第50話 調子に乗っていた弟を無限コンボでわからせる
「『本気を出す』だって? 兄貴、まだ本気を出してなかったっていうのかよ?」
「その通りだ」
僕は本気の斬撃を繰り出す。さっきと同じ型だが――
「馬鹿な、威力も鋭さもさっきより桁違いに上がってやがる……!」
カストルの体が。闘技場の壁に叩きつけられる。
「グハッ……!」
カストルは、よろよろと立ち上がる。
「ふざけるな……俺はなんとしても、兄貴を超えるんだ!」
カストルの体から、異質なオーラが溢れ出す。目が見えなくても分かる、これは邪悪な力だ。
「クク、力が湧いてきやがるぜ。あの男にもらった球体、使えるじゃねぇか。命を吸い取るとか何とか言ってたが、その程度安いもんだぜ」
「あの男というのは一体誰だ? カストル、その力は危険だ。早く球体を捨ててるんだ」
「うるせぇ、指図するんじゃねぇ!」
カストルが斬りかかってくる。さっきよりスピードも威力が上がっている。
「これでやっと兄貴と互角になれたぜ」
確かに、互角だ。技の選択と切れ味では僕の方が上だが、カストルは【剣聖】のギフトと正体不明の邪悪な力によってパワーとスピードが僕を上回っているため互角に渡り合えている。僕が呪詛魔法によって体を重くされていることも大きな原因だ。
このまま長引くとカストルの体に悪影響が出るかもしれないな。速攻で片を付けなければ。
「俺は! 今日こそ! 兄貴を超えるんだ!」
カストルが猛攻を仕掛けてくる。気持ちの焦りからか、カストルが大技を繰り出し、一瞬隙が生じる。
――ここだ!
「終わりだ、カストル」
ロードベルグ流剣術14式”無影突”。発動の早い突き攻撃である。剣先がカストルの胸当てを捕らえる。
「21式”左瞬撃”! 22式”右瞬撃”!」
さっきも見せた連続技をカストルに叩き込む。
「まだだ! 08式”瞬連牙剣”! 11式”蒼断”! 04式、”紅斬”!」
「グアアアアァ!!」
連続攻撃を受けて、カストルが大きく吹っ飛ぶ。
――しかし、まだ終わりではない。
「93式”緋空一閃”!」
タメが長いが相手との距離を一瞬で詰められる大技”緋空一閃”を放ち、飛んでいったカストルの着地点に移動しつつ斬撃を当てる。
「グハァッ……!」
体勢を立て直せないカストルに、更に連撃を叩き込む。
「11式”流星斬”! 52式”流水剣”! 88式、”大鮮烈空虹”!」
下から上へ、虹のような大きな円弧を描きつつ切り上げる大技”大鮮烈空虹”を喰らったカストルの体が浮かび上がる。
「そこだ、47式、”衝天突”!」
更に突き上げる一撃で、カストルの体が宙高く舞う。そして、落下してきたところへ――
「14式”無影突”! 21式”左瞬撃”! 22式”右瞬撃”――」
「なぁあれって、最初にメルキスが使った技じゃないか?」
「本当だ! ……ってことは、まだ連続攻撃が続くのか!?」
会場の観客も、気付いたようだ。
・剣の威力が一定ラインを超え、相手の体をある程度吹き飛ばす威力があること
・型通りではなく、連続攻撃のために型を調整して技を放てること
この2つの条件をクリアしたとき、ロードベルグ流剣術は一度相手にガードされず攻撃を当てると、体力の続く限り無限に攻撃することが可能なのだ。
隙のない連続攻撃によって、相手に反撃の機会さえ与えず一方的に攻撃し続ける。これがロードベルグ流剣術の奥義である。僕はこれを、【根源魔法】のギフトを授かってから、村で剣の素振りをしているときに会得した。
ロードベルグ伯爵家にいたときには、父上にそんな話を聞いたことはなかった。これも、『奥義は自分で会得してこそ意味がある。ゆえに、敢えて教えないでおく』という父上の計らいなのだろう。ちなみに、僕が現状見つけているだけでも17種類の技を起点に無限連撃に持ち込むことができる。ロードベルグ流がここまで恐ろしい剣術であるとは思わなかった。
2周ほど連続攻撃を叩き込んだところで、カストルがようやく戦闘不能になった。攻撃の手を止めると、カストルが地面に倒れ込む。
丁度このタイミングで、僕に掛けられていた呪詛魔法の効果時間が切れた。魔力は戻らないが、体が軽くなり目も見えるようになった。
「大丈夫か、カストル? 今助けてやる。さぁ、その邪悪な力の源になっている球を放すんだ」
「嫌だ、これがないと俺は、兄貴に勝てな――」
無理やりカストルから怪しい黒い球を引き剥がすと、カストルの体からさっきまでの邪悪な力が抜けていく。
カストルはそのままぐったりと動かなくなる。やむを得ないとは言え、乱暴な方法で止めたしまったからな。
「王国武闘大会決勝戦、ついに決着です! 圧倒的な戦闘力上昇を見せたカストル選手を、メルキス選手の無限連続攻撃が打ち破りました! 大会優勝者は、メルキス選手です!』
今日最大の歓声が巻き起こるが、今はそれどころではない。
「カストルを早く救護室に! 正体不明の力で命を吸い取られて、衰弱して――」
「それには及びませんよ」
いつの間にか、僕の背後に3人の人影が立っていた。そして全員、人間ではなかった。
「その浅黒い肌と頭の角。まさか、魔族――」
「カストルは魔族の力を体の限界まで使ったことで、体がよく魔族の力に馴染んでいます。これは魔王様の良い核になれるでしょう」
3人の魔族は、魔法陣を展開する。
「「「我ら3人の命を捧げ! この人間を核とし、魔王復活の儀をここに執り行う!」」」
「しまった、カストル!」
魔法陣の光が、カストルの体を包んでいく。そしてその中から、巨大な何かが姿を現した。
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