第31話 温泉へ行こう

「カイリちゃん」


「なにー?」


「今、いくらあるの?」


 俺は、もうすでにお金が記録されている端末を持っていない。

 カイリちゃんか佐々木さんが持っている。


 どうして、佐々木さんが持っているのかはっきりとはわからないが、会計を一手で引き受けているそうなのでありがたい。


「えー。

 これ?」


 口座の中には【6,390,200,000】円あった。


「これは、学校の30億円が引かれてるの?」


「そーらしー」


 端末の引き落とし額に30億があって驚く。

 一般人の俺にはその額がどのくらいなのかわからない。

 本当は何ができるのだろうか?


「そろそろ、何かしたいよね」


「がっこーつくったのは?」


「あれは、ノリだよ。

 大きな買い物したい」


「えー。ともーを買ったじゃん。

 あれは、5おくえん。えいきゅーしゅーしょく」


「人間は買えません。

 そうだな。

 温泉に行こう」


「とーとつ。

 かいものは?」


「知ってるか?

 福岡にはね、コス●コとイ●アがかなり隣接している」


「すげー」


「車で20分くらい」


「わからーん」


 それが近いのか遠いのかわからないのは俺も同じだった。


「コ●トコの近くの久山町には温泉がある」


「おー。

 べっぷにいこー!」


「そうだね。どうせなら温泉街に行ってたくさん温泉に入ろう!」


「私も行く」


「あ、ユウナギ。

 家族風呂でも大丈夫?」


「問題ない。私は旦那様のお嫁。

 裸を見ても気絶しない大人の女」


「しんぱい」


 カイリちゃんがユウナギを見て。

 そうして、自分の胸を見て。


「よくみたら、ともーはてき?」


「大丈夫だよ。カイリちゃん。

 カイリちゃんはそのままで至高だから」


「だんなーがそうゆーならいいけど。

 おとこはでかいのがいーってきいた」


「誰から?

 カイリちゃん。そんなの気にしないでしょ?」


「ささきーがもってるほんにたくさん書いてあった」


 なんと。


「私もまだまだ。

 日々成長」


 ユウナギはいきなり服を脱ぎだして、その裸体を晒す。

 スポーティーなブラに包まれて


「昨日は聞きそびれた。

 アカネちゃんとはどんな関係?」


 詰め寄るユウナギ。

 その胸が寄せられて谷間が強調される。

 まじまじと見る俺に、ユウナギは顔を赤らめるが


「どんな関係?」


 あかねは下着姿でリビングをウロウロしていたし

 俺の呼ばれ方がカイリちゃんとも佐々木さんとも違うから。


「と、友達だよ」


「友達の裸を見るの?」


「見てないけど!?」


 眼と眼がくっつきそうなほど


「……………きゅぅ」


 ユウナギは、目を回して俺の方へ品垂れかかってくる。

 柔らかい感触。


 この前はユウナギの上に倒れた俺は骨に刺さって苦しかったが、

 逆だとこれほど気持ちがいいものか。

 その柔らかさを堪能していると


「はいどーん」


 カイリちゃんのヤクザキックがユウナギの横っ腹にクリティカルヒット!


「やっぱりおっぱい!!」


 語呂よく叫んだカイリちゃんは転がったユウナギのスポーツブラを剥ぎ取ってから部屋を出ていった。

 

「放置していくなよ」


 カイリちゃんが出ていった扉とは違う方から様子を見ていたあかねが、差し脚で俺の方へ来て


「トモちゃんは大丈夫なの?」


「カイリちゃんは本気じゃないから大丈夫だろ」


「でも、カイリは頭がおかしい。

 女の子を蹴るなんて」


「その予想の付かなさも可愛いよね」


「かずくん。本当。そこだけがイカれてるわよね」


「そんなことはない」


「でも、ごめんね。

 今日は脱いでないから」


「がっかりした」


「ちょ、何よ。

 私に興味がないんじゃなかったの?」


「裸ならぁ、誰でもいいのよぉ?」


 佐々木さんが買い物袋を両手に下げて帰ってきた。


「あらぁ。あかねちゃぁん。

 荷物はどうしたのかしらぁ?」


「…………………………トッテクル」


 どこに捨てたんだろう。





  9月24日 大分県 別府市


「おんせーん」


「お部屋のぉ、お風呂もかなり大きいけれどぉ

 こうやってぇ、天然の温泉もいいわよねぇ」


「我慢。我慢。我慢」


 呪文を唱えるユウナギは隅っこで。


「でも、あたしを連れてきてよかったの?」


「あかねは荷物持ち。

 温泉には入るなよ。脱ぐな。監視してるぞ」


 俺が言ってギランと佐々木さんの両目が光った。


「ひっど!!!」


「うそだ。一人で回ってくればいい」


「それもひどい!! あたしも一緒に行く!!!」


「何だ? お前も家族風呂に入るのか?」


「は、入ってやるわよ。入るわよ。

 い、いちおう? 同じ家に住んでる?

 か、かか、家族?? みたいなものだしね」


「それはちがう」


「そうよぉ。ほらぁ。マンションの隣の人を家族ってぇ、言ってるようなものよぉ?」


「ち、ちがうわい!!!」


 走っていくあかね。どこに行くんだろう。

 今日泊まるホテルは目の前なのに。


 


 俺たちはチェックインしたあとに、部屋に荷物を置いた。


「とりあえず、俺は夜までこのスタンプラリーでも埋めてくるかね」


 先程もらった温泉スタンプラリーの台紙を見て


「かなりあるよね。

 福岡に住んでてもあんまり大分県に来ないから、知らなかった」


 源泉は2000以上あり、日本全国合わせても圧倒的に多い。

 2位は同じく大分県の由布院だが、それでも800しかない。


 源泉の数と同じように、湧出量も1位でこれも、2位は由布院。


 よって、別府は2位に二倍以上の大差がある【日本一の温泉街】なのだ。


 その中で行われる温泉スタンプラリー。

 有名温泉からマイナー温泉まで大小500もの登録されたスタンプを押して回る、一見頭のおかしい企画だが、有効期間は1年間。その間何度も別府に足を運んでもらいいろいろな観光地を回ってもらうのだ!


「だんな、だんなー」


「どうした?」


「ともーと回ってくる。

 ついでにあかねーとささきーをつれていく。

 さびしくてもなかないで」


「え? 泣くかも」


 思えば、カイリちゃんと出会ってから、ほぼ毎日一緒だった。

 それが普通だと思っていたのに。


「げんきげんき。

 きょーのよるにはごうりゅーする」


 頭を撫でてもらって。

 しかし、夜? 今は昼の2時。

 俺は、一人で温泉を周る。それもいいかもしれない。

 たまには。




 鶴見岳の麓。

 登山客のいないくらい離れの山の中。


 人が全く見つけられない秘境の中に一軒の温泉宿があった。


 その名も【鶴見の湯】。


 その一角に突如としてダンジョンが出現した。




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