サーストンの三原則
天野つばめ
サーストンの三原則
若気の至りで散々やんちゃしていた俺も今では立派なマジシャンだ。しかし、先日マジックに使う道具のナイフなどを運搬中に銃刀法違反容疑で取り調べを受けた。飽きるほど補導されたヤンキー時代に世話になった婦警・須田が担当だった。
俺は現在、須田の殺害容疑で取り調べを受けている。須田の上司・日野が俺を尋問した。
「あの日、須田を毒殺した後、お前は逃走したんだろう」
サーストンの三原則というものがある。奇術師は、マジックの種明かしをしてはならない。これから起こる現象を予告してはならない。同じマジックを二度してはならない。元不良らしく、これらの奇術師としての鉄の掟を俺は破ろうと思う。
「ええ、俺が須田さんを殺しました。手の中にあった毒薬のカプセルを瞬間移動させました。トリックはミスディレクションです。俺が3,2,1と数えたら、須田さんの体内に毒が瞬間移動したのです。同じことを今から日野さんにしようと思います」
「馬鹿な!」
右手にカプセルをちらつかせると、日野の眼が釘付けになった。
「3,2,1」
俺が3つ数えた後、日野はもがき苦しんで死んだ。日野が死んだのを確認した後、俺はこっそりと逃走した。
あの日、須田は俺に警察バッジを渡して言った。
「これで瞬間移動マジックを見せてよ。そしたら逃がしてあげる」
須田は日野を憎んでいた。俺を逃がして、上司の責任問題にするつもりのようだ。須田は日野からひどいパワハラを受けていた。その復讐のために。
右手の警察バッジを使って、「3,2,1」と数えて瞬間移動マジックを行った。マジックに集中していた俺は、須田が手に持っていた毒のカプセルを飲んだのを見逃した。須田は最初から自殺するつもりだった。
日野は不祥事をもみ消した。須田を無駄死になんてさせない。俺が復讐する。間抜けな日野は俺が何の準備もなくのこのこと戻ってきたと思ったようだ。
俺が犯行予告を行うと、右手に持った毒薬カプセルを日野は狙い通り凝視した。「3,2,1」と数える隙に、机の下で左手に仕込んだ須田の警察バッジを取り出した。針の部分には毒を塗っておいた。日野の足に毒針を思いっきり刺した。血液中に侵入した毒は、経口接種より周りが早い。
「嘘は言ってませんよ、日野刑事。多少主語は省いてミスリードしましたが」
虚空に向かってつぶやいた。これで須田の無念を晴らした。
だが、あの日俺は思った。須田は俺のことも恨んでいたのではないだろうか。不良だった頃、俺は須田に多大な心労をかけた。いくら更生したとはいえ元は不良だ。そんな俺が成功する中、真面目に生きてきた須田は理不尽に日野に虐げられていた。須田は俺を見てどう思っていたのだろうか。
須田は俺が殺したようなものだ。でも、俺は裁かれない。ならば、俺は殺人犯となってでも須田の本懐を遂げようと思った。俺が真面目に生きようと思えたのは、須田のおかげだったのだから。
そして何より、俺は須田のことを愛していたのだから。
サーストンの三原則 天野つばめ @tsubameamano
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