第19話
少年の服装は顔以外の全身を隈なく覆う黒い布。腰につけた短刀は六日前に見たそれと同じだ。
私は警戒を解くことなく、少年に尋ねた。
「出会い頭には名を名乗れ、小僧」
「そんなに心配しなくてもいいよ、お坊さん。君の可愛いお連れさんは、しっかりそこで僕らのことを監視している」
(アムリタが?私が夜な夜な修練をしていることに気がついていた?)
「それにここで君を襲ってももう遅い。
「おい、俺の言葉が聞こえなかったのか?名前を名乗れと言っているんだ」
私は動揺を取り繕いながら大きな態度を示す。少年が敵であるとわかっている以上、緊張を緩めることはできない。
「酷いな~、これでも頑張って遠路はるばる付いてきたのに。まあ、役割ぐらいは果たさせてもらうよ」
私は黙って少年の方をじっと睨んでいる。
少年はとうとう語りだした。私は掌に力を入れながらも、彼の話に耳を貸した。
「僕がここに来たのは他でもない、君に合って話をするためなんだ。あの怪物から言えない情報もあるからね、それを補完するために僕はここにいる。安心して、君たちが僕らを襲わない限り、君たちをを襲うようなことはないよ」
私は少年のその態度に違和感を感じている。アムリタのことを怪物呼ばわりする少年には余裕さえ感じられる。
「まず、君が再三聞いてきた僕の名前だね。僕はイスマイルだよ。君の名前はもう知っているよ。王卿、ああ失礼、王礼明だね」
(こいつ、どこから俺を付けていやがった。東方の命名文化まで知っていやがる。)
「あの怪物の正体を教える前に、僕らの正体を教えようと思う。これは君のためなんかじゃないよ。君が認知しておくことは僕らのためにもなるんだ」
私はイスマイルの言うことの意味がよくわからなかった。
「僕らは『ナーリン教団』。ずっと西の方、砂の大地で生まれた宗教共同体なんだ」
私は僧院の中に暮らしていながらも、その名を一度か二度聞いたことはあった。アーシャが話していた「異民族」とは彼らのことを指すことが多い。「ナーリン」という言葉の響きは、この土地の人々の耳には残り辛い。
私のはっとした顔を見てか、イスマイルは少し笑った。
「おっと、その反応を見ると、名前には心当たりがあるようだね。うん。君が僕たちについて知っていることを何でもいいから教えてくれないかな」
深呼吸して、私は問いに答えた。
「ああ、知っているとも。近頃、活発になっている異民族のことだろ」
「足りないよ。足りない、足りない。もっと知ってるんだろ?君は求法僧なんだろう?」
私は答えるのを
一つ溜息を
「ナーリン教団の別名は死者の教団だ。お前たちは一度死ぬことによって、それが洗礼と見做される。彼らは死人だが、俗世との交わりを断つ者は少ない。死人として生き、果ては死人として死ぬ。そうすることによって、お前たちは初めてあの世に行ける、言い換えれば、本物の生を得られると思っている。そうだろう」
私は知っている情報を洗いざらい吐き出した。イスマイルには全て見透かされているような気がしてならないのだ。
「大正解だよ、、、どうして
イスマイルの物悲しい笑顔を見た。そこには一人の狂信的な信者の顔と一人の理知的な少年の顔が同居している。
「話にはまだ続きがあるよ」
イスマイルは話を続けた。
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