第35話 買取

 11月2日 福岡県 自宅


「ポーションマンからてがみがきた」


「ポーションマン?」


「けんきゅーしてるひと」


「ああ。もうすっかり忘れてたけど。

 【復活の薬】の研究をしているベンチャー企業? だったっけ?」


「そー」


「なんてきたの?」


「ついかしてほしーって」


「【復活の薬】を?」


「そーみたい」


「あらぁ。

 最近はぁ、ぶっちゃけぇ、健康になる水がブーム見たいよぉ?」


「健康になる水? 何それ」


「だんなーは忘れてる?」


「忘れるって何を? まぁ俺は何も考えてないのは認める」


「ミヤケーランド の目玉商品らしい。

 私もよく飲んでる。あれは健康になる」


「だんなーがきーろいえきたいまぜてうりだした」


「【復活の薬】を。

 ああ。そうか。あの鶴見の湯の詐欺商品を本物にしたやつか。今思い出した」


「あれはぁ、今。見てぇ?」


 佐々木さんが端末を操作してから、テレビにそれを写す。


 それはオークションサイトだった。


「健康になる水。1ケース。未開封。

 10万円?」


「私は、定期便を使ってるから。

 200円の6本で1500円」


「詐欺られてない?」


「でもぉ、それがぁ定価でしょぉ?」


 つまり、1500円が10万円で取引されているという話。


「健康になる水って、水に一滴より少ないぐらい入れてるって話らしいけど。

 それでも、話題になる程の効果があるのか?」


「見てないのぉ?

 老人体育大会はぁ、とってもぉ、面白いわよぉ?」


「老人に興味ないんだよなぁ」


「だんなーはせかいがせますぎるー」


「ブーメラン!!」


「私はそーじゃない。

 私はたくさんいろいろなことを知ってる」


「例えば?」


「ダンジョンのてきのじゃくてんとか知ってる」


「カイリはぁ、見たらわかるでしょぉ?」


「アニメとか、みてる」


「あかねちゃんからお勧めされて寝てるそうね」


「ぐぬぬ。

 てりょーりしてる」


「キッチンに黒こげのフライパンとか放置してるのはカイリちゃんだったのか」


「私のせかいはひろい。

 たくさんしってる。はかせ」


「本当にぃ?」


「そ、それは。

 どうでも良い。

 どうでも良いから。

 はいだんなー。これあげる」


 手渡ししてきたのは、封の開いた手紙。

 そのまま、カイリちゃんは部屋を出ていって、その次にはあかねの叫び声が聞こえた。


 手元の手紙を見る。差出人は、ポーション研究所の所長からだった。


「なになに?

 明日!?」


 世界中からの対応が忙しいので、予定していた通り11月3日に博多ギルド会館へ行きますね、との内容だった。


「ちょっと、何も知らないんだけど??」


「あぁ。カイリが一昨日くらいにぃ、電話していたのはぁ、この件だったのねぇ?」


「何も教えてくれてないけど」


「でもぉ、予定なんてないでしょぉ?」


「行けるけどね!!」




 会計マンには様々なことを放り投げている。

 学校もそうだし、ランドの運営も。それに、【復活の薬】の情報操作もしてもらっている。


 彼は、プリンターから印刷されてきた記事に目を通して、頭を抱えた。


「どうして、こうも。

 三宅さんは面倒ごとを沢山作り出すんでしょう」


 <筑豊ダンジョン>での薄めた【復活の薬】の配布。

 それに、健康になる水の成分表。


 一致してしまって、伝説の薬を持っている、またはドロップしやすいダンジョンは福岡にあるのではないか? との噂が立っている。という話だった。


 その噂の一端には、<筑豊ダンジョン>前に計画されている学校関係で、全国のそこそこ力のあるトラベラーが沢山福岡に入ってきていることもある。


 報酬が旨いのと、トラベラーの育成。

 彼らはまだパイオニアである。よって、後陣の育成に興味のあるトラベラーは多かった。


「確かに、<天神ダンジョン>でドロップしたようですけれど」


 そうして、もう一枚の書類に手が伸びて、

 会計マンは気絶した。


【長禅儀 和朋の福岡訪問が決定!!】





「お疲れ様です。吉田です」


「はい。どうも」


「単刀直入にお尋ねします。

 【復活の薬】をあるだけください。

 相応の値段で買い取ります」


「話が早いのはとても嬉しいけど。

 どのくらいを考えてるのかな?

 この間は、50mlで50億円だったけど」


「現在自分たちが用意できる額で5000億円です」


「100倍」


「つまり、前のレートで換算して5000ml。5リットル分です」


「そんなにあると思う?」


「いえ。

 ないと思っています。

 ですが、前回よりも多い分があれば全ての額で買い取っても構わないと思っています。

 全世界と言いますが、ここで正直にいうとですね。

 アドミラル・インダストリーが自分の会社を買い取りまして。

 研究はかなり進みそうなんです」


「そうだなぁ」


 カイリちゃんを見て

 しかし、カイリちゃんは全く興味がないようで俺を見ない。


 ユウナギは遠くの椅子に座って小さい翼戟を召喚してくるくる回して遊んでいる。

 佐々木さんは、会計マンと二人で喋っている。

 

 結局、誰もこの額のお金が動くお話に興味がなかった。


 俺は、内心焦っている。

 


 こんな額が動くのに、俺の入れには現在2リットルペットボトルで【復活の薬】が150本以上放置されているのだ。

 つまり、10万ml。

 30兆円。


 小国の国家予算くらいあった。


 いや、これほど市場に流せば相場なんて狂ってしまうだろう。


 とりあえず、絶対にバレないようにして。


「全部は無理ですが。

 これをあげましょう」


 と、ポケットに入っている50mlの小瓶5本を机に並べて。


「実際はあと何本あるんですか?」


「むげnーー

 いや。あと3本くらいかな」


「そうですか。

 それは三宅さんたちで使ってください。

 この5本をこの額で買い取ります。ありがとうございます」


 提示されたのは、3000億円。


 アドミラル・インダストリーがバックについたとはいえ

 狂う位おかしな額のおかねが俺の口座に振り込まれてしまった。


 それに気がついたカイリちゃんは


「だんなー。

 エバつくろー」


「エバ? って、あの人工生命体の?」


「でっかいやつ」


「ははっ。自分も昔よく見てましたよ。エバ。

 最終章がよくわからなかったですが、映像で泣きました」


「俺も見た見た。

 赤い槍とか、めっちゃかっこよかったから槍使いになりたかったけど。

 向いてなかったよ」


「エバってあんまり槍使わないくないですか?」


「それでも、2槍構えた姿とか、神々しかったけど」


「ああ、わかります」


「だんなー、ポーションマンともりあがらないでー。

 私がエバにのる」


「え?

 本当に作るの?

 でも、模型とか? 皮くらいなら再現できるかな?」


「おお。本当に作るなら、協力しますよ!」


 ポーションマン吉田が参加を表明。

 とても忙しいとか言ってた気がするけれど


「知り合いを紹介しましょう。

 発泡スチロールとか使って、ガン●ムとか作品の実際の大きさで再現とかしてるんです、その方」


「すごっ」


「えー。

 私は、エバのほんものをつくりたい」


「あれ、宇宙人だけど」


「今なら、つくれそーな気がする」


「まぁ、やってみれば良いんじゃない?

 ほら、お金増えたよ」


「100おくえーんもらったー」


「それでもなお減らない桁」


 お金はもう諦めた。

 多分、【復活の薬】を手放さない限りこれからも増えていくのだろう。



 

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