第12話 カイリちゃん おん ステージ
カイリちゃん オン ステージ
すでに、【博多ギルド広場】には1万もの人間が行き交っている。
その目的はたった1つ。
華畑 カイリのコンサートを見るためだった。
時間は14時から。全国のギルドの公式SNSやHPで一斉に公開された福岡ギルドでのカイリちゃんのステージ。
更に、入場料は無料。
それに加えて広場全体に出店が出店し、そこでの食事も無料。
ローカルな店も全国チェーン店も皆統一で、0円らしい。
それだけで、行ってもいいかもしれないという気分になる。
カイリちゃんだけではなく、「坂ノ下92」や「生物係員」、「世界の始まり」など有名アーティストも参加するらしかった。
当日なのに彼らもギルドもフットワークが軽すぎた。
< 14時00分 博多ギルド広場 メインステージ >
「すごい。こんなに人があつまるなんて予想外」
「 「「 カイリちゃーーーん 」」 」
魔法少女カイリちゃんというだけあって、その衣装も見事な装飾に彩られていた。
フリフリで、ロリロリで、スカートの切れ目から生足を晒している。
魔法少女ステッキに見立てたマイクで、自己紹介から始まった。
「今日は、みんなにご報告がある」
「「「 なーーーーーにーーーーーー 」」」
「じつは、私は今日で活動を終わることにした」
「「「 ええぇえーーー 」」」
冗談だと思っているのか、反応はまちまちだった。
「魔法少女は処女じゃないといけないけれど、たぶん明日からそうじゃなくなる」
「「「 」」」
無反応だった。ここまでファンは一体化するのか。
聞き入っているのだろうか。
「Sランカーの活動も今日でしゅうりょーした。もうパーティからぬけた。
死にかけた。じっさい、体が半分になったから」
怯えた声。叫ぶ声。絶叫。
俺も辞めないでほしいと思った。
「でも、私にも救世主がいた。
おーじさまがいた。私は、彼に身も心もすべてささげるから、もうみんなの偶像(アイドル)ではいられない」
「「「 それでもいいよーー 」」」「「「どうだっていいよぉ」」」「「「辞めないでぇぇ」」」
「私は、そんなふせーじつにはなれない。
私はひとつこのとしかできない。みんなのアイドルは引退して、おーじさまだけのアイドル、………お嫁になる」
「だから、これはさいしょでさいご」
バッと、どこからともなく光がカイリちゃんを照らして、影だけになる。
魔法少女衣装が弾け飛んで内側からドレスのような服に身を包んだカイリちゃんの影が映し出される。
「魔法少女・ブライト・カイリちゃん!!!」
光が止んで影が実体になり色がついた。
純白のベールに身を包んだ、ウェディングドレス姿のカイリちゃんがそこにいた!
ゆっくりと宙に浮かんで、バックで音楽が流れ始める。
「私は、けっこんの概念になる」
「???」
「「「 カイリちゃーーーん!!! 」」」 「「「可愛いーーーー」」」
「「「 辞めないでぇぇぇ 」」」「「「 きゃーーーー」」」
魔法で空を飛び、歌を唄ういつものライブと同じ流れで一曲目が始まった。
しかし、重度のカイリちゃんオタクの俺でさえもその曲は知らなかった。
「さいしょの唄。ありがとう」
ライブが終わる時、空はもう真っ暗だった。実に8時間歌い続けた魔法少女・ブライト・カイリちゃんは途中で何度も衣装を入れ替えて第一期から現在に至るまでの有名曲を歌い切り、動員数は驚異の20万人を超えていた。
動画サイトでも無料配信をしており、そちらでも全世界同時100万接続があり、SNSトレンドでは1位から10位まで全てをカイリちゃんが独占する異常事態が起こった。
途中暴徒と化したファンもいたが、カイリちゃんのカイリビームで鎮静化したし、倒れるファンにはカイリビームで医務室まで連れて行った。
だが、最初から予定されていた計画の「引退」は変わらないようで
「ありがとうございましたーー。
これで私のかつどーは今日でおわります。でも、たまに生き返るかもしれない。その時は魔法少女じゃないけど、ゆるしてください」
それを最後に、カイリちゃんが空に消えてライブが終了した。
叫び続けた8時間。喉はもう限界で体はくたくただった。
それは、全国から駆けつけて来たファン達も同様で、その場で座り込み疲れを共有していた。
出店はまだ営業中であり、今日は全て無料だった。流石にこんな人数が集まるとは思っておらず、実は預けた5億円じゃ足りないだろうと薄々思っていた。
だが、それはもういい。
もし足りなくても、ゆっくりダンジョンを探索して返していけばいい。
多分その時隣にはカイリちゃんがいるだろうから。無理では、ないはずだ。
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