第42話 武闘大会開幕!
「うわー、たっかーい!!」
僕たちは今、ドラゴン形態になったナスターシャの背に乗って王都へ向かっている。
鳥が飛ぶよりもはるかに高い空を、馬車より速く駆けていく。竜騎士でもなければ本来味わえない光景に、マリエルはとてもテンションが上がっている。
一方のカエデは、いつも通り冷静に地上を見下ろしていた。
「あの〜、私人間を背中に乗せて飛ぶのは初めてなのですが、乗り心地は大丈夫でしょうか〜? もっとゆっくり飛んだほうが良いのでしょうか?」
「ナスターシャちゃんの背中乗り心地最高だよ! もっと高く飛んで! 全速力で!」
「マリエル殿の言う通りです。こんな速度では、主殿が地上から狙撃される可能性があります。もっと高く、早く飛ぶべきです」
「ひいいいぃ〜。無理ですよぉ、これ以上速く飛んだら皆さんを落としてしまいそうで怖いですぅ」
ナスターシャは、涙声になっていた。
「ナスターシャ、安全運転で頼む。このままでも十分余裕を持って王都に着ける。無理はしなくていい」
「わかりました、ありがとうございますメルキスさん〜」
そうして僕たちは、人目につかないよう王都から少し離れたところで地上に降り、そこから王都まで歩いた。
「久しぶりだなあ、王都にくるのは」
およそ数ヶ月ぶりに、僕は王都に戻ってきた。実家を一目見に行きたいところだが、僕は今修行中の身。その欲求をグッと堪える。
王都は変わらず華やかで、人に溢れている。だが、どこか物足りなさを感じる……。
「ここが王都ですか。初めて来ました。人の往来は多いですが、村の方が栄えていますね。村の方が街並みもきれいです」
「カエデちゃん、これでも王都はこの国で一番栄えてる街なんだよ。ただ、村がメルキスのおかげで発展しすぎてるだけで」
しかし、それでも王都には村にないものがたくさんある。カエデとナスターシャは、王都の街並みのあれはなんだこれはなんだとマリエルに質問を投げ続けていた。
そうして歩きながら、僕たちは王都中心にある国立闘技場へとたどり着いた。
円形の闘技場の周囲は、人でごった返している。皆、今日の戦いを見物しにきているのだ。そして中には、武装した人もいる。今日の大会の参加者だろう。
この大会で繰り広げ得られるのは、国内最高レベルの戦い。一般参加枠に出場制限はないが、当然参加しようとするのは猛者ばかりだ。どの参加者からも、迫力と闘志を感じる。
「じゃあみんな、また後でね〜!」
マリエルを来賓席に送り届けて、闘技場内を見て回る。まだ開始までに時間の余裕はあるのだ。
「大会は、当日参加も受け付けてるんだ。ナスターシャ、カエデ。よかったら参加してみるか?」
2人も相当な実力者だ。どこまで村以外の人間相手に実力が通じるか、見てみたい気持ちがある。
「私はやめておきます! 絶対に戦いになんて参加したくないですぅ」
「私も遠慮させていただきます。私の任務は主殿の護衛。大会に参加してしまうと、護衛が疎かになってしまいますので」
「わかった。お、出店が出ているな。これで何か好きなものを買ってくるといい」
僕は2人に小遣いを渡す。
「ありがとうございます。主殿のお気持ち、ありがたく頂戴いたします」
「ありがとうございますメルキスさん。私、あのフワフワした甘い匂いのするお菓子を買ってきます〜!」
ナスターシャが、砂糖菓子をホクホク顔で買ってくる。
だが、
“ドンッ”
別の通りから大男が飛び出してきて、ナスターシャとぶつかる。衝撃で、無惨にお菓子が地面に落ちた。
「あぁ、私のお菓子ちゃんが……!」
ナスターシャが涙目になる。
「おい女! どこみて歩いてんだ!」
「ひいいいぃ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
ぶつかってきた柄の悪い大男が、ナスターシャに怒鳴り散らす。
「待て、ぶつかってきたのはそっちだろうが」
僕は怯えて小さくなっているナスターシャをかばって前に出る。
「なんだと、俺様は大会参加者様だぞ? 今日の主役は大会参加者。その俺様に楯突こうって言うのか?」
「それなら僕も参加者だ。それに、大会参加者でも横暴が許される訳ではない」
「なんだ、テメェみたいなほっそいのも参加者かよ……いやまて、そのツラ見覚えがあるな。思い出した、去年のジュニアクラス優勝者のメルキスじゃねぇか!」
男は僕の正体に気づいて、高笑いする。
「噂は聞いたぜ、ハズレギフトを引いて、父上に辺境の村に追放されたんだってな」
「なんだと?」
僕の中で、溶岩のように熱い怒りが噴き上がる。
こいつは今、父上のことを侮辱した。
こいつは父上を『ハズレギフト持ちと言う理由で実の息子を辺境に追放するような人間の屑』と言ったのだ。
僕の追放は、一人前になるための試練だ。決して追放されたわけではないし、父上は『ハズレギフト持ちだから息子を追放する』ような人間のクズではない。
僕のことを悪く言われるのはいい。だが、偉大で優しい父上を侮辱されるのは、どうあっても許せない。
「なんだ? 文句でもあんのか? あるならかかってこいよ、それでも大会参加者か?」
「……この場で叩き切ってやりたい気持ちでいっぱいだが、闘技場内での私闘はご法度だ。大会で決着をつけよう」
「へぇ、おもしれぇ。お望み通り大会で、観客の前で無様に叩き潰してやるぜ。ギャッハッハッハ!!」
下品な笑い声をあげて、男は立ち去っていった。
「主殿、私が始末してきましょうか? 私の毒であれば突発的な心臓麻痺に見せかけて証拠を残さず始末できます」
などとカエデが物騒な提案をしてくるが、僕は丁重に断っておく。
「本戦まで上がってきたら、必ず叩き潰してやるからな」
「主殿、“本戦”とはなんでしょうか?」
「ああ、説明してなかったな。武闘大会は、16人で戦うんだ。これが本戦。そのうち15人は推薦状をもらった人が参加する。残りの1枠は、予選で大会で勝ち上がった1人が参加するんだ」
「なるほど。今受付をしているのは、その予選大会の参加者というわけですね?」
「そうだ。たまに新人が本戦上位まで勝ち上がったりするから、推薦状をもらえない無名の武人と言っても油断はできないぞ」
この時、僕は思っていなかった。
まさかこの大会で、大会の歴史に名を刻むとんでもない新人が予選大会に参加するなどとは。
「じゃあ、そろそろ本戦参加者専用の観客席に行こうか。付き添いも入れる。ついてきてくれ」
「「はい!!」」
本戦参加者専用の観客席入口前では、騎士団員が受付をしている。
「本戦参加者のメルキスと、付き添い2人です」
僕は受付に推薦状を渡す。
「おお、昨年のジュニアクラス優勝者のメルキス様ですね! 私も去年観戦しておりました。同世代のライバルを寄せ付けない圧倒的な剣技、お見事でした。今年も、凄いものを見せてください」
「ありがとうございます、ご期待に添えるよう頑張ります」
こうして僕らはVIP席へ案内される。
闘技場はすり鉢状になっていて、中央にある平坦な戦場を、高い観客席が囲むという構造になっている。
そして僕らが案内されたVIP席は、一般観客席とは違い広くてボックス席になっている。周りの選手とは直接顔を合わせなくて済むようにという配慮だ。しかも飲み物まで用意されていると言う好待遇っぷりだ。
そして程なくして、開会式が始まる。
『参加者諸君は、持てる力の全てを尽くして〜〜』
国王陛下の開会の挨拶が、魔法で拡大されて闘技場中に響き渡る。後ろにはマリエルとその兄弟、そして親族が並んでいる。王族勢揃いだ。
『〜〜そして、優勝者には王家より、この“宝剣イングマール”を授ける!」
「「「うおおおおおおお!!」」」
国王陛下が優勝賞品である宝剣を天にかざすと、闘技場中から歓声が湧き上がった。
「欲しいなぁ、“宝剣イングマール”……!」
大会の優勝者には、王家より最上級の宝剣が授けられるのが伝統だ。
剣に生きるものとして、質の良い剣は見ると欲しくなってしまう。僕の腰には村人の皆さんにもらった宝剣が既にあるのだが、何本でも欲しくなってしまうのが宝剣だ。
『それでは、予選大会を開始します! 選手入場!』
女性の司会者の声が魔法で拡大されて闘技場に響くと、闘技場に予選参加者たちが入場していく。
「全員気迫は十分だけど、さてどうなるか……まて、あれはナスターシャ!?」
なぜか予選参加者に混じって、さっきまで隣に座っていたはずのナスターシャが入場していた。
「どうして、どうしてこんなことに……?」
そして、ナスターシャ本人もなぜそこにいるのかわからないようだった。
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