第2話 女神の泉
神々しく光る神殿があった。
自ら発光しているというより、神殿の中から光が漏れていて、それを浴びた建物が反射していた。
その暖かな光は、ダンジョン内のどこよりも居心地が良く感じる。
神殿に惹かれるようにして俺の足は向かった。
ギリシャに行ったことはないが、資料で見たことがあるパルテノン神殿。それに近しいような造りの柱だが、大きさが倍以上違った。
巨人が利用しているのかというほどに入り口が大きく、中は建物の大きさよりもだだっ広く感じた。
だが、それも暖かな光が中を照らしており、どこも影がないほど輝いている。
眠たくなる光の光源を探して。
曲がり角もなく、一直線。その突き当たりに美しい翼を持つ女の像が立っていた。
女が掲げる聖杯から止め処なく水が滴り落ちている。
そこはまさに女神の泉だった。その水は虹色の輝きをしていた。
「なんだ、ここは」
そう呟くことしかできない。スマホもカメラも身につけていない。ここを共有したいが、この神々しさを言葉で伝えられる自信はなかった。
何時間そこにいたのかわからないくらい経った後に、ふと我に帰り。
お腹が鳴る。流石に永遠にここに居られる程ではない。空腹には勝てないのだ。
「ん? あれは?」
違和感。女神像は神々しく、触れようとも思えないが、その足元に異物(?)を見つけた。
二次元の上に三次元の立体を置いたみたいにそれだけが浮き出て見えた。
簡易鑑定を行う。
詳しいものを行うには才能があるというが。
ドロップアイテムの名称や簡単な名前は誰でも確かめることは出来た。
目の前に現れる名称は【復活の薬】。
説明文は【全てを使用者の通常通りに戻す。健常者が使えば限界レベルがあがる】
「復活? の薬?」
それは、噂では聞いたことがあるくらいの伝説の秘薬だった。
死んだ人間すら生き返らせることができると言われているもの。
だが、それがどうしてこんな低層ダンジョンに存在しているのだろうか。
という考えは、とりあえず脇に寄せておいて。
俺は瓶をとった。
売る? 使う? 二択の考えが浮かんだ。そのままにしておくことはないだろう。
この瓶もきれいな装飾が施されてあり、それだけでも価値がありそうに思えた。
女神が翼を広げ左右の天使から貢物をもらっているような。いや逆に女神が天使にギフトを与えているのだろうか? そんなどちらとも取れるような装飾がされた瓶。
もし、これが本当に復活の薬だとして。売れば一生遊んで暮らせるだろう。
しかし、記録は残り変な噂が立って狙われる危険があるかもしれない。
低位ランカーが高価なレアリティの武器を入手した時に高位ランカーが力尽くで奪い取ったり、殺して奪ったりするという事件が確かにあった。
実際に、俺はCランクトラベラーの実力はあるが。
しかし【復活の薬】が欲しい人間は沢山居るだろう。俺以上の実力のトラベラーもそれに含まれる。あまり目立つようなことをするべきではないと思った。
つまり
「中身は俺が使って瓶だけ売れば問題ないな」
という結論に至った。
瓶の蓋を開け口をつけて中身を飲み干した。
燃え上がるような感覚が体の芯からした。レベルアップの時のような感覚だ。
だが、それよりも心地が良かった。
ステータスを確認した。変わった点はなかった。
「レベルを上げる。って効果じゃないもんな。限界を上げるんだよな」
これからに期待ってことで、瓶を閉めてポケットに突っ込んだ。
さて、帰るか。
と、きた道を引き返す。光っている神殿はそのままで、外に出るとぼうっと薄暗く光っている魔法陣ーー転移陣はそこにあった。
「一体、なんだったんだ? ここは」
深く考えないでおこう。考えても仕方がないから。
女神像をこれ以上見ることができないことに名残惜しさを感じるが、しかし背に腹は変えられない。お腹が空いては5層から出ることもままならないかもしれない。
まだ余裕の中に地上に帰るとするかと。
再び目を開けると、5層の階段にいた。振り返るが、そこに既に魔法陣は存在しておらず、神殿に行く道は塞がれたと言ってもいい。
だが、それもいいだろう。
まだまだ長い人生とトラベラー歴が待っている。もう一度女神の神殿に行くことを目標にしてこれからを頑張ればいいと、逆にモチベーションになった。
ダンジョンを上る。この辺り、天神ダンジョンの上層には俺の本当に敵になれるモンスターはいない。それも初心者はとっくに抜けているので、初心者階層と呼ばれるここらでつまずくわけにはいかないのだ。
こうして、今日のダンジョンアタックは終了した。
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