第33話 ダンジョン発見と開発
「モンスターですか?」
俺が尋ねると、女将さんが笑って
「ペットですぅ!! 可愛いでしょう?」
「人の感性は人それぞれですねー」
「お客さん、気をつけてくださいね。
ほら、自分の手首取られました!!」
と、男が俺に話しかけてきて。
その左手には、男自身の右手を持っていた
「きもっ!!」
「自分もそう思います。
動きます」
右手が男の声と同時に俺に手を振り始めて
「まじきも」
「そうです。温泉に入らせにきたんですが?」
「入らせに?
紹介してくれたんですか? ありがとうございます」
女将さんに踏みつけられたままの無職男。
それに感謝してから
「というか、温泉? ダンジョンがどうとか言いませんでいたか?」
俺が尋ねると
「そうです」
と、無職男と同じようにうつ伏せに倒れ込んでいる男が返事をした。
「あ、私はこの旅館の大将をやっています。
この手首を持った男が平門です。
こっちが女将です」
「どうも」
目線が合わないが
「それで本題に入るんですが、
今日温泉内部のサウナルームにダンジョンが発生しました。
これからちょうどギルドに報告しようと思っているんですが」
「今日できたんですか?」
「まあ。昨日にはなかったですから」
「三日くらい見回りしてないので本当はそれよりも前からあったかもしれませんね」
「おい。掃除したとか言ってなかったかな??」
「喧嘩は後にしてくださいよ。
それで、ダンジョンに入った。んですよね?」
トラを見て。
「そうですー。
一週間前からちょこちょこ潜ってたんですけど、
今日平門くんが入ってきてびっくりしたんですよー」
女将さんが頬に手を当てて言って
「一週間!?!?」
大将が驚愕の声を上げて
「お、俺はそれほど放置していたのか」
「大丈夫。私以外は入ってないから」
ダンジョンを発見したときは報告義務が発生するが、この女将は知らなかったのだろうか?
しかし、ここまで大きいトラを連れまわせるとは。
テイマーの才能をもっている人は見たことがあるが、これほど大きなモンスターを手懐けた例は見たことがなかった。
「一応、見ても良いですか?
とりあえず、自分Cランクのトラベラーなんで」
「Cランク!?!?」
大将のリアクションが忙しい。
●
ひとまずダンジョンに入って見回ったところ、素手の俺でも十分対処可能で、体感低級のダンジョンだと感じる。
とりあえず、一般人が間違えて入ったとしても一層までなら逃げる程度はできそうだった。
「でも。このトラはどこにいたんですか?」
女将に聞いて
「この子は、いつの間にか居たんですよ」
「??」
「失礼ですが、才能の方は?」
「召喚。です」
「な!」
それは、外国でいくつか確認例がある才能だった。
『ゴォォォォ』
ダンジョンの入り口で無職男と大将が震えている。
平門は右手を持ったままトラと戯れいて
「獣使いって言ってませんでしたか?」
平門の疑問に
「嘘でしたー」
「なんで??」
才能は隠した時がいい時もある。
「でも、ダンジョンか。
うーん。そこまで難しい難易度でもないし」
俺は、閃いてしまった。
「この旅館、買い取ります」
「はっ!?」
大将が目を見開いて
「そ、それは??」
「ああ。勘違いしないでくださいね。
ここのダンジョンをアトラクションとして開放しましょう??」
なんて思いつき。
とりあえず、ダンジョンを管理しているのは政府のダンジョン機関。
俺は、そこの一人と知り合いだった。
端末を手に取って、登録されている番号に電話をかけて。
3コールまでには相手は電話をとった。
『はい、どうかしましたか? 三宅さん』
「あ、今から別府に来れますか? 今、GPS送ったんで、ここにきてくださいー」
『えっと、今は少しーーー』
「フットワーク軽い感じじゃないですか。
いつも。
よろしくお願いします!」
と、電話が終了して
「誰ですか?」
女将から聞かれると
「知り合いの国家公務員です。
早速、ここのアトラクション化を考えてくれると思いますよ」
「そ、それは決定事項ですか??」
大将が俺に懇願するように
「解雇とか、そんなことしないですよ。
多分、全て大将にまかせます。
お金は出します」
「???」
頭をひねる大将。
まぁ、説明も何も。とりあえず会計マンの到着を待ってからだ。
●
とりあえず、ダンジョン化したのはサウナだけで。
温泉の効能的にも何も変化はなかった。
そのために、俺たちは当初の目的であった温泉に入ることができた。
「はぁー。
極楽極楽」
「温泉嫌いじゃなかったのかよ」
「入るのは好きだと言ったろう?
服を脱ぐのが億劫なだけだ」
「くそ。変態め。
傷に染みる」
「ほら、これをやろう」
俺の腕についているブレスレット。
そこには液体の入ったストラップがいくつもついている。
そのうちの一本をくれてやる。
「なんだこれ」
「飲んでみろって」
「いや。
お土産屋で買ったやつとかだろ? スノードームみたいなやつ」
「そう見えるか?」
透明なケースに入っている液体は黄色。
到底お土産には見えないが
「小便か?」
「黄色かったら全部それに見えるのかな??」
「舐めてみろって」
「いやぁ。無理でしょ」
かなり拒否し続ける無職男。
「回復薬だ」
「嘘でしょ」
その液体は【復活の薬】。
先週の筑豊ダンジョンでの試供品よりもかなり小型化したものだ。
一滴でもある程度の切り傷なら完治する。
無職男の擦り傷、打撲程度ならこの二、三滴入っている薬でも十分回復すると思った。
「トラベラー舐めんな」
と、無知に漬け込んで
「し、仕方が、ないなぁ」
と、蓋を開けて舌に出して。
味わうようにしてから
シュー。と、無職男から湯気が出て。
それが温泉のものかどうか判別ができないが
「ほら」
「染みるのが、消えた」
「だろ?」
「すごいな。トラベラー」
回復薬をほとんど使わない俺に取って、普通の回復薬がどれほどか知らないが。
「だろう?」
と、勘違いさせたままにしておく。
「そういえば。
才能って、どこで手に入るんだ?」
「正確にはわからん。
ダンジョンに入っただけで手に入った人もいればそうじゃないのもいる。
最初にモンスターを倒したときに手に入ることもある」
「そ、そうか」
目線は、キープアウトの線が引かれたサウナの扉。
あの中には、ダンジョンが存在している。
「やめとけよ」
静止するが。
「お、オレは人間をやめるぞーーー」
「それはかなり際どい発言だからやめとけ」
人間派と才能持ちの対立は日本では小さいが、外国ではかなり顕著である。
無職男は俺以外の誰かが聞いていたら吊るされても仕方がない。
ザバァと温泉からでた無職男は、何も持たずしてダンジョンへの扉を開いた。
『ゴォォォォォォ』
トラがいた。
「ふう」
扉を閉めて、温泉戻ってきた無職男は、ゆっくりと肩まで浸かる。
ブルル。と体を震わせて
「小便するのはやめてくれ」
俺は逃げるように温泉から出ていった。
●
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