第26話 大量発生しているのは

8月3日 <筑豊ダンジョン・B3F>


「昨日は散々だったわぁ」


「本当ですね。

 どれだけ待っても出てこないので、探しに行ったら帰ってるなんて」


「ユウナギさんのご両親も困惑していましたね」


 佐々木さん、会計マンとスタッフが俺たちを見るが。


 あれは不可抗力だ。

 どうしようもなかった。


「りょうりはあとから食べた」


「それはぁ、私たちが持っていったからでしょぅ?」


「ありがとう」


「美味しかった」


 ユウナギの両親とは、今日の朝挨拶をすることができた。

 普通の親で、弟が二人いた。


 奇異な目で見られたが、ユウナギの旦那ということで納得していた。

 元々から、少しおかしな娘だったらしい。


 そういった話もいつかやりたいが。


「と言うか、トモさんの才能(タレント)は本当に珍しいですね」


「変身型のタレントは、外国でいくつか確認されているだけで、日本では多分初めてじゃないですか?」


「そうなの? 知らない」


「ギルドには登録していないんですか?」


「あんまり好きじゃないから」


 出現するモンスターを屠りながら。


「最初は、家の近くにあったCランク? のダンジョンに入ってクリアした」


 そこでレベルアップして才能(タレント)を得たらしい。

 結局、才能は運だ。


 どんな人でも得られるので、運が良ければ良いものが出るし、そうでなければ普遍的なものが出る。

 トラベラーとして自立するには、一定以上の評価がある才能(タレント)がなければならない。


 その中で、ランクをつけるとしたら、カイリちゃんの「魔法」はSランク。佐々木さんの「白魔法」もSランク。スタッフの「極鑑定」はAランク。俺の「強化」なんてCランクだろう。

 すると、Cランク以下の才能の人間はあまりトラベラーとして開花する可能性は低いと考えられる。

 

 ユウナギの才能の名前なんて知らないが、彼女もSランクになると思う。


「すごいね。

 Cランクでも、一人でクリアするのはかなり難しいと思うけど」


「一人じゃない。

 知り合いがいた」


「友達?」


「違う。知り合い。顔見知り。よくすれ違う人」


「え?」


「多分近いダンジョンが同じで、同じ時間によく重なる。

 私の後ろで戦闘をしたり、ウロウロしてた」


「それはすとーかー」


「わからない。たまに喋ってた」


「ストーカーに喋りかけるのは、とても危険ですよ?」


「今考えればそうだったかもしれない」


「それと、くりあーした?」


「まぁ。そう。

 最後のボス戦で、死んだけど」


「さらっと言う」


「それで、スキができたからバッと」


 クリアできたから、問題ないと、ユウナギは表情を変えずにいった。


「あ、階段。

 降りる?」


 ユウナギ以外は、かなり周辺を警戒しているのだが。

 基本的に、ユウナギの翼戟が尽くの敵を殲滅していくので、少し集中力が途切れかけている。


「4層にこうも楽に」


「一昨日は5層でギリギリでしたもんね」


「そうでもない。

 私は、ほんき、出してなかっただけ」


「そうよぉ。

 あなた達がぁ、足を引っ張らなければぁ、カイリはダンジョンを破壊できるわぁ」


「本当?」


「うそ」


「なんでそんな意味のないことを」


「でも、ひとりなら5そうていどくりあーできた。

 守りながらはすこしむずかしい」


「ごめんね」


「だんなーはかんけいない。

 そこの、スタッフと会計マンがわるい」


「申し訳ないです。

 足を引っ張らない程度にはレベルを上げているつもりでしたが」


「自分は、戦闘用の才能ではないものでして」


 と、二人はそれぞれに謝罪を口にするが


「あ。ちょっといい?」


 ユウナギが俺たちの方を見てから


「あれ」


 と指を指す方には


「なに? あれ?」


「モンスター?」


「違いますよ。人間………ではないみたいですが」


「死んでるわぁ。

 でも、モンスターならぁ、死んでたら消えるわよねぇ」


「すこし近づいてみましょうか?」


「あんまり、危険に進んで行かない方が?」


 俺が静止しようとするが

 他のみんなは足を止めようとせずに


「棒とかないのー?」


 カイリちゃんは俺の背負ったリュックから、適当な長さの棒を取り出してから


 ツンツンと、「それ」に対して攻撃を始める。


 


 それ。 

 人型をしているが、顔がない。

 防具を着けている様子もないことから、トラベラーの類ではない。

 

「うげぇ。

 ぶにぶにしてる」


 そりゃあ、人間だったらそうだろう。


「ほね、ないよー」


 ぶにゅうっと、棒でグニグニとするがその分形が変わるだけで、刺さる様子はなく弾力がある。


「こんなときのスタッフ」


「はい。さっきから鑑定でもやってるんですが。

 特に、これといった説明もなく」


「つかえねー」


 カイリちゃんは、棒を投げ捨てて。


「斬ってみます?」


 と、翼戟をその物体の上でグルグル回している。


「別にぃ、無視して進みましょうよぉ」


 佐々木さんは、興味なさげに。


「いえ、ここには何百回と来てるけど、こんなのみたことない」


「ゆにーくもんすたーだったら、らっきー」


 カイリちゃんは小石を拾ってぽいぽいとその物体に投げつけいているが、なんの反応もない。


「あ、ちょっと待ってください。

 鑑定に何か反応がありました」


「早くー」


「あー。

 文字化けしてますね。

 こんなの初めてなんですが」


 うーんと、頭を抱えるスタッフ。

 それに対して、会計マンはすこしだけ考える様子をしてから


「鑑定が、文字化け。

 聞いたことがありますね」


「どうでもいいでしょぉ。

 進むか帰りましょうよぉ」


 佐々木さんは、さっきからこの調子で


「とりあえず、斬る」


 勢いよく振り下ろされた翼撃。


 ぶにょん。



「あれ?」


 ユウナギの気の抜けた声。

 翼戟は、その物体を切断することもなく、スーパーボールが跳ねるように、跳ね返された。


「あー、しっぱいしたー」


 カイリちゃんはからかうように。


「思い出しました。

 月の石を鑑定した人の鑑定結果が文字化けしていたと言う話を聞いたことがあります」


「月の石?

 どうしてそれが」


「そうですね。スタッフさんと同じように、鑑定の強化された才能を持った人は世界中に数十人はいます。

 彼らは実験にたくさん参加しており、日本よりもダンジョン研究は外国の方が進んでいます。

 それで、地球外の物体を鑑定すれば、地球で発見できない何かがわかるんじゃないか? なんて飛躍した話になったそうです。

 身近なのは、月の石。

 それを鑑定したときに、鑑定結果は文字化けしてなにも読み取ることはできなかったそうです。

 それと、同じ現象がここで起きていると言うことは」


「この物体は、地球上のものではない。と?」


 俺が尋ねて。


 うなずく会計マン。


「そんなわけないじゃん、バカじゃん」


「そうよぉ? ここはダンジョンよぉ。

 地球外のものなんて存在するわけないじゃなぃ」


 ガクブルしている佐々木さんは俺のそばに来て、服の裾を掴んでいる。


「それでも、スタッフさんの鑑定の能力はかなりもので、ダンジョン産以外のものでも鑑定できてしまいます。

 それが、反応しないって言うのは、すこし引っかかりませんか?」


「ちっとも」


「そうよぉ。気にしすぎよぉ」


 早く帰りたい二人は、会計マンに食ってかかる。




 足音がする。

 背後から。

 つまり、4層の入り口の方からだ。


「やっと見つけたわ。

 クソ野郎」


「そのこえはっ!!」


「あ、カイリちゃんと魔女だ」


 二人の声。

 俺は女の方の声を知っている。

 軽くトラウマになっている、悪女の声だった。


「殺しにきたわ。

 ダンジョンの中だと証拠は出ないからちょうどいいわね」


「いや、カイリちゃんを突破するのはかなり難しいし、更に魔女もいるから無理でしょ」


「でも、仕方がないじゃない。

 殺さないとわたしの気が済まないわ。わかるわよね」


「いや、分かりませんが」


「すごい。ここにSランカーが揃った」


 ユウナギは目をキラキラさせているが。


「カイリ。

 その男を渡しなさい」


「うーん。このふたりはあげるけど」


 と、会計マンとスタッフを差し出して


「いらないわよっ!

 さぁ、そのヒョロイ男を渡しなさい」


「どうして? 旦那様を殺すなんて物騒」


 ユウナギが反応して


「あなたには関係ないでしょう?

 だから、カイリ」


「私にも関係おおあり。狂墨さん。

 もし、旦那様を奪うつもりなら、戦争」


「うけてたつー」


 と、俺の前に立ち塞がるカイリちゃんと、ユウナギ。


「二人でかかってきても、わたしの方が強いのは知ってるわよね」


 狂墨は、真正面から真っ向勝負の体制をとる。


「ちょっと、いいですか?

 あねさん」


「なによ? 調子が狂うわね」


「あれです」


 と、男が示す先。

 それは、先ほど、ユウナギの攻撃にもびくともしなかった「文字化けお化け」だった。


「ちょっと待ちなさい。

 休戦。休戦よ。ちょっと待ちなさい」


 戦闘体制のカイリちゃんは、魔法を組み終わり。

 ユウナギの翼戟は、すでに狂墨の頭上で旋回していた。


 どれも一瞬の出来事で

 どうみても、狂墨の顔は焦っているのがみて取れるが。


「あれよ。あれ!!」


 やはり、「文字化けお化け」の方を指すのが二人にもわかったようで


「どうしてここにもあるの?」


「どうして、って??」


 カイリちゃんが尋ねて


「渋谷ダンジョンを中心に最近東京周辺のダンジョンで大量発生しているのが、これよ」


「え? 他にもあるの?」


 俺が聞くが


「知らないわ。死になさい!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る