第18話

アムリタが寝入ったのを見計らって私は技術の修練を始める。

夜の間は移動ができない分、時間を有効に使わなければならない。


四十歩ほど離れたところで關刀なぎなたを振るう。

一振り、二振り、三振り。

どれも、盛期の半分の巧にも満たない。

(これも年か。)

私はもう一度、素振りをする。

風を切る音がやけに涼しくて、優しくて。

自分ではない誰かが振るっているような感じがしてしまう。



かすかに、ほんの微細に草が揺れる音。

自然ではない、人の手によって揺れる音。




(誰かがいる!?)

私は慌てた。

(アムリタ、、、ではないか。彼女特有のオーラは感じない。)

呼びかけるか私は躊躇ためらった。アムリタが昼間に言っていたことを頭に反芻はんすうさせる。

『どこにでもいるわよ。別に私が気にしてもしょうがないわ。でも、卿は気を付けてよね。人質になんて取られちゃったりしたら面倒だから。』


少しだけ身が震えるのを感じた。

夏の夜の暑さが感覚を蝕む。


(このまま少しずつ退いて、アムリタのもとへ戻ろう。)


構えの姿勢を作りながら足を引こうとした。



そのとき、草むらからかがんだ少年が現れるのを目視した。

その黒いシルエットは夜目にも克明に映る。



「おやおやおやおや、練習を邪魔してすまなかったね」

少年は笑いながら私に近づいてくる。

「安心して、君に危害はかけない。そんなことしても、意味ないことはわかっているしね」

その不気味な小さい少年に気圧されている自分がいる。

「僕の正体を、まだ完全には把握していないようだね。僕とて無策で君の前に出て来たわけではない。…流石に気づかれるとは思いもにもよらなかったけれどもね」



月の光に照らされて、少年の顔があらわになった。

美麗、というより麗という言葉が似つかわしい、生意気な小僧の顔が。

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