘向きではないはずがない。


「長禅儀さん。 

 俺もこんな機会じゃなければ話せないとは思うけど。

 ユウナギが予約した飛行機がもう移動しないと飛んじゃうんだ」


「ほぉ。それは急がないとな。

 オレも一緒に着いていこう」


「目的地はダンジョンじゃないけど大丈夫?」


「また投資か?

 懲りねぇな」


 と、俺たちはタクシーで福岡空港まで移動した。




「これは何?」


「だから行ったじゃないかぁーー」


 ダンジョンの道を埋め尽くしているのは、死体もどき。

 ブヨブヨのそれは、壁のように何百も折り重なって先に進めない。


「こんなことになってるなんて、知るわけないじゃない!!」


「自分にキレてもなんもないっすよぉ」


 狂墨は、面倒になったのか一旦深呼吸してから


「帰りましょう」


「やっとか」


 ガックシと肩を落としてから

 他のメンバーたちはガッツポーズを隠そうともしない。


「塩かけたら溶けて消えないかしら」


「ナメクジじゃないんですから」


 それで消えたらいいのになと、男も思った。


 

 地上に戻って、魔石の回収依頼を受付カウンターで精算したあとに


「長禅儀が福岡に行ったそうですよ」


「福岡? 何かあったかしら?」


「三宅さんが色々やってますからねぇ」


 あれから、男と三宅は少しだけ連絡を取り合う仲になっていた。

 しかし、今はダンジョンに一週間以上潜っていたので何も話していない。


 ちょうど、電波が届いたのか端末のバイブがなり


「お、噂をすれば」


 『宮城に居ます。長禅儀も一緒です』


「なによ」


 狂墨が覗き込んできて


「よし、宮城にいくわ」


「休ませてくださいよぉ」




 飛行機のファーストクラスに乗ったのは初めてだった。

 椅子が心地良い。


「プライベートジェットは無いのか?」


「えー。要る?」


 と、長禅儀に見せつけるように俺の上にコアラのように張り付いて離れないカイリちゃんに聞いたら

 ふるふると、首を振った。


 だが、あかねが後ろから


「絶対要るわ!! 買って!!」


「だよなぁ。

 俺のお下がりをやるぞ。ちょうど新しいのが欲しくてな」


「やったわ! かずくん。幾らか知らないけれど」


「ユウナギよろしく」


「50億だ」


「たっか!!??」


 端末を操作する長禅儀。

 次にユウナギが


「買ったわ」


 と。これで俺もセレブの仲間入りか。


 ギュッと、カイリちゃんがしがみつく力が強くなった。


 俺も抱いている腕の力を強くした。俺の胸に顔をうずめてから、誰とも顔を合わせようとしない。


「かずくん!! わたしの? それ、わたしのでいいのね!!」


「そんなわけ無いだろ」


「これは羽田に近いところに保管してるが、宮城の帰りに使うなら連絡しとくぞ」


「教えて下さい」


 と、ユウナギが端末を持っていって長禅儀から話を聞いている。


「どうしてぇ、無駄遣いするのかしらぁ」


「実は俺も欲しかった」


「そんなにぃ、県外に行かないじゃない」


 そういえば、田川と別府にしか行かなかった。

 どちらとも空港はない。


「ヘリコプターのほうが良かったかな」


「ソッチのほうがぁ、小回りがききそうねぇ」


「ヘリか。

 そうだな。飛行機もそうだが、整備士もつけて売ってやろう。

 どうだ? 2億だ」


「安い!!」


「買った」


 ユウナギが即決済をしてから


「待ってぇ。まずはぁ、保管場所をぉ決めておくべきじゃぁなぁい?」


「あとからで」


「そう言って忘れてるのよぉ」


「ヘリ?? 運転する!!」


 目を輝かせているのがあかねで。


 そうして、宮城の仙台空港に到着してもカイリちゃんは一言も喋らなかった。


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