第49話 攻撃魔法禁止・呪縛魔法・視覚封印のハンデを背負った状態で戦う試練

「いくぞカストル、お前がどれだけ強くなったのか見せてもらうぞ」 


 僕は走って間合いを詰める。

 

 僕は今、完全に目が見えない状態だ。だが、さっきまでカストルがどこに立っていたかは把握している。剣士にとって間合いは命だ。僕は目を閉じた状態でも相手のとの距離を正確に把握しながら移動する空間把握能力を訓練で身につけている。邪魔さえ入らなければ、目を瞑ったまま見知った王都の道を散歩できる自信がある。


「そこだ! ロードベルグ流剣術04式、”紅斬”!」


 僕の剣が正確にカストルの胴を襲う。


“ガキン!”


 硬い手応え。カストルが剣で僕の斬撃を受け止めたらしい。これくらい防いでもらわなくては困る。


「クソ、なんで見えてないくせに正確に攻撃して来やがんだよ! 今度はこっちの番だ!」


 カストルが反撃をくりだしてくる。目は見えないが、空気の流れと踏み込む足の音でどの技を繰り出して来るかはわかる。


 ましてや相手は、途中で修行を投げ出すまでの間は一緒に修行を受けていたカストルだ。技の選び方のクセはよく知っている。目が見えなくても動きは手に取るようにわかる。


“キン! ガキン!”


 僕はカストルの攻撃を、全て捌き切る。【剣聖】のギフトの力もあって、昔と比べて遥かに一撃一撃が重い。こうして直に剣を交えると、弟の成長をしみじみと実感する。


「クソ、なんで一発も通らないんだよ!」


 カストルの声に焦りが混じる。


 カストルの攻撃が通りにくい理由は、たくさんあるが特に重大なものは2つ。


 1つは、技の選び方が単調であること。


 同じ技を何度も繰り返し出し、それが通らないなら別の技に切り替えてまた繰り返す。それでは、相手の防御を崩すことはできない。


 また、ロードベルグ流剣術には、技から他の技へとなめらかにつながるものがある。そういった技の連携も使って、相手の守りを崩すのが上手いやり方だ。


 2つ目は、技そのものを十分に使いこなせていないこと。


 確かに昔より遥かに威力は増しているが、技を型の通りに繰り出しているだけだ。技は相手との間合いに応じて、微妙に動きを調整してこそ真価を発揮するのだが、カストルはまだその域に至れていない。


 なので——


「ロードベルグ流剣術14式、”無影突”! 21式”左瞬撃”! 22式、”右瞬撃”!」


 僕は、わかりやすいコンビネーション技を繰り出してカストルの守りを崩してみせる。これでカストルも、自分の戦術に気付けるだろう。


 もちろんここで試合を終わらせないように、手加減することも忘れない。


「へへ、何となくわかったぜ。ロードベルグ流剣術11式、”蒼断”! 04式”紅斬”! そして52式、”流水剣”!」


 僕の伝えたいことを理解したカストルが、見事な蓮撃を繰り出す。僕は敢えて半歩技の間合いの外へ出ていたのだが、ちゃんと型を調整することできっちりと技を当ててきた。


 僕は全ての斬撃を防ぎ切ったが、並の剣士なら間違いなく仕留められている。


「すぐに技の連携を使いこなすとは、流石だ。僕がいなくなってからはちゃんと修行してたらしい。……強くなったな、カストル」


「へ? お、俺が兄貴に褒められた……?」


 気配でわかる。カストルは今、完全に放心している。


「べ、別に兄貴に認められたかった訳じゃねぇけどな! だがこれで分かっただろ? 俺は兄貴を超えて、ロードベルグ伯爵家を継ぐのに相応し——」


「だが、まだまだ成長の余地がある。ちょっと本気を出して、ロードベルグ流剣術には、まだまだ先があるということを見せてやる」

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