第14話 マサムネは横帆と縦帆の特性の違いを説明する
マサムネが次にマリーナに停泊する【バンシー】のシーンを映し出す。
「そしていよいよマリーナに到着して預けてあるバンシー号とご対面ってわけだ。帆船はマストの数と帆の張り方で種類が分けられるんだけど、スループ船っていうのは1本マストのヨット型帆船で、メインセールがスパンカーっていう台形の縦帆の船だね。
スパンカーは見ての通り、帆布の上と下が
一般的なヨットの帆は操作しやすい
──バンシー号キタァ──!!
──スパンカーか。覚えとこ..._〆(゜▽゜*)
──すっきりした船だね
──素敵すぎる
──ヨットとしては大きいね。全幅5㍍、全長15㍍ぐらいかな?
──スパンカーという名前は知らんかったけど、この形の帆はシップ型帆船の一番後ろに付いてるイメージ
──……
「そうだね。シップ型帆船の一番後ろの帆は基本的にスパンカーなんだけど、この場合は推進力というよりスパンカーを風の抵抗に利用して舵取り補助として利用するのが主な役割になるから、
ついでだからサンファンに停泊中の主な帆船についても説明するよ。ちょっと映像出すから待ってね」
──マサムネの説明は痒いところに手が届く
──歩幅を合わせてくれる感じ
──気遣いが素敵すぐる【投げ銭】
──好きぃ!!
──ちょうど知りたかった情報だわ
──……
駐留艦隊の主力艦である50門ライナー艦、40門重フリゲート艦、30門軍用コルベット艦の立体映像が映し出される。
「駐留艦隊の主力艦のライナー、重フリゲート、軍用コルベット。これらは全部シップ型帆船と呼ばれるタイプの船だよ。特徴としては船首から船尾まで甲板上に構造物や段差がない平甲板スタイルで、マストの数は3本。真ん中の一番高いマストがメインマスト、その前にあるのがフォアマスト、メインマストの後ろにあるのがミズンマストだ。
メインマストとフォアマストには船体の左右に張り出した帆桁に四角い帆が張ってあるね。この船体の首尾線に対して直角に張る帆が
一番後ろのミズンマストにはさっき説明したドライバーとしてのスパンカーが下に張られていて、その上に横帆が張られている。これがシップ型帆船の基本的な
――なるほど。帆船といわれて真っ先にイメージするこの形がシップなんだ
――シップの語源はこれか
――船=Shipだと思ってたけど、この艤装スタイルがShipだったのね
――うーむ。勉強になるわ
――ガレオンはまた違うんかね?
――……
「ガレオン船はシップ型の原形にあたる船で大航海時代後期に活躍した船だね。ガレオン船を改良したのがシップ型なんだ。ガレオン船は軍ではもう使われてないけど、民間ではまだ使ってる場合もあるから映像で見比べてみようか」
マサムネがライナー艦以外の映像を消し、代わりにずんぐりとしたガレオン船の立体映像をライナー艦の隣に映し出す。並べてみればその違いは明らかだ。
「甲板がすっきりしているシップ型とは違って、ガレオンは船首と船尾が高くなっていて、あとミズンマストの帆がスパンカーじゃなくて斜めの帆桁に大きな三角の帆をつけた
――なんかずんぐりしとるね
――精錬されたデザインのシップ型に比べると野暮ったいな
――ラテンセールの前半分を切り落とせばスパンカーだな
――曲線が多いな
――……
「このガレオン船の高くなった船首
ライナー艦とガレオン船の立体映像が消され、次に同じく3本マストで、シップ型と同じくメイン、フォアマストには横帆が張られ、ミズンマストには横帆が無く大きな縦帆が張られている船の映像が映し出される。
「前2本のマストが横帆で一番後ろのマストだけ縦帆になっているこのタイプはバーク型だね。足が速くて運動性も良くてそこそこ重武装出来るから
──見るからに速そう
──プライベーティアって公認海賊なんだっけ?
──ジャンが正式な軍属って言ってたよね
──バークに追われたらスループで逃げきれるんかね?
──……
「プライベーティアは戦争中に国から敵船拿捕許可証を発行されて敵国の通称破壊をする雇われ海賊だね。普通の海賊は捕まったら処刑されるんだけど、軍属のプライベーティアは捕虜としての権利が認められているんだ。それが海賊との一番の違いだけど、ぶっちゃけやってることは海賊そのものだね。戦争が終わったら敵船拿捕許可証は無効になるんだけど、海賊行為に味をしめてそのまま海賊になっちゃう奴も多いらしいよ。
もしバークの海賊船に追われたら、追い風だとまず逃げられないから、風上に逃げる感じかな。ロッコも言ってたけど風上に切り上がる能力だとスループは最強だからね」
──風上に切り上がる?
──そもそも帆船って風上に向かって走れるの?
──ごめん。よくわからんかった
──帆船って追い風受けて航行してるんちゃうの?
──そこもうちょいkwsk
──……
「ああ、そうだね。風上への切り上がりは帆船を語る上での最重要項目みたいなものだからちゃんと説明しなきゃね。ちょっと小道具準備するから待ってね」
マサムネがディスプレイを操作して、目の前に30㌢ぐらいの長さの涙型の氷の塊を出現させてそれを手に取る。
「はい、ここに涙型の氷があります。この氷を尖った方を下にして、両手で持ちます。そしてこれを握る手に力を込めると……」
すぽーん、とマサムネの手から氷が上に飛び出す。
「……とまあ、こんな感じに氷は上に移動したわけだけど、今、俺はこの氷を下から押したわけじゃないよね? 横から力をかけたら、横向きの力が氷の太い方から細い方に流れて、結果的に氷を上に押す力になったんだけど、ここまではオッケー?」
──すごい実物教育!
──分かりやすっ!
──マサムネ先生!
──おけおけ
──なるほどなるほど
──……
「船の海面より下の部分は基本的に涙型を縦に割ったような形していてね、船首側が太くて、船尾に向かうにつれてだんだん細くなるんだ。つまり、船は横からの力がかかると前に進むように出来てるわけだね。
帆船は風の力を推進力にするわけだけど、帆の角度を調整することで、やや向かい風でも横向きの力にすることができる。そして横からの力は船体の形状によって前に進む力に変わる。この向かい風を受けながら進んでる状態が“風上への切り上がり”ってわけ」
──あ、納得
──すげえ! アホの俺でも理解できた
──ほう! そういうことか
──さすムネ♪
──あー、そういう風に力学が働くわけか
──帆船って意外と高度なメカニズム
──……
「そして、ここで
だから縦帆船の【バンシー】は横帆船のバークに追われた場合、追い風だと追い付かれちゃうけど、風上に切り上がれば逃げきれるってことだね」
──なるなるっ!
──よく分かりました
──マサムネ君マジで教師向き
──教えるの上手やなー
──バンシー最高やん
──……
【作者コメント】
話のストックが尽きたので連続投稿はここまでです。次話以降は書き上がり次第アップしますので、更新通知が受け取れるよう、まだの方はぜひフォローしてくださいませ。
いつも応援、感想メッセージ感謝です。
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