第1話 ダンジョン

「銭はな、使わんと意味ないんや」


 同期がそう言っていた。


 ダンジョンは死と隣り合わせであり、そいつは日を跨ぐ金銭は持たない主義だったし、道具などは全て一人で管理し部屋には何もおかない主義だった。


 だから、死んだ後にそいつの部屋に行っても何もなかったし、俺が持っている写真一枚が、彼が生きていた唯一の証明だ。


 政府機関であるダンジョントラベラー育成高等学校の福岡校では年間で1000人以上の入学者を受け入れる。


 まだダンジョンが世界に出現して30年であり、育成学校が設立されて20年の歴史しかない。


 福岡校は九州に唯一である公立の機関であるため、九州を含めずかなりの数の応募者が集まる。卒業すればD級トラベラーのライセンスが発行され、全国各地での活躍を期待できる。


 卒業までいくのは毎年600人ぐらいだと言われており、その実はモンスターとの戦闘で亡くなったり、自身の才能(タレント)に限界を覚え退学していく者など様々である。


 そうして、俺の数少ない友人の一人は、卒業試験中に死んだ。


 それでも、俺はトラベラーを辞めることはしなかった。それ以外に道はなかったからだ。それに、少なからず才能(タレント)があった。俺には卒業するときの福岡校序列50位に入るくらいには、実力があった。


 が、それが実際に稼ぎに繋がるとは言えないのだが。



2031年7月6日 <天神ダンジョン・B6F>


「ちょっと、まってっつえ!?」


 骨に肉が残り、異臭を放っているスケルトンは、その両手に構える両手剣を持って俺に向かって走ってくる。


 振り下ろされて地面がズシンと揺れて、俺は竦み上がる。


 スケルトンがそれを構え直す前に走って逃げて。


 その両手剣に分断された俺の得物がまだ存在していればここで応戦もできたのだが。


「まさか、ここで武器破壊のユニーク持ちが出てくるとは思わないって」


 軽く上層でお小遣い稼ぎをしようとしていた所で、武器や防具など全く準備をしていなかった。

 俺の才能(タレント)は武器強化。装備(と認識)した剣や防具などの耐久値を上げ、切れ味を上昇させる。


 そんな才能があるので、簡単な装備でも低い階層のモンスターは難なく対処できた。

 だが、そう軽く考えてレンタルの初心者用長剣を借りて着の身そのまま突っ込んできたのが仇になった。


 追いかけてくるスケルトンは、俺より全然低いレベルだろう。

 しかし、武器性能の差で負けるとは思わなかった。


 勝てると思って攻撃したのだが。


 そのスケルトンは呪いの装備を身につけていた。人間には呪いとなるが、モンスターにはデメリットはないその武器は持っているだけで脅威となりえた。


 一般的にそれをユニークモンスターという。


 [武器脆弱化]


 今回出会ったスケルトンのスキル。


 俺の強化した武器の耐久を数発剣を合わせるだけで破壊したそれは、見事に今日の稼ぎをゼロにした。


「レンタルだから、返さないと金取られるんだよなぁ」


 スケルトンの装備している呪いの剣は重そうで、身軽なスケルトンの速度を打ち消していた。唯一呪いは効かないが重量は関係があるんだよなと、装備という意味のわからないダンジョンシステムに想いをはせた。


 だから、逃げるのは簡単ですぐに振り切ることができた。

 しかし、自分の手の中にある柄だけになったレンタル長剣を見てため息をついた。


「今日の飲み代がこれで消えたか」


 ポケットに入っている低層モンスターの魔石。

 Fランクのそれを10個売るだけで、一夜の飲み代にはなった。

 だが、今日のそれはこの剣の弁償代に当てられるだろう。


「そうか。今日もコンビニ弁当か」


 コンビニエンストストア。24時間営業の何でも屋。

 最近ではトラベラー用の携帯食料なども扱い始めたらしい。


 第5層にあがる階段。そこの脇に薄暗く光る魔法陣が見て取れた。


「あれは。トラップが作動しているのか?」


 にしては、色が違っている。


 ダンジョンの中に出現するトラップ魔法陣の色は赤が基本である。それ以外は、トラベラーが使う転移魔法陣の青だったり、魔法の才能が使う属性によってカラフルに変わる魔法陣だったり。


 罠魔法陣も効果を発動してなければ見つけることが出来ないことから、

 それは、発動しているのだと思った。


 だが、今目の前にある仄暗いそれは、光り方も形も違和感を感じた。


 それに興味が惹かれたので、少し近づいてみて目を凝らす。


 魔法陣に描かれている魔法言語は、現在解析中。

 未だ一部しか解析されておらず、異言語。


 基本的に読み取れないはずのそれが、今は何故か理解できてしまった。


「よ、う、こ、そ? ーーなんだ!?」


 その瞬間、転移魔法陣に吸収されるような、無重力感を味わって。


 目を開けた時には、5層の階段の目の前ではなかった。


 

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