第4話
「どうしてわかったの?」
啓介が聞くと、その子は少し小馬鹿にしたような目を啓介へと向けた。いや、最初からそういう目だった。「なんにも知らないくせに」と、その視線が否応なしにそう言っている。
それでも啓介は怯まなかったし、カチンとも来なかった。なぜなら啓介が、まだ羽の生えた好奇心を持っていたからだった。いちいち苛立ったり考え込む前に、ふわふわした好奇心に包まれて飲み込まれてしまう。だから頭の中に『ハテナ』がいっぱい浮かぶ。
「どうして喉が渇いてるってわかったの? お店なのにお客さんがいないのはどうして? 覗いちゃダメってなんで? 大人はどこにいるの? あの黒板の絵を描いたのはキミ?」
「うるさい」
いがぐり頭の子は不機嫌にそっぽを向いた。自分も子供のくせに、子供のどうしては聞き飽きたと我慢ならない様子だ——いつの間にか、オニヤンマがまた同じ場所に止まっている。その子の視線はオニヤンマに向けられていた。
「どいつもこいつも、騒がしい奴ばかりでうんざりする」
「どいつもこいつも?」
「そうだよ。どいつもこいつも、もっとまともな質問ができないのか?」
「マトモ——?」
その『まとも』というのはどういう意味なんだろう、と啓介は考え込んだ。うーんと考えを巡らせてもわからないままだし、それを質問したら、いがぐり頭の子は怒るだろう。
頭の中で、『まとも、マトモ』と繰り返して、啓介が口を開いた。行き着いた答えは、いちばん知りたいことを聞いてみよう、という単純なものだった。
「ねえ、どうしてキミは女の子なのに、男の子みたいにしてるの?」
いがぐり頭の子は、それを聞いて目をまん丸にして驚いた。そのいがぐりになった髪を全部立たせたんじゃないかというほどだ。それから、子供らしくない何もかもを知っているような顔をして、じっと啓介を見つめた。
どれくらいの時間だったか、もしかしたら1秒より短かかったかもしれないないし、10分より長かったかもしれない。その子は瞬きしないまま、啓介からオニヤンマへと視線をずらした。
「おもしろい奴を連れて来たな」
今度は啓介が驚いた。それは間違いなく、オニヤンマへ向かって言ったのだとわかったからだった。オニヤンマはしゅっと舞い上がり、いがぐり頭の子の肩へと止まった。
「わかったよ、行っておいで。その代わり無茶なことはしちゃいけない」
その子はそう言うと、ひょいっとまるで手品みたいに銀色のナイフを手にしていた。
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