第27話 その意味深な謎

「でもね、一旦休戦よ。

 な? ちょ、ま、待ちなさいっているでしょう?

 ほら、早くカイリとその女の手綱を握りなさい??」


「知らん」


 狂墨が俺に向かって叫ぶが、知ったことではない。


 カイリちゃんと、ユウナギはの攻撃から逃げ回っている二人を見ながら。


「どっかいけー」


「ここは、魔法少女に乗っかるのがいい嫁としての第一条件」


 なんて、独自の世界観で、カイリちゃん達はやめようともしない。

 一緒になって、出現してきたモンスター達は即座に巻き込まれて死んでいく。


「や、やめなさいって!」


「あ、あっしには関係ないでしょー」


 と、頭を押さえながら、危険地帯を右往左往して


 会計マンとスタッフと佐々木さんは終わるまで一息つこうか。なんて言ってお茶会を始めた。

 俺はそれに加わりたいが、しかし、カイリちゃんが人殺しにならないように監視しなければならない。

 

 まぁ、あの顔を見る限りそんなことにはなりそうにないが。


「あはは。

 にげろにげろー」


「当てないように。当たらないように」


 ユウナギに至っては、逆に当てないようにするゲームをしていた。


 魔法が派手にバンバンと鳴り響き、逃げ道ギリギリにユウナギの翼戟がズドンと落ちてくる。


 狂墨は「ひえー」なんて言いながら。



 その追いかけっこは、カイリちゃんが「あきた」と3分持たなかった。


「はぁ、はぁ。

 恨みが増えた。まじで」


 独り言か、狂墨が呟いて。

 それに続いて男が


「あっしは関係ないですよね??」


 なんて俺を問い詰めてくるが。知らない。俺の指示じゃない。


「それくっきー? 私のぶんは?」


 と、お茶会中の佐々木さんたちの方へいくカイリちゃん。


「もう大丈夫みたい」

 

 ユウナギは、肩で息をする狂墨が俺に襲ってこないように注意を向けながらやってくる。

 そうして、横に並んで


「よくわからない物体を知ってるって」


「どうやらそうみたい。

 話を聞く必要があるよね」


 俺は、そう言いながら。

 佐々木さんが手掛けたクッキーを食べにお茶会に参加した。



 ひと段落ついたところで、佐々木さんと狂墨が話をつけて、一旦地上に上がることになった。

 そうして、俺たちが止まっているホテルの会議室を借りた。

 

 会計マン、スタッフは離れていて、俺とカイリちゃんとユウナギ、佐々木さん。それに向かい合うようにして、狂墨と連れの男が着席する。


「カイリが魔法を使うと、それは冗談じゃないわ」


「べつに。どうしてきたの?」


「こいつを殺しにきたのは本当」


 俺を指差す狂墨。

 しかし、どうして殺される理由がある?


「じゃあてき」


「旦那様は私が守るよ」


 と、両脇をカイリちゃんとユウナギに固められてから


「なによ。

 カイリが結婚したらしいから、お祝いに来ただけじゃない。

 一応、友達でしょう?」


「ちがうけどー」


 カイリちゃんが、ぷいとそっぽを向いて


「な?」


 ほとんど白目でショックを受けている狂墨。

 しかし、次にカイリちゃんが


「おいわい。食べられるもの?」


「いいえ。ちがうわ。

 その悪夢から解放してあげるわ。

 どうして、そんな男を選ぶの? 洗脳されてるわよね」


「ちょっとぉ、それはとても失礼かしらぁ。

 私も、カイリも望んでここにいるのよぉ?

 あなたからなにも言われる筋合いはないわぁ」


「カイリが抜けてから、攻略がままならない。

 戻ってきてくれると嬉しいのだけど?」


「それはない」


 ギロリと俺が睨まれるが。

 美人が凄んでも、それは可愛いだけ。


 と、狂墨の連れの男が俺と心情を同じにした。


「それに。

 あなたは誰?」


 次はユウナギがターゲットになって


「私? 私は旦那様の嫁」


「「は?」」


 狂墨と男が同じ反応をして


「第二嫁」


「愛人ってことですかい? カイリちゃん公認の?」


「? 違うけど」


「不純よ!

 どうして、カイリはこんな男に騙されたのかしら」


「不純なことは一切していない!」


 俺は叫ぶ。

 こいつら、食うだけ食ってそのまま俺のベッドで寝やがった。

 どんなに生殺し状態だったか。


「でも、お嫁さんが2人って、おかしいわ!」


「それは俺も思う!」


 狂墨と同意した。


「じゃぁ、どうして?

 佐々木は? なにも言わないの? もしかして3人目?」


「私はぁ、違うわよぉ。

 一緒にいる日常は好きだけどぉ、恋愛感情じゃないのぉ。

 カイリも、あかねも面倒見てるけどぉ、楽しいのよぉ」


 嬉しいことを言ってくれる佐々木さん。

 今までどんな生活をしていたか知らないけれど、自宅での充実ぶりを見たら嫌々じゃないことはわかるよ。


「なんで、わたしは辛くてあなた達はそんなに普通なの?

 どうして?」


「しらんしー」


 とカイリちゃん。

 俺も首肯して。


「それは、どうでもいいんだけど」


「あらぁ。殺されそうになってる本人がぁ、どうでもいいって流すのぉ?」


「まぁ、多分どんな攻撃されてもカイリちゃんが守ってくれる気がする」


「気まぐれでぇ、サボって死んじゃうかもよぉ?」


「そんなこと、させない。私も守るから」


 とユウナギがかっこいいことを言って。

 女子二人に守られる力のない俺。なんか悲しいぜ。


「絶対殺すから」


 狂墨の宣言に、一瞬俺は身構えるが。

 膝の上によじ登ってきたカイリちゃんが


「てきはせんめつ」


 なんて殺気を載せると、威圧感に押された男が転げ落ちて、

 狂墨は一瞬のうちに椅子の後ろに隠れ、目だけで俺たちを見て


「ま、負けないから!!」


 可愛い。





「ところでぇ」


 いざこざがあったが、会計マンがお茶を俺たちに配ってくれて一息ついた。


 佐々木さんの話題転換で話が進む。


「さっきのぉ、物体? 「文字化けお化け」ってぇ何者なのぉ?」


 難し顔をしたのは男の方で


「少し説明が面倒なんですがね。

 さっきも言ったように、東京周辺のダンジョンで発見される、人間のような人間じゃない死体です」


「死体、って言うのはぁ、確定なのぉ?」


「すみません。今閲覧許可がおりました」


 と、SランカーのIDを使って国の情報にアクセスしていた会計マンとスタッフが声を上げる。


「ちょうどいい。

 資料を出してくれる?」


 男が二人にたのむ。

 この部屋は会議室だけあって、壁一面が巨大なディスプレイだ。

 そこに情報が表示される。


「とりあえず、生命体に出会ったことは間違いない」


 資料の中。

 解析の結果、外膜の中には中には死亡している生命体がいたようで。

 人間と98%の類似性が見られた。

 

「ほとんど人間ってこと?」


「いいえ。

 チンパンジーは99%が人間と同じDNAと言われています。

 98%が一致したとしても、それはチンパンジーよりも人間と遠い生命体ですね」


 会計マンが補足する。

 俺は、ちっともわからない。


「でも、ダンジョン産だったら死ねばドロップ品しか残らないけど」


「しんでないんじゃなーい?」


「鋭いですね。

 仮死状態らしいですよ。でも反応がないので死体として扱ってますが」


「じゃぁ、ダンジョン産のモンスターってことでしょぉ? 殺してみればぁ?」


「無理なんすよ。残念ながら」


「そうよ。

 そうだったら、丸く収まるし、話題にもならないのよ」


 腕をくむ狂墨は偉そうだ。


「そこの超鑑定ができる人は渋谷には沢山いるの。

 鑑定は、ダンジョンに限らず地球上にあるほとんど物を鑑定して、その結果を教えてくれるわ。

 説明文は人によって見え方が違うらしいけれど。

 それでも、基本となる説明はどれも一貫しているの。

 その誰もが、文字化けという同じ結果を示した」


「そうねぇ」


「あ、コーヒー貰っていい?」


「たいくつー。ゲームもってきた?」


 聞いてないカイリちゃんとユウナギ。

 興味がないというか、難しい話は専門外らしい。俺もそうだ。


「おかしいと思わない?」


「そう思ってるから、話題になってるんだろ?」


「それでぇ?

 私は全てを鑑定したことないしぃ。超鑑定? なんてぇ持ってないからぁ。

 文字化けなんてぇ、沢山鑑定すればぁ1つくらいありそうじゃなぁい?」


 スタッフを見て。


「そうですね。

 自分も身近な物何もかも鑑定をしたわけではないので。

 田淵さんのいうように、地球外からの。って話も信じないわけではないですが、現実味がないっていうのが本音で。

 ちょっと、さっきから鑑定いっぱいしてるんですが、全て見えるんですよね」


「なに? 私も見てるの?

 あいつ、ちょーエロいんですけど」


「はっ!!」


 狂墨が胸元を隠しながら。


「エロ坊やは置いておきましょぉ。

 とりあえずぅ、この資料を見てもぉ、あなたたちの話を聞いてもぉ。

 まとめると、沢山あるだけぇ。ってことなのよねぇ」


「まぁ」


「そうよ。悪い?」


「ものすごく悪いわぁ。

 ………態度がぁ」


「ふんっ」


 


「あー、ともー。さっきもくっきー食べたのに。でーぶ」


「問題ない。私は重くない。多分軽い。羽」


「そんなおっぱいで私よりかるいわけないしー」


「じゃあ、魔法少女は綿」


「それでいい。これをやろう」


「それは」


「たべかすをまとめたの。ようは、ねりけし」


「え? 汚な」


「あのー、お二人さん?

 俺の膝を汚すのやめてくれません?」


「旦那様。私は羽?」


「え? 違うけど」


「やっぱりでぶじゃーん」


「戦争。

 魔法少女。

 戦争」


「うけてたーつ」


 キャイキャイワンワン二人は争っている。

 なんか、仲良いね。俺、安心したよ。




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