第33話 【根源魔法】が進化し新たな能力が覚醒する
王冠を被ったミノタウロスが、猛然と突進してくる。
「発動、”ファイアーボール”!」
火球がミノタウロスの顔に直撃する。だが、
「噓だろ、無傷!?」
王冠を被ったミノタウロスは、突撃の勢いを落とすことさえしなかった。時間稼ぎくらいにはなると思ったのだが、これは完全に予想外だった。
ミノタウロスが、シノビに向かって禍々しい黒色の大斧を振り下ろす。
「させるか!」
僕は剣でその一撃を受け止める。だが――
「重い! なんて腕力だ!」
通常種のミノタウロスとは比べ物にならないパワーだ。受けきる事は諦めて、受け流すことにする。黒色の大斧が地面に刺さる。
「”ローキュアー”!」
一瞬生まれた隙を使って、僕はシノビに状態異常回復魔法を掛ける。状態異常回復魔法をかけ続けなければ、シノビは間違いなく力尽きてしまう。
”ギィン! ギィン!”
王冠を被ったミノタウロスが繰り出す超重量級の攻撃をいなしつつ、生まれたわずかな隙にシノビに回復魔法を掛ける。
ミノタウロスに全く隙が無いわけではない。だが、状態異常回復魔法を掛ける手間で、僕は攻めに転ずることができずにいる。
「このままだと、防戦一方だ……。一体どうすれば……!!」
――――
メルキスと王冠を被ったミノタウロスの戦いを、遠くから見守る影があった。
メルキスの父親ザッハークと、魔族の男だった。
「フフフ。我らの最高傑作”キングミノタウロス”は、耐久性・パワー・スピードの全てが通常種を遥かに超える。流石のメルキスも、手も出ないようですね」
「最初に小型モンスターの群れで消耗させたのも効いているだろう。くく、いい気味だ。良いぞミノタウロス、そのままメルキスを切り刻め!」
キングミノタウロスが大斧を振るい、メルキスはそれを見事な剣技で全て受け流している。だが、反撃に転じることができずにいる。
その様子を見て、ザッハークと魔族の男は『メルキスはキング・ブラックミノタウロスに手も足も出ない』と判断した。実際は、シノビを助けるためにメルキスは一瞬手が空いた隙に回復魔法を使っているのだが、遠く離れたところから見ているザッハーク達にはそれが分からないのだ。
「王都を落とすための戦力、小型モンスター1万とミノタウロス100体が消えてしまいました。これは痛い。フフフ、ですがあれだけの戦闘力を誇るメルキスを潰せたのなら、安いものでしょう」
「ようやくメルキスを叩き潰せる。ハハハ! ハッハッハッハ! くたばれぇ、メルキス!!!!」
勝利を確信したザッハークの叫びが、森に響く。
「ザッハーク伯爵。あまり大きい声を出すと、メルキスに聞こえてしまうかもしれませんよ」
「構うものか、奴はもう虫の息。聞こえたところでどうにもなるまい」
2人は、完全に勝利を確信していた。しかし――
――――
僕とミノタウロスの死闘が続いている。
僕はミノタウロスのの攻撃からシノビをかばい、更に定期的に回復魔法”ローヒール”を掛けている。だが、流石にそろそろ魔力も体力も限界が近い。押し切られそうだ。
「ここまでか……?」
シノビに回復魔法を掛けるのを諦めたなら、何とかミノタウロスに反撃ができる。そうすれば、勝てるはずだ。
僕が倒れれば、次の瞬間ミノタウロスはシノビを殺すだろう。シノビだけ助ける方法はない。2人とも死ぬか、僕だけ生き残るかしか、道はない。
「メルキス殿。私などに構ってはいけません……私に回復魔法を掛けるのはもうやめて、戦いに集中してください……」
意識を取り戻したシノビが、弱々しい声で言う。
「私は満足です。最後に、私をここまで思ってくれる人がいたのですから……。助けていただいて、私は本当に嬉しかったです。私と違って、メルキス殿が倒れれば悲しむ村人が沢山いるはずです。村もまた、廃れてしまうでしょう。メルキス殿は、こんなところで倒れてはいけません」
確かに、まだまだ村は発展途上だ。僕がここで死んでしまえば、村は衰退してしまうかもしれない。感情に流されず冷静に判断を下すならば、ここは僕1人でも生き延びたほうが――
僕が諦めかけた、その時だった。
『メルキス!!』
どこか遠くから、はっきりと父上の声が聞こえた。
「……そうだ。遠い実家から父上が見守ってくれているんだ! こんなところで諦めるわけにはいかない!」
たとえ距離が離れていても、父上が僕を応援してくれる気持ちだけははっきりと伝わる。僕は、父上に最初に教わった家訓を思い出す。
――ロードベルグ伯爵家の教え其の1。『どんな逆境でも、絶対に。絶対に諦めるな!』。
「そうだ、僕は諦めない。ロードベルグ伯爵家の一員として! 絶対に! 絶対に諦めない!」
心が奮い立ち、体から力が湧いてくる。その時だった。頭の中に声が響く。
『使い手の精神的成長により、【根源魔法】が進化しました。新たな能力が覚醒します』
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