第2話


 掘建小屋には大きく観音開きになる窓が付いていて、啓介がその開きっぱなしになっている窓枠に捕まってつま先立ちになれば中を覗くことができた。向こうはカウンターになっている。古い使えそうもないレジが置かれたそのカウンターには、落書きみたいな文字や絵がたくさん描かれた使い古しのノートも乱雑に数冊、やっぱり開きっぱなしで置かれていた。


 芯の折れた鉛筆、茶色と白のまだらな色の消しゴム、汚れたピンク色の巻尺、緑色の何かを束ねるための針金、植物を剪定する鋏、手のひらがゴムでできている手袋。ざっと滑るようにカウンターを眺めた啓介は、人が1人いられるだけのスペースを残して向こう側とを仕切る壁を眺めた。


 木でできたその壁には大きな黒板が付いていて、白と黄色の2色のチョークで、いろいろな虫の絵が描かれていた。てんとう虫、蝶々、トンボ、蚊、蜘蛛、カブトムシ。どれも上手に描いてある。


 啓介は喉がカラカラだったことも、汗が額から流れることも忘れて後ろを振り返った。刺すような日差しはまだ空から降り注いだままだったけれど、むくむく膨れ上がった好奇心のおかげで気にならない。少なくとも、ここにいる人は虫好きで、何もかもをきっちりと揃えなさいとうるさい担任の岡崎先生よりもずぼらなようだった——それがまた啓介の好奇心に羽を付ける。



 どうやらここは、ぐるりとさまざまな種類の木で垣根を作って囲われているらしかった。その中にまたたくさんの植物が植わっている。植わっている、というより育ってしまっていると感じた最初の啓介の印象は変わらなかった。


 太陽がそのまま花になったような黄色の花が咲いていたり、美しく滑らかな緑色の葉が茂っていたり、まん丸の可愛らしい紫の花が並んでいると思えば、ラッパみたいな白い花がぎゅっと集まっている場所もあった。


 それなのに、葉の影に蜘蛛の巣だらけで鉢植えがゴロンと寝転がっていたりもする。陶器でできた睡蓮鉢にはメダカとタニシが入っていたけれど、睡蓮の葉をめくらなければそれを確認することができなかった。その奥には小さな丸いガラスの水槽がある。苔むしたその中に何か入っているんだろうか、と啓介が首を伸ばした時。



「お前、そこで何をしている?」


 そう声がして、啓介は飛び上がった。飛び上がった反動で尻餅をつき、慌てて立ち上がって、振り向く——さっきの窓枠にいがぐり頭の子が座り、足をぶらぶらさせて啓介をじっと眺めていた。




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