第2話 迷子の聖女を探しています。




「〈迷子の聖女を探しています〉……なんだこれ」


 人間界の大神殿から戻ってしばらく、魔王の執務室に、小鬼のルークが一枚のチラシを資料の上に乗せて持ってきた。

 俺のつぶやきに、側近のアルヴィンが気だるげに答えた。


「散歩に出かけたままひと月くらい帰ってこないんじゃないですかね」

「俺じゃあるまいし」

「……」

「よし、召喚してみるか」


 俺は立ち上がると、その場で召喚魔法を唱えた。

 左手のひらの中央に魔力を集め、脳内で描いた魔法陣を床に浮かび上がらせる。淡く光る魔法陣に、迷子のチラシを放ると、光が強くなり、紙の端から燃えるように消えていく。すべてが消えると、魔法陣が一際輝いた。


「あら? 魔王さん」


 そこには、ふわりと浮かぶ白い聖衣の女性。

 年の頃は10代後半。金の髪が揺れ、紫水晶のような輝きを放つ瞳の聖女が召喚されていた。

 彼女は俺を見、周囲を見渡し、不思議そうに首をかしげている。

 ここはどこなのかしら、とでも言いたげだが、いきなり召喚されたというのに慌てる様子はない。この聖女、鈍いのか、図太いのか。


「よう、聖女。散歩したまま迷子になったのか?」

「まあ、さすが魔王さん、よくお分かりですのね!」


 キラキラと目を輝かせる少女に、俺はフッと笑い、アルヴィンに口角を上げて見せた。

 どや!


「ほら、見つかったぞ」

「よかったですね」


 アルは遠い目をしてつぶやいた。


「このままだと我々が誘拐したことになりますけどね」




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