第4話 プロローグ④野郎共、しっかりアタシについてきな!

「俺もこの選択肢は慎重に選ばないといけないなーと思うよ。この決定が確実にターニングポイントになるだろうからね。『牛がいなければ牛小屋は綺麗だが、牛がいなければ豊作は見込めない』ってことわざもあるからね」


――収支のバランスを考えろってことか

――メリットとデメリットを比較検討しろってことね

――難しくて分からない

――牛ってなに?

――開示されてるデータにないリスクが心配

――……


「そう。開示されてないリスク、そこをよく考えておかないといけないんだ。ゲーム内を一つの現実と考えるなら、当然発生する経費もあるからね。あと通貨とか度量衡の単位とかも知っておかないとね。ということで、開示されているデータを一通り分析してみたよ」


――さすムネ

――運営の罠回避

――この準備の良さが成功の秘訣

――さすがやな

――勉強になるわー

――……


「まず通貨について。このペソはスペインの銀貨でこの時代の基軸通貨だね。歴史背景調べると、この時代の金貨、銀貨は金や銀の含有量によって価値が変動してたんだ。スペインはアメリカ大陸のアステカ文明を滅ぼして奪った大量の金銀があったから、それで鋳造したダブルーン金貨とペソ銀貨は金銀の含有量が高くて信頼されていたんだ。それに対して他国、特にフランスの貨幣は財政難の立て直しの為に何度も水増しされてるから信用度最悪みたいでね、同じ銀貨でも価値がぜんぜん違うから気を付けなきゃいけないね。他国の貨幣も流通してるみたいだから」


――両替の時に気を付けなきゃいかんのか

――いつの間にか交換レート変わってたりするか

――ミシシッピバブルってこの時代だっけか?

――フランス革命は?

――ピースオブエイト

――……


「おお、さすがによく勉強してる人もいるね。そう、フランスの財政難はミシシッピバブルの影響も大きいね。それとイギリスの南海バブルもこの時代の出来事だし、スペイン継承戦争もあったから政治も経済もしっちゃかめっちゃかで、その混乱に乗じて海賊が大暴れしていたのがちょうどこの時代なんだ。ピースオブエイトは1ペソ銀貨の別名だね。ペソより下の単位でレアル銀貨ってのがあるんだけど、1レアル銀貨8枚で1ペソになったから、1ペソ銀貨を1/8に分割して1レアルとして使うこともよくあったみたいで8つの欠片ピースオブエイトと呼ばれることもあるんだ」


――ほーん

――8レアルで1ペソって中途半端だな

――大海賊時代ってやつか

――下手に他国の貨幣には手を出さん方がいいな

――逆手に取れば稼げるが恨まれそう

――金貸しはやめとけ

――……


「そうね。俺も堅実に可能な限りダブルーン、ペソ、レアルだけを使ってやっていきたいと思うよ。信用にも繋がると思うしね。で、このペソの価値だけど、港湾労働者が朝から夕方までしっかり働いて貰える相場がだいたい1ペソと思えばいいかな。船で雇う水夫もだいたいそんな感じで、水夫長とか航海士や船長はその能力に応じて交渉するって感じかな。幹部だけを固定で雇い入れて、水夫は航海の都度募集するのが普通みたいだね」


――なるほど。人件費はしっかりかかってくるわけだ

――人を何人乗せるかも大事なんだな

――乗せてる連中の食費もかかるよね

――船重視は地雷じゃね?

――コスト管理大事だな

――……


「俺も船重視は地雷だと思うね。せっかくいい船を手に入れても資金に余裕がないとそのポテンシャルを十分に発揮できるとは思えないし、いい船は1日あたりの最低コストもけっこうかかるからね。それに大砲も火薬も砲弾も自分で買わなきゃいけないわけだし、天下布武の金銭感覚からすると最初期から上限一杯の大砲は現実的じゃないと思うんだよね」


――それなっ!

――火縄銃ですら揃えるの大変だった

――大砲を積んだら船も重くなってスピード落ちるよな

――最初から海賊デビューするんでないならそこまで重武装いらんくね

――そうなるとやっぱりバランス重視か

――……


「そうだね。俺もバランス重視が一番いいと思ってる。まあ、交易しないで始まりの町で無難に生きていくだけなら資金重視でもいいかなって思うけど、やっぱりせっかくだから西インド会社目指して成り上がっていきたいからね。まずはスループ船から始めて、事業の拡大に合わせて船を乗り換えたり増やしたりすればいいかなと思ってるんだ」


――うんうん

――いいと思う

――スループから始めるサクセスストーリー

――資金重視だと1日1ペソ生活でも80年余裕

――無難ではなくベストを選んだマサムネ

――がんばれー! 【投げ銭】

――俺なら資金重視で引きこもるわ

――……


「さてさて、これで一通りの初期設定は終わった訳だけど、この初期設定に合わせてサミエラ・ゴールディという人物のバックグラウンドストーリーが自動的に生成されて、初回ログインの時にアバターにインストールされるんだってさ。どんな物語になるか楽しみだね。あと、女性アバターにはサポート役の男性NPCが一人付いてくれて、初期資金でも少しボーナスがあるってことだけど、それはまだ詳細は分からないから始めてみてのお楽しみってことだね」


――イケメン希望

――イケオジがいいなー

――ここはショタで

――幼馴染み男子

――普通に考えてとーちゃんじゃね?

――ボーナスってなんだろ

――いよいよ始まるな

――wktk


「なんとかサービス開始前に初期設定終われたね。あと1時間ぐらいで全サーバー同時スタートだから、それまで時間の許す範囲で質疑応答受け付けるよ。ゲーム始まったら質問には答えない、というか中からはチャットのチェックはできないからね。質問も当然全部は対応できないから目についたやつだけ答えていくけど選ばれなくても気を悪くしないでね」


――楽しみすぎる

――歴史が始まる

――バックグラウンドストーリーは俺たちはいつ知れるの?

――大砲っていくら?

――……


「バックグラウンドストーリーは、そうだねー、最初にログアウトした時に詳しくは説明するけど、一応中でNPCとの会話や独り言で自然に伝わるように出来るだけ努力するよー。大砲は……いくらするんだろうね? あまり高すぎないことを願うよ」


――マサムネのリアル性別どっちなん?

――楽しみだなー

――マサムネはマサムネという性を超越した存在だ

――どうやってキャラ演じ分けてるの?

――……


「リアル性別は内緒だよー。その方が楽しめるでしょ? 演じ分けというか、ゲームの中ではあくまでも前世の記憶のあるそのキャラクターとして生きてるから演じてるという感覚はないなー」


――前世の記憶持ちの異世界転生ロールプレイ

――正しい意味でロールプレイしてるわけだ

――今回のマサムネコの生体素材データは販売される?

――気の強い赤毛の嫁ほすぃ

――……


「サミエラの生体素材データは、早くもいくつかのバイオ研からオファーは来てるけど、まだしばらくは保留だね。ゲームの方をしばらくやってキャラクターの個性が完全に固まってからじゃないと、見た目はともかく内面的な個性の再現性下がっちゃうからね」


――このプロ意識よ

――見た目だけ寄せてもただのドールだからな

――わかりみ

――ファンとしてよりリアリティの高い生体素材データを待ってる

――……


 そんな感じでチャットのログから適当に拾い上げて答えながら時間が流れ、【West India Company】のサービスの開始時間が迫ってくる。


「さあ、そろそろ時間だからフォームチェンジするよ」


 マサムネの姿が一瞬でサミエラ・ゴールディに変わる。


――サミエラ姐さんキター!

――姐さぁぁん!

――姉御!!

――サミィちゃんかわゆす!

――サミエラきたぁ!

――おらワクワクしてきたぞ

――始まるぞ

――……


「よぉーし、行くよ! 野郎共、しっかりアタシについてきなぁ!」


 不敵な笑みと共に片手の拳を突き上げたサミエラの姿にチャットが一斉に沸き立ち、マサムネのバーチャルマイルームからサミエラの姿が消えた。


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