第11話 オセロ


「佐々木さん、大丈夫ですか?」


「んん。何もぉ問題ないよぉ」


「酔ってますね」


 ニコニコの魔女佐々木は、ジョッキを片手に細切れになったソーセージを食べている。

 

 【博多ギルド広場】では、博多駅を中心に半径300mの円状の広場がある。

 その博多駅側に正面を向く形にして、各建物が円状に並んでいる。


 ギルド会館もその例に漏れず、博多駅の真正面に陣取っていた。


 魔女佐々木と、祭りの参加メンバー(野次馬)たちはギルド会館横に併設されている食堂、兼居酒屋の『らぐなろく』にいた。


「朝から飲む酒はうまいのよぉ」


「あ、これも飲んでください」


 と、俺はポケットに入っていた【復活の薬】を、瓶が見えないように手のひらで覆いながら魔女佐々木の持つジョッキの中に注いだ。


「なぁに? 媚薬? そんなのぉ、効かないんだからぁ」


 と、一気にあおった。


 その飲みっぷりは豪快で、おしとやかそうなルックスから想像もできなかった。

 ごくごくごくと、喉を鳴らしさながらCMを見ているようだった。


 実は俺はまだ成人を迎えていないこともあって、アルコール類は遠慮しておく。

 炭酸飲料をカウンターで注文して、ジョッキを受け取るといつの間にか100人くらいに増えていた祭りの参加メンバー(野次馬)たちの視線が俺に向いているのがわかった。


「えっと? ここは挨拶でもした方がいいのか、な?」


 と呟いて、野次馬たちは料理に口もつけず、俺の話を待っているようだった。

 今の今までたくさん飲んで食べて喋っていたのに、どうして今は誰も口を開かないのだ。


「あー。ごほん。

 昨日俺は秘薬を入手した。それをギルドで売ろうとしたらカイリちゃん達がいた!

 死にかけていたらしいから、俺は昨日手に入れた秘薬を使った!!

 すると狂墨の欠損した右腕が生えてきたし、カイリちゃんは無くなった内臓も全て回復したらしい!

 そのお礼として俺は狂墨から10億円貰った! だがそんな金は俺には必要ない! 

 余計な金は身を滅ぼすのだ!! だから俺はここでパァッと使う!!!


 今から広場に沢山の屋台が並ぶらしい。それも無料だ。今日の広場周辺の飲み食いは全て俺が持つ。

 全て無料だ!! タダだ!!! 躍り狂えぇぇぇぇ!!!!」


「「「「「「ううぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉ」」」」」


 店が揺れるほどの絶叫。

 みんなが片手にグラスを掲げて叫ぶ。


「ダンジョン攻略は休みじゃああああ!!

 呑み明かせぇぇぇぇ!!!」



「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」


「人を呼べぇぇぇぇ!!

 お祭りじゃぁああああぁぁぁぁぁ!!!!」



「「「「「  おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ 」」」」」


 騒ぐ。

 呑み、喰らい、絶叫。


 名前も知らない誰かと喧騒の歌を唄う。


 それに便乗して増える人、ひと、ヒト。


 すでに、『らぐなろく』には入りきれないほどの人間がそこに溢れてた。


 300人は降らないだろう。彼らはほとんど全員がトラベラーだ。

 彼らが暴れ出したら、一般人は対処できないどころか、軍が出動しかねない。


 警備するトラベラーの到着を早めた方がいいかもしれない。


 なんて思っていると、俺の横に座っている魔女佐々木がクイッと俺の袖をつかんで引っ張っていた。


「どうしました?」


「何を入れたのぉ?」


 彼女の顔の赤みはすでに取れていて、その発言からも先ほどまでの酔った状態とは全く違っていた。

 つまり、酔が冷めていた。


 少し考えるようにして。やはり薬が復活する話はしない方がいいのかもしれない。と思ったので


「ああ。さっきの薬の残りを入れてみたんですが、どうですか?」


「ええ。おかげさまで、酔っていた気分が台無しよ。

 でも、ほら」


 掌をこちらに向けて、腕をまくる。


「治ったわぁ」


「そりゃよかった」


 さっき見た炭化した腕は、真っ白の不健康そうな色になっていた。

 よく見るとかなり細い腕で、触ると折れてしまいそうだ。


「なんか、視線がぁいやらしいわぁ。」


「いやな、オセロみたいだなって思った」


「まるでオセロだな。黒から白にかわった」


 カイリちゃんが焼き鳥串で佐々木を指しながら。

 ほっぺたに沢山放り込んで、小動物みたいだなと俺は癒されていた。


「なんかさ、ここでいうのもあれなんだけど。

 佐々木さんは、どうして狂墨のところに戻らないんです?」


「ええぇ。本当にあれね。

 どうしても何もぉ、あんまりダンジョンって好きじゃぁないのよねぇ。

 でも、クルスってかなり好戦的だし、何より呪いが厄介なのぉ」


 注文した唐揚げにレモンをかけながらしみじみと話す。


「別にぃ、私は戦闘能力はあまりないからぁ、積極的にダンジョンには潜りたくないの

 それにねぇ」


 と、すこし溜めて。

 俺の方に視線をやると目を合わせてくる。


「あんな部位欠損を回復させてくれたのに、お礼、言わなかったでしょぉ?

 それが直接的な理由ねぇ。それにお金はらって終わりでしょぉ?

 確かにそれだけ払う価値はあるけどぉ、なんだかねぇ」


「さっちゃんも、すみーが生き返る前にパーティ抜けたけど」


「それはぁ、タイミングを逃すと抜けられなくなったら困るからぁ」


「大変ですね」


「なにぃ? その返答が難しくて面倒くさくなった感じの態度ぉ」


「まさに」



 『らぐなろく』は超満員。早めに場所を移動しないと押しつぶされそうだ。

 それに、たくさんの出店を用意する手筈になっている。一店舗でお腹いっぱいになるのも釈だ。

 すでにやって来ている屋台にも行ってみようと思った。


 だが、思いつきで始まったこのイベントだが、情報伝達などは大丈夫なのだろうか?

 

 とりあえず、全てをギルドの会計マンに任せているので面倒ごとはギルドを通してもらおう。

 俺は、この祭りを客として楽しむだけだ。


 それに、ステージの準備が終わればカイリちゃんオンステージが始まるのだ。

 それが楽しみで仕方がない。


 俺の隣にいるカイリちゃんのスプーンの持ち方がおかしいが、パフェを食べていた。

 まだ12時になっていない段階で、デザートを食べているカイリちゃん。

 愛らしい。






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