第24話 魔装少女登場
「どうも」
俺たちがダンジョンの前でざわざわしていると、その脇を抜けて一人の女騎士が挨拶をしてくる。
「どうもって、もしかして今からこのダンジョンに入るの?」
と、尋ねると、
「そうです」
頷く彼女は、長いポニーテールを揺らして。
「珍しいです。ここに人がいるの」
「さっき中の様子を見てきたんですが、これはかなりやばい部類ですよね。
お一人みたいですが、大丈夫ですか?」
「そう。でも、一人のほうが都合がいいから」
「都合がいい、とは」
「駄目よぉ、トラベラーは才能(タレント)の詮索はあまりぃ好まないからぁ」
「あ、魔女様」
「あらぁ? 知ってるのぉ?」
「有名だし。でも、どうしてこんな田舎に?」
「しらないわぁ?」
と、俺のほうを向いて。それにつられて女騎士がこちらを向いて
「あ、魔法少女」
カイリちゃんを発見して目を輝かせる。
こっちに歩いてきて
「こんにちは。魔法少女。
私は紅玉騎士団所属のユウナギ。いとこのあかねちゃんがお世話になってる」
「あー。よくみると、あかねーににてる気がする」
と、顎をさすりながら
俺的には全く似ている気はしないのだが。
「血のつながりはありません」
と、否定するのがユウナギ。
「あ、そなの」
「でも、騎士団って?」
ユウナギの格好は、まさに一目で騎士団とわかる鎧で。
同じく騎士団を名乗っているあかねはいつも私服だし。
「でも、魔法少女と魔女様がいるなら隠しても仕方がない。
ここと私の才能はかなり相性がいい」
「相性ってぇ、私たちでもぉ、苦戦するほど一体一体の質が高いわよぉ?」
実際、Sランカーの主力とまで言われている二人がそういうのだから、日本広しとはいえ、一人で挑戦できる人間なんているはずがない。
「えっと。
見てもらったほうが早いかも。
時間ある?」
と、俺に確認をしてくるので、会計マンとスタッフに目配せして
「では、自分たちは先にホテルに戻っています。
さすがに疲れましたので。あと、資料をまとめないと」
「お先に失礼します」
分かれて
「じゃあ、いく」
カイリちゃんが言って、俺たちは二回目のダンジョン挑戦を始める。
◎
「とりあえず、5層まで」
「5層ってぇ、かなりモンスターのリポップが速いし、私たちでも苦戦したんだけどぉ」
「そう。でも、私にとってそれはお得」
「お得?」
ユウナギは、帯剣していた剣を抜いて自身の前の地面に刃先を刺す。
そこに魔法陣が作成され、広がっていく。
それはユウナギを中心に、半径2mくらいの大きさになり
「変身」
掛け声とともに、魔法陣がふわりと浮かんでいき、足元から姿が変わっていく。
光が包んで、ぱぁっと明るくなり次の瞬間には全く色と形が違った鎧に変化している。
一番の違いは、背にゴテゴテに連結されている翼。
一つひとつが俺の持っている長剣よりも二回りくらい大きいものが、左右対称に6本。
それが宙に浮いていて
「ふぁんねる」
「これが一つ一つを飛ばして戦う」
ユウナギの姿も、手足をメインにパワードスーツを着込んだように、太く。
メカ的に銀色に鈍く光っていた。
「そんな才能みたことないわよぉ」
佐々木さんが感嘆を漏らして
「俺も見たことがないな」
と、ユウナギの年齢的に俺と同世代か、それよりも少し下くらいだろう。
福岡のこんなダンジョンに挑戦しているのだから、育成高校出身かと思っても、俺の記憶には、こんな変身する才能(タレント)を持った人を見たことがない。
というか、変身する才能を見たことがない。
「それは、隠してるから仕方がない。
私自身少しと特殊だと思ってる」
と、ユウナギがいう。俺たちは頷くしかできないが。
それでも、Sランカーとしての実力がはっきり出ているカイリちゃんと佐々木さんが苦戦するような<筑豊ダンジョン>に一人で挑戦できる力があるとは思えなかった。
一撃で何もかもを粉砕するカイリちゃんの魔法。
繊細な調整で、確実に敵を殺す佐々木さんの魔法。
ユウナギは物理攻撃がメインだと思うが、それだと攻撃の手数が間に合いそうにないが。
それが、この翼戟だというのだろう。
「かっこいいね」
カイリちゃんはキラキラした目をして
「じゃあ、入る」
進んでいくユウナギについていくようにして俺たちは足を進めた。
「でも、俺たちも疲れているから1,2層くらいでお願いしてもいい?
いつもどこまで行ってるかわからないど」
「大丈夫。私の狩場は5層。
ついてくるだけで問題ないから」
「だんなー。
べつに、ほんき出せばあれくらいはせんめつできるよー。
きょうは、だんなとスタッフたちがあぶなそうだから」
「ほんとぅ?
かなり本気で疲れてたけどぉ?」
「ほんきだせば私はつよいから」
「はいはい。じゃぁいきましょうかぁ」
「頼りにしてるからね、カイリちゃん」
そのやり取りを見ていたユウナギは。
「さっきから、あなた達はどんな関係なのかしらと考えたけど。
Sランカーが半壊って噂は間違いじゃない?」
「そういえば。あんまり話を聞かなくなったな」
<天神ダンジョン>での一件以降、Sランカー狂墨(クルス)の話題があまりニュースで流れなくなった気がする。
「私とだんなはけっこんした」
「私はぁ、どうなのかしらぁ。
トラベラー業は少し休憩してるかんじかしらぁ」
と、俺の家で家事兼居候の佐々木さんが考える。
「そう。魔法少女は寿引退か。
だったら、私も」
「だんなはわたさないー」
と、ぎゅっと抱き着いてくるカイリちゃん。
別に、俺に対して言っている訳じゃないだろうけど。
「あかねちゃんから聞いてる。
あなた、あかねちゃんとも結婚したらしいね」
「!?」
「うわきだー!! あかねーにはおしおき!!」
めらめらと、燃えるカイリちゃん。
「そんな事実はないが。そもそも、結婚といっても何もしてない!」
「いとこってぇ、本当の話だったのぉ?」
「まぁ。血が繋がってないのは本当」
1層の敵を屠りながら。
話しながらユウナギの翼戟はビュンビュンと意思を持っているように飛び回りながら一薙ぎ10体を殺しながら。
「だんなー。私とのみつげつはあそびだった?」
「蜜月なんて難しい言葉、どこで覚えたんだ?」
「カイリだって、別に子供じゃないのよぉ」
そういえば、カイリちゃんと俺の年齢は大して変わらない。
カイリちゃんのほうが2,3歳年下だった気がするが。
「あ、ユニーク」
と、ユウナギが言って
次の瞬間には、そのドロップ品だけがその手の中にあった。
「はい」
それは、指輪だった。
「魔法力が上がるらしい。
これをあげるので、結婚しましょう」
「!?!?!?」
突然の告白に俺は頭が回らない。
「そう。沈黙は肯定だと思う。
じゃあ、結婚は完了。名前は知らないけど。
第一嫁に魔法少女。
第二嫁に魔女様。
第三嫁に私。
あかねちゃんは、後回しでいい?」
「別にぃ、私は三宅さんとぉ、そんな関係じゃないからぁ。
第二嫁になっていいわよぉ」
「じゃあ。私が第二嫁」
「うーん。
しかたがない。だんなはわたしでまんぞくじゃない?」
「いや、俺はカイリちゃん一人で十分だけど?」
「でも、田舎は出会いがないから。
魔法少女が認めた旦那と結婚すれば、私の価値も上がる」
「?? どういう理屈だ?」
「でも、だんながいいなら、しかたがない」
「良いも悪いもないけど?」
「あ、1層はこれで終わりみたい。
2層に行くか、結婚式場に行くか選んで?」
究極の選択じゃないか。
まだ、カイリちゃんとも結婚式を挙げていないのに。
今日たまたまあった女の子と先に結婚式をしてしまいそうになっている。
「えっと、2層に行こうか」
「でも、私の実力はもうわかったと思う。
先に結婚しよう?」
「だんなー。
私もけっこんしき、したい」
と、ウルウル瞳で見上げてくるので。
その間にも襲ってくる敵は、すべてユウナギの翼戟が吹き飛ばし殺し尽くしていた。
●
「あのお。
別に自分はコンシェルジュじゃないんですが」
「いうこときいて」
カイリちゃんはホテルのラウンジに居た会計マン詰め寄ってから圧をかける。
「まぁ、コネがないわけではないですが」
「何なんですか?
魔女様には相手にされないのに。
どうしてあなたはすぐに結婚するのですか??」
と、スタッフ。
俺も知りたい。
「ユウナギちゃん。結婚するの?」「そろそろ相手が欲しいって言ってたわよね」「おめでとう!」「相手は?」「あの、ぱっとしない?」「こら、ユウナギちゃんの惚れた相手だぞ?」「くそー。ユウナギちゃんはおれたちの嫁だったのに」「とりあえず、結婚式にはいくからね」「え? 明日?」「そりゃ突然すぎて」「平日だけど?」「相手はトラベラー? 安定した人が良いって言ってなかった?」「事務職なんでしょ? 会社は辞めるの?」
おじいさんおばあさんに囲まれているユウナギ。人気者だ。
「お金に糸目はつけないから」
「といってもですね。
準備とかありますし。結婚式は平均で300万円が、急がせても明日までには。
でも、まぁ。少し多めに、先払い?」
実際、もう日が落ちている。
明日結婚式をするとは言っても、もう時間的には12時間も猶予がないだろう。
「人は呼びますか?」
というか、結婚式で何をするのか俺にはよくわかっていない。
誓いあって終わり? 家族を呼ばないといけないのだろうか? いないけど。
披露宴のほうには参加した記憶がある。
「まるなげー」
カイリちゃんはそう言って、レストランのほうへ歩いて行った。
俺はそれに続いて。
その一歩半後ろにユウナギがついてくる。
もう、嫁気取りか?
その割に、カイリちゃんはまったく気にしていないようだが。
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