第22話 また増えた
31年8月2日
「初めまして。研究所の責任者を務めてます吉田と申します」
スーツを着た大柄な男が頭を下げて俺と向かい合う。
「あ、え。はぁ。
三宅です。特にこれといった肩書がないんで恐縮ですが」
「いえいえ。
お会いできて光栄です。こんな言っては何ですが大きくない研究所の一部門にかなりの資金と幻の薬を寄付してくれたので、一度挨拶だけはと思っていました」
「はぁ。
投資してほしいとか、そんなお願いですか?」
「いえいえ。お手紙に書かせていただいた通り、お陰様で研究成果は上々。
【復活の薬】は複製も解析もほとんど何もできてませんが、莫大な資金のおかげで研究設備を一新し、1%でも復活の薬を再現できたものを発表したらそりゃあもう、世界各国からお金がわんさかふってきまして」
「そんなに【復活の薬】ってすごいのか?」
「そりゃあもう。
伝説ですよ。試しに手の甲をちょっと深く切ったんですが、一滴で即座に治ってしまいまして」
「そうか」
ちなみに俺はあまりポーションの類を使わなかった。
自分の安全マージンを狩場にしていたので怪我をすることがなかったのだ。
それに、ポーションの類はかなり高額である。
宵越しの金を持たない主義の俺には過ぎた代物だった。
「あんまり使わないからわからん」
と、俺の膝の上に座っていたカイリちゃんが
「わかる。
あれ飲むと光る」
「ほぅ。そんな効果があるのですか。
しかし、あの量ですから流石にたくさん実験はできず」
俺は悩む。
あれから瓶をひっくり返して蓋を開けて放置していたら、一定時間でいっぱいになって勝手に流れ出てくることがわかった。
だから、あれは自動【復活の薬】生産機と化してしまって、今は数えるのが面倒なくらいペットボトルにたくさん入っている。
一滴でこれまで研究所の人たちが驚くのであれば、あまり多く市場に流すべきではないのかもしれない。
それを察してか、カイリちゃんは何も言わない。
「もっとあればいいのですが。チラッ」
俺は目線を合わせないようにして。
「チラッ。チラチラッ。
チラチラチラッ」
めっちゃ首を振って俺の視線を向かせようとしているが。
依然として俺は無視する。
と、ここで同席していた会計マンと、もう一人の投資マンの二人が初めて言葉を発した。
「吉田さん。あまり無理は言ってはいけません。
お金はたくさんありますが、【復活の薬】なんて伝説のアイテムをたくさん持っているわけないじゃないですか」
諫めるように言う会計マン。ごめんなさい。腐るほど持ってます。
「それはそうとですね。
三宅さん」
「はい?」
「イベントに興味はありませんか?」
「何ですか藪から棒に」
「はい。吉田さんとの顔合わせは終わりましたので。
次はこちらとお話をしましょう」
商談モードの会計マン。
まぁ、彼なら俺に損はさせないだろう。会計マンもかなり儲けているが、俺はお金を出した分それ以上に増えて戻ってきているのだから。
「ふるさと納税って知っていますか?」
「お金を払って返礼品をもらうやつですかね?」
「そうです。
三宅さんのその出どころのよくわからない大金はこちらでも確認しているので勝手に税の処理をしているのですが。
ご興味があればお勧めしたいなと思っていまして」
「どうせ税金として出ていくなら、何か形に残ったほうがいいかもしれんね」
と、カイリちゃんを見ると
「ぜいきん、むずかしい」
と、口をムの字にしてうなって考えていた。
大丈夫だ。俺も税関係の話はからっきしだ。
「あー。お任せします」
「了解しました。
では、ここの田舎がかなりお勧めでして」
と、準備していた資料を取り出して
「とりあえず、ここですね」
と、指をさすのは福岡の田舎。
だが、その田舎は少し特殊で。
「ダンジョンがある、筑豊?」
「炭鉱都市ですよ」
投資マンが付け加える。
まだ石炭がエネルギーの主だった時代。
石炭を大量に産出できた筑豊炭田。
そこの跡地に丸々Aランクのダンジョンができた。
だが、そもそも、今現在トラベラーの絶対数が全く足りていない状況で。
基本的なトラベラーは首都圏に集まる。
移動手段がかなり便利になったところで、それは変わらなかった。
つまり、田舎にはトラベラーはあまりいない。
さらに、この筑豊のダンジョンは他の田舎ダンジョンとは違ってAランクだ。
基本的にダンジョンのランクは人口密度と関係しているのではないかと言われていたが、ここだけが唯一の例外で。
あまり人数はいないが周辺のトラベラーはいるが、実力者は天神ダンジョンに集まっている。
実際、このAランク筑豊ダンジョンは全くの手つかずだといってもいい。
「はい。
今回は、ふるさと納税とか名称を打っていますが、実際は地域創生です。
筑豊で有名なラーメンをたくさん送りますから、いくらか投資してくれませんか? って話です」
「県ですればいいんじゃ」
「引退したSランカーが二人。
それに自身もCランク上位の実力者。そうしてまたお金が口座に増えましたね」
威圧感。
「つまり、簡単に言えば。
福岡県の人気のないダンジョンの活性化プロジェクトですよ。
カイリさんのライブでもすればたくさん集まりそうじゃないですか?」
「いや、カイリちゃんはもう引退したから」
と俺は返すが、当のカイリちゃんは結構乗り気だった。
「じゃー、20億円ぶっぱー」
と、勝手に話を進めてしまって。
「なっ!? 勝手に??」
「いいじゃん。よしだーにもらったからじっしつタダ」
「………それもそうか」
と俺も納得した。
「ありがとうございます」
とにっこにこの会計マン。
と、それを複雑そうな顔で見る投資マン。
あんまり仲が良くないって言っていたけど。
またこれで差を開けられたな。
「いやあ。すごいですね。
僕もここらですごくお金が増えたのを感じましたが、一気にその額を投資できるなんて」
吉田が感心している。
「じゃあ、ここに【復活の薬】があるって言ったら、いくらで買う?」
と、話をちらつかせてみる。
吉田は
「50億です!!」
と即答して。
驚愕。
確認のために、会計マンを見るが
「世界各国からたくさんの援助があるって言ったでしょう?」
との言。
「………いや、ないよ。次手に入れたら売るからね」
「では、先に支払っておきましょう」
と、吉田が勝手に端末をいじり始める。
ぴろーん。と俺の端末の音がして、勝手にカイリちゃんが開いて見た。
「うおー。ほんとうにはいってるよー」
今、20億円の投資をしたばかりなのに、30億円増えた。何を言っているかわからねえと思うがーーー。
いや、やばいな。吉田。
仕方がないので、少しだけ小分けにていた【復活の薬】50mlを差し上げることにした。
これは、もしものために持ってきた一本で、実際あと3本ポケットの中に忍ばせてある。
「はい」
「え?」
と、現実を受け止められない吉田。
それはおいておいて。
放置されている投資マンを見て、
「何か、投資案件あるんですか?」
と尋ねてみた。
「では、これとこれ」
と、なんかやる気なさげに見せてきたそれらを見て。
一つ目が「民間宇宙飛行」への話。
二つ目がトラベラーに対する支援塾のようなやつ。
「何か微妙だな」
「申し訳ないです。
いや、今回は福岡県ギルドの本部からAランクダンジョン周辺の開発援助を引き出せれば吉。のような話で。
実際20億もあればある程度整備などはできると思って。
こっちに話が回ってくるなんて思いもせず」
「だからダメなんだよ」
と会計マンからのだめだし。
しかし、支援塾か。
確かに、国立のトラベラー育成機関はあるが、絶対数が足りていない。
個人で塾を開けば儲けはできるかもしれないが。
しかし、トラベラーに絶対はない。もしも死んだら。怪我したら。誰が責任を取るのだろう。
「あっ!」
「私も分かった。だんなが考えてることはおみとおし」
声を上げた俺。
それに乗っかるようにカイリちゃんが声を重ねて。
「筑豊ダンジョン近くに、学校を作ろう!」
お金の有効な使い道。
「いくらかかるかな?」
「わかりました。全力で支援させていただきます」
と、会計マンが嬉しそうな顔をする。
「では試算して後ほど家にお伺いさせていただきますね」
と、今回の話は解散になった。
残高はなぜか増えて【\8,560,000,000】
ふるさと納税の話はどうなったんだ?
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