第3話 思い立ったが吉日?
「えっ、5限目休講になったの?」
「うん。なんか先生が体調不良らしくて。次の土曜に希望者に向けて振り替えだってさ。」
僕は、級友からそんな話を聞いた。
体調不良は誰にでもある事だから仕方ないが、今日提出する予定だったレポートにはそれなりに力を入れていたので、肩透かしを食らったような気分である。
「裁貴は出る?振り替え授業」
「うん、多分ね」
「相変わらず真面目だなー」
彼は欠伸をしながらそんな事を言った。
僕からしてみれば、わざわざ奨学金を借りて受けている授業を逃すなど、勿体ない事この上ないのだ。
「ま、ボクはもともと出席日数足りてないから出るしかないんだけどさ」
「サボりは良くないよ」
僕は彼とのそんなやり取りの後、教室を出た。
今日はこの授業で大学での用事は終わりだった。
だからこのままさっさと帰っても良かったのだが……風がほとんどない割に過ごしやすい気温で、天気も良いとなるとどこかに寄り道したい気分になってくる。
「そうだ、確か奏多って木曜は4限までだっけ」
僕はスマホを取り出すと、メッセージアプリを開いた。
奏多とのトーク画面で文字を打ち込む。
『5限目休講になったから、この後一緒に映画見に行こうよ!』
この間、西町から出された宿題を僕は忘れていなかった。
学校のすぐ近くにあるショッピングモールに、中規模の映画館があるのだが……そこで彼がお勧めしてくれた恋愛ものの作品が上映されているらしいのだ。
このところ僕も奏多も忙しく、お互いの都合が合わないことが多かった。
一緒に出掛けるなんていつぶりだろうか。
僕は大学の正門の脇で、わくわくとしながら奏多からの返事を待った。
ピコン、と軽快な音と共に返事が届く。
『ごめんね、今日はゼミの用事があって…』
『また今度で良いかな?』
画面に表示されたそんな文面を見て、僕は肩を落とした。
正直、すごく残念だったが……先約があるのならば仕方がない。
実際に近々研究発表か何かがあるらしく、家にいる時もPCに向かって作業をしている奏多の姿をよく見ていた。
だから僕は、素直に『了解』という意味合いのスタンプを送った。
今期放送中のニチアサヒーローのレッドが力強くサムズアップしているスタンプが画面に現れる。
その隣に既読の文字が表示されるのを確認して、僕はスマホを鞄にしまった。
予定は立たなかったが、この後が暇である事に変わりはない。
……どうせなら、一人でもショッピングモールに行ってみようか。
奏多は忙しそうにしながらも、いつも家事をきちんとこなしてくれている。
僕が手伝おうかと言っても、笑顔で大丈夫、と返すのだ。
確かに家事上手とは言えない自覚はあるけれど、それにしても僕は彼女に頼りすぎな気がする。
たまには奏多にも楽をさせてあげたいと、そんな事を思った。
料理……は自信がないので、夕飯は何か出来合いのものを買って帰ろう。
確かあのショッピングモールには、以前奏多が美味しいと言っていたシュークリームのお店もあるはずだ。
洗濯と簡単な掃除くらいなら、僕にだって出来る。
とにかく、善は急げだ。
そう思った僕はすぐに正門を出て、目的地へと足を進めたのだった。
Fiori e Mascherata はるより @haruyori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Fiori e Mascherataの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
仮面と桜/はるより
★0 二次創作:銀剣のステラナイツ 完結済 11話
関連小説
柁一の苦手な食べ物の話/はるより
★0 二次創作:クトゥルフ神話T… 完結済 1話
一等星/はるより
★0 二次創作:クトゥルフ神話T… 完結済 1話
毘薙㐂/はるより
★0 二次創作:クトゥルフ神話T… 完結済 1話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます