第32話
サーティーと私は食堂へ向かった。
「卿様はお客様です。好きなものを食べて下さい」
ここの食堂は自分で好きなものを取る形式になっている。
かなり広い。ナールガモンの僧院の食堂の数倍の広さがあることだろう。
ご馳走が目の前にたんまりと広がる光景。
生まれてこの方26年、初めて見る景色であった。
(もう、この日のために生まれてきたと言っても過言ではないな、、、)
私は目の前に広がる酒池肉林に飛びつく。
(まあ、正確には肉は食べないが。)
(というか、これを托鉢無しで手に入れるここの
気になることがありながらも、私は一心にドレッシングを野菜に掛ける。
(こんなに味の付いてそうな色のドレッシングは初めて見るぞ。紫色にしては食欲をそそる。)
一心不乱に食事を取ろうとする東方の僧を見る少女たち。
その視線はかなり痛かったが、その時ばかりはそんな痛みにも耐えることが出来た。
後ろにいたはずのサーティーが私の傍らにそーろりと近づいてくる。
ツンツン
彼女は私の脇腹を突付いて笑顔を見せた。
「楽しそうで何よりです」
私は細い目を目一杯開いて答える。
「本当にここまでしてもらっていいのか?何か裏がありそうで怖、、、いや嘘だ。今はもう食事のこと以外は考えられない」
サーティーはくすくす笑った。
「ところで、、、あそこに見えるは例のアムリタ様じゃないですか?」
「!?」
サーティーの言葉で我に返る。
黄金の食器棚の向こう、確かにその緑髪が豪快にフリフリしているのが見える。
彼女は視線を感じたのか食事から目を放し顔を上げた。
口周りにはベッタリとソースが付いている。
(うっ)
私はあの日、ナールガモンを出た日のことを思い出した。彼女の口周りに着いた血を思い出して、吐き気がする。
同時に、アムリタと目が合ってしまった。
椅子から豪快に立ち上がり、その優雅な緑色のドレスを翻して私の方に靴の音を立てながら歩いてくる。
その肩の上がり様、そして前屈みの角度から、大方の感情は推察できる。
にしても気分が悪い。あの時は平気だったが、ここでは直立するのも精一杯であった。
「大丈夫ですか?卿様?」
私の様子の変化を察知したのか、サーティーが聞いてくる。
ああ、大丈夫だ。
サーティーはボソボソと独り言を呟いた。
何かのおまじないだろうか?
(ん?)
みるみる気分が良くなる。気がつけば私は吐き気などを忘れてしまっていた。
「ありがとう。助かった...」
「ちょっと!!私の卿に何してるのよ!」
「はい?」
サーティーは思っても見なかったアムリタの言葉に疑問符を打った。
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