第25話 村で祭りを開く~突然変異モンスターの肉は涙が出るほどおいしかった~

 捕まえた突然変異コカトリスを全て小屋に収納し終えて、いよいよさっき僕が倒した”超巨大コカトリス”の解体に移る。


 突然変異コカトリスの飼育を始めて、村の皆さんのお肉に対する期待は最高に高まっている。口にはしないが、『早く鶏肉を食べたい!!』という思いがヒシヒシと伝わってくる。


「ああ、早く鶏肉が食べたいです! もう待ちきれません……! ジュルリ」


 そして、思いを口にする人もいる。お肉大好きシスターのリリーさんだ。


「今日は祭りを開いて、村人みんなで腹いっぱいになるまで食べましょう!」


「腹いっぱい・・? いいんですかい領主サマ!?」


「聞いたかみんな! 新しい領主様は太っ腹だぞ!」


「お肉料理なんて、普段1週間に1品食べれたら良いほうなのに……夢みたいです!」


 村人の皆さんが歓喜の声を上げる。お肉大好きなリリーさんに至っては涙ぐんでいる。


 村のみんなで協力して、超巨大コカトリスを村の広場に運び、羽をむしり、解体していく。


「領主様、むしった羽はどうしましょうか?」


「これだけ大きくて綺麗な羽なら、何かしら使い道がありそうです。空いている納屋にしまっておいてください」


「了解しました!」


 超巨大コカトリスの解体は、”刻印魔法”で強化された村人さん達でも一苦労だった。何しろ、解体した手羽などの1つのパーツが、牛1頭と同じかそれ以上に大きいのだ。


 超巨大コカトリスの解体が終わり、料理を始められるようになったのは夕方になってからだった。


 料理の腕自慢の主婦の皆さんが、腕によりをかけて鶏肉を調理していく。今日食べきれる分は普通の料理に、それ以外はスモークチキンなどの保存食に加工していく。


「駄目よ、村中のかまどを使っても料理が間に合わないわ! お肉の量が多すぎるわ!」


「それでしたら、私も炎でお肉を焼くのを手伝いますねぇ~」


 ナスターシャが、ドラゴン形態になってブレスでお肉を焼いていく。


 暗くなり始めた広場に、村人の皆さんが自宅から持ってきてくれたテーブルがずらっと並ぶ。その上を、鶏肉料理が埋め尽くす。


「図書館に料理の本があって良かったわ! おかげでいろんな料理が作れたもの!」

「いろんな種類の野菜が使えるのも嬉しいわ!」


 テーブルの上には、いろとりどりの料理が並んでいる。そのどれもが美味しそうだ。


「みんな準備はできたよね? それではメルキス祭りを開始しまーす! カンパーイ!」


「「カンパーイ!!」」


 マリエルが音頭をとると、僕以外の全員がコップを突き上げる。


「待ってマリエル! 祭りに僕の名前を付けないで……!」


「いいじゃんいいじゃん! そんなことより、メルキスもお肉食べよ!」


 マリエルが、焼いたモモ肉を僕の口に突っ込む。


「モゴ! ……美味しい!」


「よね! 普通のニワトリよりもずっとジューシーな気がする!」


 王宮で高級な料理を食べなれているはずのマリエルも、笑顔で鶏肉を頬張っている。それほど美味しい鶏肉だった。普通のニワトリよりもずっとジューシーな気がする。


「俺、一回でいいから肉だけで腹を膨らませてみたかったんだ!」


「普段は硬くなったパンで鶏肉をサンドしてるけど、今日だけは逆にパンを鶏肉でサンドするぜ! ああ、最高の贅沢だ~」


「やりますね! では私は、揚げた鶏肉を焼いた鶏肉でサンド! これが最強の鶏肉料理です!! いただきます! 美味しい!!」


「馬鹿な、そんな反則的な……!?」


 リリーさんが他の村人に張り合って謎の鶏肉料理を誕生させている。本当にお肉が好きなんだな……。


 村人達が楽しそうに鶏肉を食べているのを見ると、僕も嬉しくなってくる。


「こうして鶏肉を思う存分食べられるのも、新領主様のおかげです。新領主様最高―!」

「領主サマバンザイだぜ!」

「ありがとう領主様~!」


 村人のみんながお礼を言ってくれるのは、いまだに照れくさい。


 鶏肉料理をたっぷり食べて腹が大分膨れたころ、広場の端の方で何かがぶつかる音が聞こえ始めた。


「どりゃあー!」

「なんの!」


 村の冒険者たちが、模擬戦用武器を使って戦っていた。


「お祭りの途中でも訓練ですか。みなさん、凄い努力家なんですね……」


「いや、俺たちは腹を空かせるために体を動かしてるだけですぜ!」


「え?」


「こうして体を動かせば腹が減る! そしてまた鶏肉を美味しく食べられる! 訓練はそのついでってわけです!」


 そう言いながら冒険者さんたちは楽しそうに剣を振るう。


「なるほど、その手がありましたか……!」


 話を聞いていたリリーさんが、その場でスクワットを始めた。村のみんなを回復魔法で治療していた時と同じくらい、真剣な顔をしている……!


「メルキス、私達も運動しよう!」


 と言いながら、マリエルが借りてきた訓練用の剣を振り下ろしてきた。


 不意を突かれたがマリエルのパラメータは普通の女の子程度なので、余裕でかわせる。『マリエル、王女としてもっと節度をもった行動を……』と言おうとして、僕はやめた。


 せっかくのお祭りなのだ、僕も羽目を外して楽しもう。


「やったなこのー!」


 ハンデとして僕は剣の代わりにフォークの柄を使って、マリエルとチャンバラを始める。当然、身体能力強化魔法は使わない。


「頑張れ領主様~!」


「マリエル様も負けないでー!」


 村人達の声援を受けながら、僕とマリエルは何度も木製の剣とフォークをぶつけ、笑いあう。こんなふうにマリエルと思いっきり遊んだのは、一体いつ以来だろう。


 こうして、最高に楽しい夜は更けていった。

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