第26話 ネコ獣人達を助けて感謝される
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――お祭りの翌日。村のあちこちでは、煙が上がっている。
交代で番をしながら、鶏肉をあぶってスモークチキンやジャーキーに加工しているのだ。
昨日食べきれなかった鶏肉は、これで長持ちする。加工している人たちは、みんな食べる時をたのしみに笑顔で手を動かしている。
「た、助けて欲しいのニャー!」
そんな時、村の門の方から悲鳴が聞こえる。聞き覚えのない声だ。この村の住人の悲鳴ではない。
「誰かがモンスターに襲われています! 助けに行きましょう!」
僕は鶏肉の加工をしていた冒険者さん達と一緒に、村の門の方へ向かう。
門の前では、小さな沢山の人影がモンスターに襲われていた。大きさは子供程度。服を着ているが、二足歩行するネコそっくりの姿をしている。
「獣人族の一種、キャト族か! 話に聞いたことがあったけど、本当にネコみたいだ」
そのキャト族に、巨大なモンスターが襲い掛かる。
トロール。成人男性の倍以上の体長を持つ、巨大な二足歩行モンスターだ。手にした棍棒をキャト族の1人めがけて振り下ろす。
”パシンッ”
タイムロットさんが一瞬で間合いを詰めて、片手で棍棒を受け止める。
「お前さん、獣人かい? 噂で聞いたことはあるが、初めて見たぜ!」
トロールの棍棒を掴んだまま、タイムロットさんが吞気に話し始める。
「人間さん! お話してる場合じゃないニャ! まずはトロールを何とかするニャ」
「トロール? ああ、こいつか? こんなモンスター、気にしなくても大丈夫だぜ」
タイムロットさんが話している間にも、トロールがもう一度棍棒を振り下ろそうとする。だが、タイムロットさんがしっかりと棍棒を握っているので振り上げられない。
棍棒を何とか取り上げようとトロールが全身の力を込めるが、ビクともしていない。
「ト、トロールを片手で完封してるニャ? 人間さん、どういう腕力してるニャ……?」
「ん? 雑魚モンスターの攻撃を片手で止めるなんて、普通のことじゃねぇのか?」
タイムロットさん達は、最近感覚がおかしくなっている。
”グオオオォ!”
トロールが怒りの咆哮を上げる。そして棍棒を手離し、素手でタイムロットさんを殴ろうとするのだが……。
「うるせぇな、今話してるだろうが」
タイムロットさんの斧が、一瞬でトロールの胴を両断する。
「に、人間さん強すぎるニャ……!」
森の奥から、更にトロールが出てくる。1体のトロールが、村の若い冒険者さんに後ろから襲い掛かる。
「人間さん、後ろニャ! 後ろにトロールがいるニャ!」
若い冒険者さんは、腰の剣に手を掛ける。
「人間さん、早く避けるニャ! 避けないと、トロールに潰され……あれ、何が起きてるニャ?」
トロールの動きがピタリと止まる。そして、体の各部に、いくつもの横線が入っていく。積み上げたコインが倒れるように、バラバラとトロールの体が崩れていく。
「ま、まさか一瞬でトロールを何度も斬りつけていたのニャ……? 全く! 全く見えなかったニャ!」
僕には、若い冒険者さんがトロールに十連撃を叩き込み、剣を納めるまでの一連の動きがはっきりと見えていた。それも、瞬きの間のような一瞬の出来事だったが。
森の奥から、まだまだトロールが出てくる。どうやら、群れで行動していたらしい。
「す、数十体はいるニャ! みんな逃げるニャ! あの数で囲まれたら勝てっこないニャ! もうおしまいニャ!」
「ネコさん達の言うとおりですぅ! もうおしまいです、勝てっこないですぅ!」
キャト族さん達にまじって、ナスターシャも絶望していた。ドラゴン形態に戻った君の方が遥かに強いんだけどなぁ。
「落ち着いて下さい。大丈夫ですよ。僕が片づけます、皆さん下がってください。発動、”ファイアーボール”!」
特大の火球がトロールの群れの中心に突っ込んで、大爆発を起こす。爆発に巻き込まれたトロール達は、跡形もなく消滅した。森にはいつもの静けさが戻る。
「戦闘終了。もう大丈夫ですよ、皆さん」
「人間さん、ありがとうございますニャ!」
キャト族の皆さんはそうお礼を言って……。
「駄目ニャ。お腹が減ってもう力が入らないのニャ」
倒れてしまった。
――――――――――――
「生き返るのニャ~! このお肉、とっっっっても美味しいのニャ!」
「一週間ぶりのお食事が、体に染みるのニャ~!」
「生きていて良かったのニャ!」
スモークチキンやジャーキーに加工しようとしていた昨日の肉をふるまうと、キャト族の皆さんはとても美味しそうに食べる。肉球のついた手で器用に食器を使っている様子は、見ているだけで心が癒される。
「ありがとうございましたニャ! 生き返りましたニャ!」
キャト族の皆さんが丁寧に頭を下げる。可愛い。
「僕らは”ミケ商会”。キャト族で作った商会で、あちこちで物を売ったり買ったりして商売をしているのニャ! ただ、1週間前にモンスターに襲われて、荷物も資金も全て失ってしまったのニャ……」
「一週間の間、逃げるだけで精一杯だったのニャ」
尻尾と耳がしゅんと垂れ下がる。
「もうだめだと思っていたのですが、確かこの辺りに村があったことを思い出して、すがる思いでやってきたのニャ!」
「まさかこんなに大きな村があるとは思わなかったのニャ! こんなに立派な村なのに、話を一度も聞いたことがなかったのニャ! 不思議ニャ!」
「それはそうだよ! この村が大きくなったのは、ここ数か月の事なんだからね! それも全部、私の婚約者メルキスのおかげだよ」
マリエルが得意げに胸をそらす。
「ええ! 数カ月で村がこんなに大きく発展したんですかニャ!? 信じられないニャ!」
「せっかくだから、この村を案内してあげるよ! さぁ、ついて来て。絶対に驚くんだから!」
「ニャハハ。ボク達はこの大陸のあちこちを旅して、色々な物を見てきましたニャ。それに、今日はもう沢山驚いたので、これ以上驚くことなんてないですニャ」
しかしキャト族のそんな余裕は、あっという間に消し飛ぶのだった。
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