第27話 ネコ獣人が村の仲間に加わる

「よし、じゃあ私がキャト族の皆さんに、村を案内してあげよう!」


「よろしくお願いしますニャ!」

「楽しみですニャ!」


 マリエルが意気揚々とキャト族の皆さんを引き連れて歩く。


「まずは、昨日新しくできたばっかりのニワトリ小屋!」


「二、ニワトリがむちゃくちゃ大きいですニャ!?」

「鶏肉を食べるどころかボクたちが食べられちゃうニャ!」


 キャト族の皆さんの尻尾が跳ね上がる。 


『コケー!』


 突然変異コカトリスが威嚇の叫びをあげる。


「これ、本当にニワトリですニャ?」


「正しくは、突然変異したコカトリスだよ。ほら、目から光線が出るでしょ。あれに当たると石化しちゃうから気をつけてね」


 僕はさっきから、マリエルとキャト族に向けて放たれた石化光線を剣で弾いて守っていた。


「なんか目から光線が出ていると思ってたけど、あれに当たると石化するのニャ!? 危険すぎるのニャ!! そんな危険なモンスターを家畜にしてるのニャ!?」


 『これ以上驚くことはないニャ!』と言っていたが最初から驚いている。


「大丈夫大丈夫。村の人たちは、あんな光線当たらないくらい強いから。ほら、村のみんなは手の甲に紋章が入ってるでしょ? ”刻印魔法”って言って、メルキスに魔法で刻印を入れてもらうと、メルキスの命令に逆らえなくなる代わりに、全パラメータが跳ね上がるんだ。すごいでしょ!


「なるほど、それで村の人間さんはあんなにお強いのですニャ! とんでもない魔法ですニャ!」

「普通の人間をあそこまで強くできるなら、本気で取り組めば国を1つ落とすことも可能なんじゃないかニャ……?」


 ちなみに、村の住人で刻印を刻んでいないのは、ナスターシャだけだ。ナスターシャは、人間形態でさえ刻印で強化された村人以上のパワーがある。そこへ刻印の強化をしてしまうと、力加減ができず村の施設を破壊してしまうだろうということで、刻印を刻んでいない。


「じゃあ次は、畑を見せてあげよう!」


 マリエルが、畑へキャト族の皆さんを案内する。


「なんで野菜がこんなに沢山、しかも季節外れのモノまで実っているのニャ……?」


「これも、メルキスの魔法の力だよ!」


「メルキス様の魔法は、刻印魔法だけじゃないのニャ? メルキス様、底が知れないのニャ……!」

「それにしてもここの野菜、美味しそうだニャァ……!」


「そして次は図書館!」


 マリエルが、キャト族の皆さんを引き連れて図書館へ向かう。


「な、なんで辺境の村に図書館があるのニャ!?」

「図書館なんて、王都中心にしかないはずなのニャ!」


「これもね、メルキスが作ってくれたんだよ」


「なんて領民想いな領主様なのニャ……」


「いえいえ、僕は領主として当然のことをしているだけですよ」


「全然領主として当然、の域を超えているニャ! この大陸をあちこち旅してきたけど、こんなに領民思いの領主様は他にいないニャ! 今日一番の驚きニャ!」


「だろ? 俺たちの自慢の領主様はすげぇだろ?」


「そうだよ、私の婚約者はすごいんだよ!」


 さらに得意げになったマリエルは、村中あちこちを案内して回るのだった。


――――――――


 1時間後。


「し、信じられないのニャ! 村を囲む高い高い土の壁! 村中の植え込みに咲いている綺麗な花! 遊具の充実した公園! 大きな家が立ち並ぶ綺麗な街並み! こんな美しい村は見たことないのニャ!」


「まるで楽園なのニャ! ……分かったニャ! ボク達、さっきトロールに殴られて死んだのニャ! ここは、死後の楽園なのニャ! そしてメルキス様は僕らを楽園に案内してくれた神様の使いなのニャ!」


「その通りです。メルキス様は女神アルカディアス様の使いなのです。さぁ、共にメルキス様を崇めましょう」


「リリーさん、話をややこしくしないで下さい」


 シスターのリリーさんは、一体どうしたら女神アルカディアス様の使いでないと分かってくれるのだろう。


「そういえば、冒険者ギルドはまだ見せてなかったね。ここはメルキスが来てからまだ何も手を加えていない施設だけど、見ていって! きっとそのうちここもすっごく綺麗で立派な施設に生まれ変わるんだから!」


 マリエルが、キャト族の皆さんを冒険者ギルドの中に案内する。確かに、まだ冒険者ギルドの改築は手をつけられていない。寒くなる前に、まずボロくなった建屋でも立て直しておきたい。


「ニャニャ!? これはなんですかニャ!?」


「ああ、それは売れないモンスターの素材入れですよ。モンスター毛皮や爪など、服や防具に使える素材は売るんですが、買い取ってもらえない素材はそこに放り込んで、ある程度溜まったらまとめて捨てに行くんですよ」


「も、もったいないニャ! 鹿モンスターイービルディアの角やゴブリンの骨は、国によっては薬の材料として高く買ってもらえるのニャ!」

「あ、スライムからたまに取れる結晶石もあるニャ! 特殊な儀式魔法を使うために必要だからこれも高く売れるニャ!」

「探せば、まだまだお宝がありそうニャ!」


 キャト族の皆さんが素材の山を掘るのに夢中になる。


「おう、まだまだ冒険者ギルドの奥に素材があるぜぇ」


 タイムロットさんが、素材の箱を担いで持ってくる。


「おおー、これはすごい量ですニャ!」


 キャト族の皆さんは目を輝かせていた。


「まだありやすぜ!」


「ニャ?」


 他の冒険者さん達も手伝って、奥からどんどん素材の詰まった箱を出してくる。キャト族の皆さんが鑑定するより箱が増えるほうが速いので、小柄なキャト族の皆さんの体が見えなくなるほど箱が高く積まれてしまった。


「こ、こんなにですかニャ……?」


「全部で恐らく、300いや400万ゴールドはありますニャ……」


「そうだ、外にも買い取ってほしいものが置いてあります」


「こ、今度は一体何が出てくるんですかニャ……?」


 キャト族さん達が恐る恐る外に出る。


「少し待っていてくださいね」


 僕は、冒険者ギルドの裏手に立てかけておいたミノタウロスの斧を持ってきて見せる。


「なんですかニャその異常に大きい斧は? 冒険者ギルドの看板につける看板ですかニャ?」


「いえ、ミノタウロスの斧です」


「ニャ―!?」


 キャト族の皆さんが全員尻尾を逆立てて驚いた。


「ミミミ、ミノタウロス!? そんな大物を倒したんですかニャ!?」

「信じられないニャ! 王国騎士団数十人でかかってやっと倒せるバケモノニャ!」


「ミノタウロス如き、領主サマが出るまでもねぇ。俺たちだけで十分倒せるぜ。それにな、ミノタウロスには実は簡単な倒し方があるんだ。ミノタウロスの弱点は首か胴体! ここを狙うんだ。首か胴体を叩き斬ってやれば、一撃で倒せるぜ!」


「「「それが簡単にできれば誰も苦労しないのニャー!」」」


 キャト族の皆さんが叫ぶ。


「ミノタウロスの斧は、ボク達も見るのは初めてですニャ。ミノタウロスの斧は、大きすぎて人間の武器としては使えないのですが、”ダマスカス鋼”が含まれているので、高く売れるのですニャ」


 ダマスカス鋼。伝説級レア金属の1種だ。ダマスカス、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコン、そしてヒヒイロカネ。


 どれも希少かつ強力な武器が作れるため、偶に市場に出た際にはかなり高い値段がつくという。


 僕も1人の剣士として、伝説級金属で作られた武器を手にしてみたいという思いはある。が、その日はまだまだ遠いだろう。僕は剣士としても領主としても、まだまだ一人前には程遠い。


「いやー、まさかミノタウロスの斧をお目にかかれる日が来るとは。夢にも思って――」


「あ、まだありますよ」


 僕は裏からミノタウロスの斧を運んできて、ダルタンさんの前に置く。


「ニャ!? に、2本目のミノタウロスの斧!?」


「まだ有ります。3本目」


「ニャニャ!?」


「4本目」


「ニャニャニャ!?」


「5本目」


「ニャニャニャニャ!?」


「6本目」


「ニャニャニャニャー!?」


――――


 最後の13本目を持ってくるころには、キャト族の皆さんは驚き疲れてぐったりしていた。


「この村にいると、常識がぶっ壊れてしまいそうなのニャ……」

「トロールの棍棒を片手で受け止めるのが普通に思えてきたのニャ……」


 キャト族の皆さんも、そろそろ常識が捻じ曲がり始めてしまっている。


「メルキス様、1つお願いがありますニャ。どうか、ボク達をこの村に住ませて欲しいのニャ!」


「ボク達はこの大陸中を旅して、色んな国との取引をしてきましたニャ! この村をこれから大きくするためのお手伝いができるはずニャ!」


「それは願ってもない申し出です。よろしくお願いします」

 

 僕はキャト族の皆さん1人1人と握手をする。キャト族の肉球はひんやりしていて、触り心地がとても良い。


「いいね! これまで、村の外部との取引は私が全部王宮にいたころのツテのある商会を通して行っていたけど、やっぱりこれから村を大きくするためには、貿易の専門家がいたほうがいいからね」


「お任せください! 物の取引はボク達の専門分野! この村で採れたモンスターの素材をあちこちで高く売って、大陸中から珍しいものを仕入れてきますニャ!」


 実に頼もしい。キャト族の皆さんの力は、この村をこれからさらに大きくしていくために必ず役に立ってくれるだろう。これまでガラクタとしか思っていなかったモンスターの素材も、キャト族の皆さんなら高く売って来てくれるという。これで村の収入は更に増えるだろう。


「ところで領主様、1つお願いがありますニャ! ボク達にも、他のみんなと同じように刻印を付けてほしいのニャ!」


「それはできません。あの魔法で刻印を刻むと、魔法の使い手である僕の命令に逆らえなくなる というとても大きなデメリットがあって……」


「「「構いませんニャ! ボク達は領主様のことを信用しているのニャ!」」」


 キャト族の皆さんが、声をっそろえてまっすぐな目でそう言った。


「……分かりました。では、刻印を刻みましょう」


 キャト族の皆さんの小さな手の甲に、小さなロードベルグ伯爵家の家紋が浮かび上がる。


「おおー! 村の皆さんとお揃いの刻印ニャ! カッコイイニャ!」

「力がみなぎってくるニャ!」

「この力があれば、移動が速くなって仕事の効率も跳ね上がるニャ!」


 キャト族の皆さんが、喜んで飛び跳ねる。とてもかわいい。


「よし、ちょっと本気で走ってみるニャ!」


 そう言った瞬間、キャト族の皆さんの姿がかき消えた。村の道を、風のように走り抜けていく。


「すごい速度だな……」


 強化されたキャト族の皆さんは、人間の村人さん達以上の速度だ。


「聞いたことがあるよ。キャト族は、脚が速い獣人種。馬を使わず、自分の足で走って高速で商品を届けることで有名だって」


「ハイですニャ。運送速度は大陸最速だと自負しておりますニャ。獣人族の走るスピードは、馬より早いのですニャ!」


 キャト族の皆さんが胸を張る。かわいい。


「それが刻印魔法でおよそ10倍の速度になったということは……」


「ハイ、今までの10倍の速度で取引を進められるのですニャ! いっぱい村の特産品を売って、いっぱい村のお役に立つものを買ってきますニャ!」


「では早速、さっきのモンスターの素材を売ってきてください」


「「「了解しましたのニャ!」」


 そう言ってキャト族の皆さんが、素材の入った箱やミノタウロスの斧を持って、すごい勢いで出発していった。


 こうして、村にまた新しい仲間が加わったのだった。



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